真守のお礼 日向のお礼
本日4話目です。
「今日のお礼って……私、何かしたっけ?」
思い返してみても一切心当たりがない。
寧ろ転びそうになったところを助けてもらったりと、私の方がお礼をしなければいけないのでは無いだろうか?
「俺はさ……着れる服なんて何でも良いって思ってたんだよ。
だから、今日も本当はめんどくさいって気持ちだったんだ」
それは何となく分かる。
真守はこういうの好きじゃないだろうなってのは知ってたから。
だから、休日に家族の買い物に付き合うお父さんみたいに暇にさせちゃわないかってのは心配事項だった。
実際には真守も一緒になって着せ替えを楽しんでくれて、自発的に買い物までしてくれたから大成功だったわけだけど。
「でも、今日こうやって一緒に買い物してたら楽しかった。
自分に似合う服が見つかるのが、こんなに気分の上がる事だったなんて初めて知ったよ」
「でも、それはかるたお姉さんが凄かったからで……」
私は結局何も出来ていない。
そう言おうとしたが、真守は頭を左右に振って否定する。
「確かにかるたさんは凄かったよ。
でも、日向が行こうって言い出さなかったら俺はあんな店は一生縁がなかった。
バイトだってそうだ。
日向がやろうって言わなければやってない。
いつだって日向がきっかけで色んな楽しい事を教えてもらってる。
だから、このぬいぐるみはそのお礼だから貰って欲しい」
真守はそう言って私にぬいぐるみを差し出してきた。
「……しょうがないなぁ。
そういう事なら貰ってあげる。
これからも沢山色んなところに連れ回すから覚悟しておいてよね」
「望むところさ」
そう言って私達は笑い合う。
ぬいぐるみを腕の中に収めるとすっぽりハマって良い感じであった。
「……私も今日すごく楽しかった。
だからお礼をあげるね」
「なにが……分かった」
私が真守に近づいて顔を近づけた事で察したのだろう。
真守が両の目を閉じる。
私も更に顔を近づけながら……真守の唇にキスをする。
「んっ……」
「んん……」
唇が触れた瞬間にお互いの口から吐息が漏れる。
それと同時に例え用のないほどの幸福感が体全体を包み込んだ。
変身した時のような快感は無い……だが、お互いの気持ちが通じ合ったような幸福と安心が心の中を占めていった。
一旦口を離して目を開く……真守も同じタイミングで目を開いたらしい。
お互いの吐息が当たるほどの距離で見つめ合う……そして、お互いが同時に瞳を閉じて再び顔を近づけた。
こうして気付くと10分以上の時間、夢中になって口づけを交わしていたのであった。