本人達にイチャついている自覚はない
妙に上機嫌な店員さんに案内された席は、厨房に近い距離であり、奥まって周りから目立たない場所であった。
「ここなら周りの目を気にしなくて済みそうだね」
「ああ、運が良かったな」
「あ、口調!
ここではちゃんとするって決めたでしょ?」
「そうだったね……気を付けるよ」
女の園に入る事もあり、店内に入る前に女性らしい言葉は出来なくても、せめて男言葉はやめておこうと決めておいた。
今後のことも考えるとこうして練習して習慣づけるのは大事なことだろう。
お互いに頷きながら荷物を置いて席に着くと、店員さんがシステムを紹介してくれる。
私達はそれに了承すると、店員さんは厨房の方に戻っていった。
「それじゃ早速取りに行こうよ」
「いえ、荷物の見張りはしておくべきよ。
私が見てるから、日向が先にとってきていいわ」
「え〜それじゃ2人で来た意味が無いじゃん。
2人でわいわい言いながら選ぶのが楽しいのに……」
「そう言われると……」
私の言葉にどうしたものかと悩む素振りを見せる真守。
そんな私たちの救いの手を差し伸べてくれたのは先程の店員さんであった。
「ここからなら席の様子が確認できるので、良ければ私が見ていますよ。
お客様はどうぞ気にせずにスイーツ選びを楽しんできてください」
「いいんですか?」
「日向、流石に悪いよ」
その言葉に飛び付いた私を真守が咎める。
しかし、店員さんはマスク越しからも分かる極上の笑顔で
「遠慮しないでください。
お客様の喜んでいる姿を見るのが私の楽しみなのですから……その為でしたら調理しながら荷物の様子を見るくらいは苦でもありませんよ」
と返してくれた。
「……遠慮しすぎる方が悪いみたいてすね。
申し訳ありませんが、お言葉に甘えさせていただきます」
「だめだめ、真守。
こういう時は謝るんじゃなくてありがとうって言うんだよ」
「そうだったね……ありがとうございます」
「ありがとうございます、お姉さん」
真守は褒めるように私の頭を少し撫でてから店員さんに向かって頭を下げた。
それに合わせて私も店員さんに向けて頭を下げる。
「はうっ!?」
頭を下げてて様子は分からなかったが、店員さんの苦しそうな声が聞こえてきた気がした。
慌てて顔を上げたのだが、店員は変わらない笑顔でそこに立っていた。
「あれ……気のせいかな?」
「どうかしたの?」
「いまお姉さんが苦しそうな声を上げたような……r
「気のせいですよ。
ええ、ええ……仲の良さそうなお二人の様子を見て幸せを感じているだけですので。
お客様の喜びは私の喜びですから、苦しいことなんて何一つもありませんよ」
「気のせいだって……それよりも早く取りに行かないと迷惑になっちゃうよ。
ほら……」
そう言って真守が手を差し出してくる。
「えっと……えい!」
握るべきどうするべき迷った私は真守の腕を掴む事にした。
「それじゃ、エスコートよろしく」
「はいはい、それじゃ行きますよ……姫さま」
こうして私達はウキウキの気分でスイーツ選びに向かったのであった。