側衛の道場入門
「つまり、君はこの道場に入門したいと」
「うん、ここで学ばせてください!」
「しかし、この道場では女性の弟子は取っていないのだよ」
「え〜お姉さんも女の人だよね?
それなのに女性を相手にしないっておかしくない?」
言われてみれば確かにそうだった。
この道場の跡取りではあるのだろうけど、師匠は女性なのに学んでいるな……何で今まで疑問に思わなかったんだろうか?
「……そうだな。
私という例がいるから、それは不公平なことかもしれない。
だが、それと君の入門を断る話は別であろう」
「あ〜あ、大人って汚い言い回しで誤魔化そうとするから嫌だよね。
じゃあ、とっておきの秘密を話しちゃうけど……僕、男だよ」
側衛の発言に師匠が目を見開いてこちらを見る。
そんな師匠の疑問に答えるように俺は頷いた。
「側衛の話は本当です。
こいつ、こう見えて男なんですよ」
「そうだったのか……それならば最初からそう言ってくれれば良かったのに」
「僕はおかしい事はおかしいって言う主義だからね。
それで男だったら入門を認めてくれるの?」
「その前に一つ尋ねたいのだが、君が武道を学ぼうと思った切っ掛けは何なのだろうか?」
「見て分かる通りに僕ってこんなに可愛いでしょ?
だから、変な人によく絡まれるんだよね」
「自分の身を守るためという事かな?」
「まぁ、そういう事かな。
別にここで学んで誰かをぶちのめそうとか、そんな物騒な事は考えてないから安心してよ」
師匠は側衛の真意を探るように瞳を深く覗き込んでいる。
「分かった、入門を認めよう」
深く頷いてそう答える師匠。
「やった、やったー!
これも日和のお陰だよ」
その瞬間に日和は喜びながら俺に抱きついてきた。
「うわ、ちょっ、離れろよ」
「ええ〜しょうがないなぁ」
そう言って側衛は俺の顔を見ながら離れていく。
くそ……こいつは男だって分かってるのに、何でドキドキしてるんだよ。
「それでは道着……は今は用意が無いので今日は見学で……」
「先生、何言ってるの?
僕は最初から道着を着てたでしょ?」
は?そんな筈は……
そう思って側衛を見ると、いつの間にか道着に着替えており、髪は後ろで縛ってあった。
「日和も最初から僕が道着を着ていた所は見てたでしょ?
ほら、先生も日和も思い出してよ」
……最初に会った時から確かに側衛は道着を着ていたな。
こいつはなんてやる気のある奴なんだと感心した覚えがある。
「そう言えばそうだったな。
君は最初から道着を着てここにやってきていたな。
それならば問題なく稽古に移れるだろう。
早速今日の稽古を始めようじゃないか」
「はい!」
「はーい」
こうして、新しい門下生を加わり、いつもよりも楽しく稽古を受けることが出来たのであった。