母の気持ち
本日5話目です。
キリが良いので本日はここまで。
長い口づけの後、どちらからともなく顔を離す。
私を映す真守の瞳は熱っぽく……恐らくは私も同じような眼をしているのだろう。
まだ一緒にいたい、もっとキスしたい…….そんな欲望が身体の奥底から湧いてくる。
その一方で頭の中の冷静な部分が、真守は早めに帰るって言ったのだからこれ以上遅くなるのは良くないと忠告してくる。
どうしたら良いのか迷った時、真守がスッと立ち上がる。
「あっ……」
引き止めようとしたわけではない……ただ、無意識に手を伸ばしてしまった。
そんな私に真守は笑顔を見せながら手を伸ばして頭を撫でてきた。
「今日がお別れって訳じゃないんだけど。
明日も明後日もずっと一緒だろ?」
「……うん」
それは分かっているのだが、この瞬間に真守が去っていくという寂しさが消えるわけではない。
思わず俯いたのだが、先程伸ばした手に何かが当たる感触がする。
「俺の代わりになるか分からないけどさ……それ、可愛がってやってくれよ」
顔を上げると、そこには真守から貰った狼のぬいぐるみがあった。
「……ふふ、この子が真守の代わりか。
じゃあ、ずっと一緒にいて可愛がってあげないとね」
私はぬいぐるみを抱き抱えて立ち上がる。
「それじゃ今日はもう行くから」
真守はそう言ってもう一度顔を近づけてきた。
思わず目を瞑ると、想像していた場所よりも上に、額に柔らかい感触が当たるのが分かった。
「うわっ……キザなんだから」
「口にしたらまた止まらなくなるだろ?」
「それは間違いない」
そうやって笑いながら玄関まで真守を見送る。
「じゃあ、また明日ね」
私は抱き抱えていたぬいぐるみの手を取ってふりふりと左右に振る。
「ああ、また明日な」
そんな私に応えるように、真守は右手を上げて家を出ていった。
「真守ちゃん帰っちゃったのね。
あら、そのぬいぐるみどうしたの?」
「真守から貰った〜可愛いでしょ」
「そんなに大事そうに抱き抱えて、よっぽど嬉しかったのね。
真守ちゃんが男の子だったら良かったのにねぇ」
「別に女の子同士でも良くない?」
お母さんは私を揶揄って言ったであろう一言に強気で返す。
一瞬驚いた顔をしたが直ぐに真顔になった。
「あらあら、日向はそのつもりなの?」
「やっぱり変かな?」
「世間的には理解してもらえないかもしれないわね。
生き物としても子孫が残せるわけじゃないしね」
「普通に考えたらそうだよね。
でも、好きになっちゃったものは仕方ないんじゃない?」
私がそう答えるとお母さんの真顔が緩んだ。
「そうやって堂々と言えるなら仕方ないわね。
世間が理解しなくてもお母さんが理解してあげる。
子供なんて気にしなくていいから日向の好きなようにやりなさい」
「お母さん……ありがとう」
「母親ってのは子供の一番の理解者なんだから気にしなくていいのよ。
その代わり、今から晩御飯の仕込みするから手伝いなさい。
真守ちゃんにも、将来的に美味しい料理食べさせてあげたいでしょ」
「……うん、ありがとう」
お母さんに誘われた私は、ぬいぐるみを目の届く範囲に置くとキッチンへと向かったのだった。