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とある弟の苦悩 2

「よし、それでは先ずは型の稽古から始めよう」


師匠がそう言って型を順に繰り出すのを見て真似をしていく。


精神を研ぎ澄まし、己の一挙手一投足に心を配る。


そうしていると心の中のモヤモヤが吹き飛んでいき、心の中がクリアになっていくのを感じた。


そうか……こうして精神を研ぎ澄ませれば姉の色香など恐るに足りぬと。


師匠は相談する前から自分の悩みを解決してくれたんですね!


心が晴れ晴れとした気持ちになり、より師匠に対する尊敬の念が増す。


「ふむ、そこは少し違うな。

腕の位置が……」


そうした時に師匠が自分の型で間違っているところを見つけて近づいて来た。


俺は正拳突きの構えを取ったまま、師匠の指示を待つ。


師匠は自分が間違っている場合、こうして手取り足取り教えてくれるのだ。


師匠の柔らかい手が自分の腕と腰に当たる。


その時、自分の顔を師匠の綺麗な金色の髪が擽る。


心臓が軽く跳ねた気がした。


髪からも、目の前の師匠からも甘く良い匂いが漂ってくる。


「この角度が大事なのだ……っと、聞いているのか?」


そう言って師匠が俺の顔を覗き込んできた。


切長の瞳、スッと綺麗に整った鼻筋、長いまつ毛……あれ?


師匠ってこんなモデルみたいな美人だったか?


そう意識した瞬間に心臓の動きが激しくなる。


「は、は、ひゃい!

ちゃんと聞いていましゅ」


「どうも様子がおかしいな……顔も赤いし熱でもあるんじゃないか?」


そう言って師匠は手のひらを俺の頭に押し付けたのだが……近い。近すぎる。


「ふむ、熱は無さそうだが……おっと、すまない。

汗をかいているのにこんなに近づいては不快だったろう」


「い……いえ……不快だなんて……」


今のが師匠の汗の匂い?


嗅いだことなどないが、香水というのがこんな感じの匂いなんじゃないかという位に甘くて良い香りがしたんだが!?


何とか動揺を表に出さずに努めた俺だったが、そんな俺にトドメを刺すようなことを師匠が言い始める。


「そうだ、ひさしぶりに一緒に風呂に入って汗を流すか?

前は3人でよく入ったものだしな」


「ふ、ふ、ふ、ふろ!?」


たしかに3人で入った記憶はある。


それも夏休みになる前には一回、姉ちゃんも含めた3人で入った筈だ。


あの時の俺よ、何故平気だった?


何故かあの時は何の疑問も抱かなかったが今は無理だ。


いえ、大丈夫です……そう言って断ろうとした時であった。


「やっほ〜真守!

日和(ひより)こっちに来てる?」


「ああ、日向か。

ちょうどいま稽古が終わった所だぞ……そうだ!

いま日和を風呂に誘っていたのだが日向も入っていくか?」


「え、いいの?

真守の家のお風呂は大きいから好きなんだよね。

ほら、日和!

サッサと行くよ!」


姉ちゃんはそう言って俺の襟首を掴むと凄い力で引きずり始めた。


「ちょっ、ちょっと待って……」


「グダグダ言わないで大人しくしなさい……あんた臭ってるんだからね」


「にお!?」


俺は驚いて師匠の方を見る。


師匠はポリポリと頬をかきながら目線を逸らせた。


そこで思い返してみる……師匠は俺に近づいた後に汗の匂いを謝ってきた。


つまり、それは俺の汗の臭いで自分のことを省みたという事では無いだろうか?


その事に気付いた俺は既に抵抗する気力を失ってしまっていた。


あまりのショックに感情を無くした為、風呂は無事に終わらせたものの、その時に一体何がどうだったのか?


一切思い出せずに後々後悔するのであった。

稲葉日和くん、小学五年生の話でした。


因みに日向、日和の名前の由来は狐の嫁入りの別名である日向雨、日和雨からです。

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― 新着の感想 ―
[一言] 記憶改変で姉と師匠が元々女の子だと認識している弟くんが前回3人でお風呂に入った時は、まだ全員付いていたのか。 姉+師匠との支障のない混浴。
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