別ベクトルにやばい奴
本日更新2話目です。
美幸さんから紹介された店は裏路地にある中々に見つけにくい店であった。
怪しい雰囲気を醸し出す店の外観にやや怖気付いてしまったのだが、真守は気にせずに店の扉を開ける。
「わわ、ちょっと心の準備させてよ!」
「どうせ入るんだし、お店なんだから平気だろ。
ほら、入るぞ」
真守の腕にしがみついてるので、そのままズルズルと引っ張られていく。
仕方なく覚悟を決めて中に入ったのだが……
「え……わぁ!!」
店内は想像よりも遥かに明るく、多種多様な洋服に小物、更にはぬいぐるみなども置いてあった。
「あら、いらっしゃ!?」
女主人が店の奥から出てきたのだが、私達の姿を見るなり固まってしまった。
「あ、あの〜大丈夫ですか?」
「……とい」
私の言葉が届いているのか、いないのか。
女主人は何かをポツリと呟いた。
「尊い……あまりにも尊い。
そうだ、今すぐに塔を建てよう」
遂には意味不明な言葉を喋りながら涙を流し始める女主人。
「その……なんだ。
都合が悪いなら出直すが……なぁ、日向」
「あ、そうだね。
お邪魔しま……」
「待って待って!
行かないで、そして引かないで!!」
私達がお店を出ようとすると女主人は慌てて引き止めてくる。
私達がドン引きしてるって自覚はあったのか。
「美幸から連絡受けてたけど、貴女達が真守ちゃんと日向ちゃんね?
私はこのお店、白百合堂の店主をやってる五条かるた。
気軽にかるたお姉さんって呼んでくれていいわよ」
「かるた……お姉さん。
変わった名前ですね」
「本当よね。
子供の頃は嫌だったけど、今は自己紹介すると1発で覚えてもらえるから便利なんだけど。
それで今日は服を買いに来たって事でいいのかな?」
「ええ、私は好きに見てようかと思うんですけど……」
私は改めて真守の格好を見る。
ボーイッシュ……ではなく、これはただのボーイだな。
「なるほどなるほど……確かに日向ちゃんは後はワンポイントって感じだけど、真守ちゃんの方は見立てる必要があるみたいね。
よし、お姉さんに任せといて」
かるたお姉さんはそう言って張り切っているので、折角なので任せてみることにした。
「まぁ、そうは言っても完全な男装からボーイッシュに変えていくだけだから、そこまで大きな変化はいらないんだけど。
真守ちゃんは身長が高くてスラリとしたモデル体型だから尚更ね。
日向ちゃんみたいな子をボーイッシュに変えるなら大きめの服でコーディネートするんだけど。
小さい子がダボついてる服着てるのって何か可愛いでしょ?」
かるたお姉さんが、真守の服を選び合わせながらそう言うと、真守がこちらをジッと見つめる。
「分かる、確かに可愛いな」
「でしょ?
ついでに日向ちゃんの服も幾つか見繕っておくから後で試してみて」
「あ、ありがとうございます」
最初は変人だと思ったが話してみるとしっかりしていてファッションの知識も豊富だ。
流石は美幸さんの紹介だと感心しながら様々な服を試着してみるのであった。