九尾への想い
本日の2話目です。
少し修正しました。
銀様の話が終わると辺りには静寂が訪れた。
民を愛し、護ったにも関わらず裏切られた女性。
それでも彼女は惜しみない愛を民達に注いで笑いながら死んでいった……何と凄い人なんだろう。
「とてもじゃないけど真似出来そうにないよ……」
彼女の生涯に思わず涙が溢れながらポツリと呟いた。
銀様はそんな私に対して優しい眼差しを向けている。
「姫巫女様の為に涙を流してくれたこと、心から感謝しよう。
しかしな……これは妾の意見なのじゃが、姫巫女様の自己犠牲はやりすぎじゃった。
周りにその身を心配する者がおったのじゃ……その者達のことも考えて逃げる事を選択して欲しかったのう。
じゃから、巫女殿は決して安易な自己犠牲を行わないで欲しいのじゃ。
隣に立つ者の事を考えてのう」
「となりに……」
隣に座る真守を見ると、彼女は何も言わずに未だ涙が止められない私の頭を撫でる。
そうだ……真守がいる限りは自分が犠牲になるなんて出来ない。
そして、真守を犠牲にするような選択肢も取らない。
姫巫女様の話は本当に凄かった……でも、同じ道は辿らなくていい。
私は私の道を進むと言う思いが込み上げてきた。
「ところで今の話で一つ疑問に思ったんだが……姫巫女は九尾じゃなかったのか?」
真守の言葉にハッとする。
コンの話では姫巫女様は歴代で唯一の九尾巫女だと聞いていた。
しかし、今の銀様の話の締めくくりは八尾だった。
「うむ……実は歴代で九尾に至った巫女は未だに終わぬ。
あの姫巫女ですら八尾であったのじゃ。
しかし、その話を聞いてしまった巫女達は、九尾は伝説だけの話と早々にに諦めてしまった。
結果的に九尾どころか八尾にすら至らぬ。
このままでは不味いと考えた妾は姫巫女様は九尾であったと言う話を作り上げ、巫女達に九尾を目指すように促した訳じゃ」
「九尾に至らなくても問題は無かったんだよね?
銀様は何で九尾に拘っているの?」
「っ!?……そ、それは……」
何気なく聞いた疑問だが、銀様は明らかに動揺する。
何かを話そうとして、躊躇い……しかし、意を決して語り始めた。
「妾は否定したかったのじゃ。
自己犠牲を極めた姫巫女様が最も大きな加護を受けた事を。
そんなものが唯一九尾に至る道などと認めたくは無かった」
ポツリと呟いた銀様の言葉が心に突き刺さる。
ああ……そうか。
この人は本当に姫巫女様の事が大好きだったんだ。
だからこそ、その姫巫女様の命を奪うきっかけになった自己犠牲こそが、力を得る唯一の術だと言う事を全力で否定したかった。
私を含めて、歴代の巫女でそこまでの自己犠牲精神を持った人はいなかったのだろう。
だからこそ、そのような人物が九尾になれれば自己犠牲精神こそが加護を得られるという理論を打ち崩す事ができる。
でも……現実は九尾どころか八尾にすら至った者はいない。
長い年月の中で突きつけられた事実に銀様は押し潰されそうになっているのかもしれない。
「私……何で巫女の力があるのかとか分かっていない事ばかりだった。
だから、加護を高める意味も分からなかったし、三尾になった時も喜びもなかった。
でも、今は本気で九尾を目指したい……銀様の悲願を達成させてあげたいと心から思う」
「巫女殿……ありがとう。
その言葉だけで救われた思いじゃよ」
そう言って銀様は深々と頭を下げるのであった。