仲直り
「今日は本当にありがとうございました」
店内に向けてペコリと頭を下げてから出て行く。
美幸さんは笑顔で手を振ってくれているし、バイトリーダーも「次は一緒に働きましょうね」なんて声をかけて見送ってくれた。
心に温かいものを感じながら数歩進むと……
「もう大丈夫なのか?」
そう言いながら、電柱の影から真守が現れた。
「え、何でここにいるって分かったの?」
「店長さんからメールが来てな、日向が相談に来てるから迎えに来て欲しいって」
「美幸さん……本当にお人好しなんだから」
そう呟く私の前で、真守は屈んで顔をじっと見つめてきた。
綺麗な顔だな〜なんて暢気なことを考えていると、真顔だった真守がフッと笑う。
「もう平気そうだな」
「何の話?」
「顔……俺を見ても赤くならないんだなって」
そう言われてみると、真守を見ても恥ずかしいという気持ちが湧いてこなくなっている。
自分の気持ちに整理がついたから良かったのか、それとも先程の撮影会で慣れてしまったのか。
驚くほど自然と真守に接する事が出来るようになっていた。
「俺、不器用だからさ。
女になった日向が傷付く事を沢山してしまったんだろうな」
「そんな事は無いよ。
真守は良くしてくれているのに私の方が慣れなくて……だから、ごめんね。
心配かけた上に恥ずかしくて逃げて、避けちゃってた」
そう言った後で私は右手を前に差し出す。
「許してくれるなら握手しよ。
仲直りの証に」
「ああ、もちろんだよ」
真守もそう言って右手を差し出したが、私はそれを手をあげて拒否する。
「違うよ、そっちじゃない」
私はそう言って真守の左側に立つ。
それから真守の左手を右手で掴んだ。
「おいおい、これは流石に……」
「知らないの?
男同士で手を繋いでるのは変な風に見られるけど、女の子同士なら許されるんだよ。
だから、今日はこれで帰ろう」
「……それなら仕方ないな。
しっかり繋ぐから離すんじゃないぞ」
「それはこっちのセリフだよ。
ぜったい離さないからね」
こうして私と真守は固く手を握りあって帰路に着いたのであった。
明日は別のキャラクターでの視点で全2話を一挙にあげる予定です。