堕落する日和
気付けば俺は姉ちゃんの部屋どころか、家からすら飛び出してしまっていた。
最後に見てしまった姉ちゃんの拒絶と侮蔑が入り混じった瞳……それを思い出すと居た堪れなくなってしまう。
どれだけ走ったのだろうか……ふと気が付くと周囲は全く見たことのない景色へと変わっていた。
「ここ……何処だ?」
目の前には見慣れない廃墟があった。
その薄ら寒い光景に一瞬帰ってしまおうかという考えが頭をよぎる。
しかし、最後に見た姉ちゃんの瞳がそれを許してはくれなかった。
あの目に晒されるくらいならば、この場所で一夜を過ごした方がマシだと考え直して中に入る。
中に入ると外観からは想像もつかないほどに綺麗な広間、そして何故かその中央には天蓋付きの豪華なベッドがあった。
ベッドの天蓋を通して誰かがそこにいるシルエットが見える。
この廃墟のような建物の住人だろうか?
そう思って近づいた時だった。
その人物はベッドから降りてきて俺の姿を見るとニコリと笑う。
「ようこそ、僕の城へ。
待っていたよ、日和」
そう……その人物は俺がよく知る少年、側衛であった。
◇ ◇ ◇
「そう……そんなことがあったんだ。
よしよし、可哀想に」
俺はベッドに腰掛けて側衛に全てを打ち明けた。
こんな馬鹿な話、普通は絶対に出来ない。
でも、側衛なら笑って受け入れてくれる気がした。
そして、その予感は間違いではなかった。
側衛は項垂れる俺の頭を優しく撫でてくれた。
「俺が悪いのは分かってるんだけど……」
「何言ってるの!
姉弟のスキンシップぐらいで怒るお姉ちゃんが悪いんだよ。
ねぇ、日和……そんなお姉ちゃんは捨てて僕の弟にならない?
僕なら君のどんな願いも受け止めてあげるよ」
「側衛……何を言っ!?」
顔を上げて側衛の方を見る……すると、そこに側衛はおらず、裸の姉ちゃんがいた。
「私なら貴方の理想の姉になれるわ。
なんでも言う事を聞いて甘やかしてくれる姉に。
何処を触っても怒らずに受け入れてくれる姉に。
ほら、触ってみて」
姉ちゃんはそう言って俺の手を持って露わになった自分の胸を触らせる。
その感触は先程の服越しとは違う……何処までも柔らかく吸い付いてきた。
走り続けて流れ着いた場所に側衛がいて、いつの間にか姉ちゃんに変わってて、その姉ちゃんは裸で触らせてくれて……こんなの夢に決まっている。
どうせ夢ならば……
「なる……俺、姉ちゃんの弟になる……」
姉ちゃんの胸の谷間に顔を埋めながら答える。
「ふふ……嬉しいわ。
これからは私が日和を受け止めてあげる。
日和もお姉ちゃんに何かあったら守ってね」
「うん……俺、姉ちゃんのこと絶対守るよ。
だから、もっと……」
「あらあら、甘えん坊さんね。
いいわ、好きなだけ甘えなさい」
こうして俺は……稲葉日和という人物は堕ちる所まで堕ちていったのだった。
日和視点はここまでです。