日和、化かされる
お知らせ:ジャンルをコメディからアクションに変えました。
それに伴い、あらすじが追記されています。
2022/08/30 誤字報告受け付けました。
いつもありがとうございます。
意外にも側衛は見た目に反してキビキビとした様子で稽古を受けていた。
突きや蹴りも鋭く、俺よりも才能があるんじゃ無いかとヒヤヒヤする部分もあった。
しかし……
「日和〜ここの動きが良く分からないから教えてよ」
などと頼ってくれるところがあった為に、自分の方が長くやっているプライドは失わずに済んだ。
「その型はここをこうやっ……」
「あ〜だめだめ。
そんなんじゃ分からないから直接教えてよ。
ほら、前に日和が先生に教えてもらった時みたいにさ」
「あれ?それって先週の話だろ?
なんで側衛が知って……」
「何でってその時僕も一緒にいたでしょ?
道着がないから見学してたじゃん」
「……そうだったな。
えーっと、それじゃここをこうして……っ!?」
そう言いながら側衛の腕と腰を持つ。
女性と見間違わん体つきに思わずドキリとして顔を背けたのだが、その先には側衛の結んだ髪から覗き見えたうなじがあった。
こいつ……本当に男なのか?
いや、触った時に感触はあったし……などと、葛藤していると、いつの間にか側衛が俺の顔を覗き込んでいた。
「どうしたの?
僕の可愛さに参っちゃった?」
「ば、バカ言うんじゃねぇよ。
俺のタイプはもっと肉付きが良くてスタイル抜群な大人の女性だ。
お前みたいなガキンチョ……ましてや同じ男なのに興味なんてねぇよ!」
「そっか〜残念だな。
僕は日和に興味があるんだけど」
「え?それってどういう……」
「あ、もうそろそろ終わりの時間だよね」
「そうだな、今日はここまでにしておこう。
日和は次回はもっと集中して行うようにな」
「は、はい。すいませんでした」
師匠が苦笑いを浮かべながら忠告してきたので素直に謝る。
「やーい、怒られてやんの」
「側衛のせいだろ!?」
「まぁまぁ、ほら……可愛い僕が腕組んで帰ってあげるから機嫌を直して」
そう言いながら黒いワンピース姿の側衛が俺の腕に絡み付いてきた。
「男同士でこんな事したら変に思われるだろ」
「僕はどこから見ても女の子にしか見えないから平気だって。
可愛い彼女連れてて羨ましいって思われるだけだって」
そう言われてふと想像してしまった。
側衛をこうやって連れて歩いている自分の姿を。
側衛の言う通りに周りは羨ましがるかもしれない。
それは姉に対して失恋している状態の、自分の心を満たしてくれる魅力的な行いに思えた。
「し、仕方ねえな。
その代わり危ないからしっかり掴まってろよ」
「やったー!
日和は優しいね」
そうやって俺の腕に頬をすり寄せてくる側衛がとても可愛く魅力的に映る。
こうして側衛を連れて帰り道を歩いたのだが、周りの大人達は殆どの人は微笑ましそうに、一部の男は羨ましそうな視線をこちらに送ってくる。
それは自分が考えている以上の優越感をもたらしてくれた。
そして、偶然にも側衛の帰る道は俺と全く同じ方向であった。
そうして歩いていると……
「あ、俺の家……ここなんだ」
自分の家にたどり着いていた。
「そうなんだ。
僕はもう少し先の方だからここでお別れだね」
「あっ……そうだな」
するりと腕から抜け出した側衛を名残惜しく思ってしまう。
「……家まで送っていくよ」
先程までの温もりを思い出して、ついそんな事を言ってしまう。
「ありがと、優しいんだね。
でも……今日はここでお別れだよ。
またね、日和。
グラマーなお姉ちゃんにもよろしく」
「っ!?」
側衛はそう言うと俺に顔を近づけて頬に軽くキスしていった。
俺は驚きのあまりに声が出せず、思わずキスされた頬を触る。
その一瞬のうちに気が付くと側衛の姿は何処にも無く、ただ頬と腕に側衛がいた感触を残すのみであった。
「なんなんだよ……一体」
側衛の姿が見えなくなると、急に今日あった事が現実かどうか分からないような感覚に陥った。
確かに今日一日、共に行動していたはず。
それなのにそんな感覚に陥るなんて……まるで……
「狐に化かされた気分だ……」
そう呟いて帰宅するのであった。
始めた当初は本当に変身ものは添え物程度の予定だったのですが、あらすじにもある通りに途中から考えついた少女の存在が全てを変えてしまいました。
コメディ要素はありますが、メインでは無くなったので変更という事とさせて頂きました。
今後ともよろしくお願いします。