美幸のカウンセリング 4
全4話の最後です。
「戸惑っているだけ?」
「日向ちゃんがまだ男だった時に経験はありませんか?
身体と心のバランスが取れず、妙にイライラして親や友達にキツく当たってしまう時期ですよ」
思い返してみれば中学の二年生の頃は訳もなくイライラしたり、全てがバカらしく見える時期があった……それはつまり……
「思春期と同じってこと?」
「そうですね。
違いと言えば、今回は男性から女性へ心が急激に変化していった事に対して、戸惑っているのだと思いますよ」
美幸さんに言われ、心の中でストンと納得する感情があった。
以前の自分との違いに戸惑いを受けつつも、女性になったからだと強引に受け入れようとしていた。
でも、それは以前の自分を否定しているようで、捨てているようで、何か嫌な気分になっていたんだと思う。
だからこそ犬の不浄に襲われた時に、男の時だったら何て考えてしまったのだろう。
「女性として生きていくって覚悟は決めてた筈なのに……格好悪い話だね」
「そんな事はありませんよ。
誰だって今までの自分を捨てるなんて出来ないです。
その中で抗って、必死に新しい自分を受け入れる努力をしているのは素敵だと思いますよ」
「そうかな?」
「それと、アドバイスとしては頑張って捨てようとしなくていいんじゃないですかね。
自然に変わっていく様に身を任せればいいと思いますよ。
そうやって昔の自分と今の自分が混ざり合って、自然体っていうのが生まれるんじゃないでしょうか?」
「捨てなくていい……」
美幸さんの言葉が私の中に浸透していく。
男だった頃の自分を否定しなくていい。
無理に女性になろうとしなくていい。
その事に気付いた時、自分の中にあった纏まらないものが一つに合わさったような気がする。
そして、自然と口からあの言葉が漏れていた。
「無垢なる姿で……今、嫁入りを願います」
その言葉をきっかけとして私の周りを覆うように雨が降る。
そして一連の変身バンクへと入っていくのだが、最後が少し変わっていた。
雨を白と赤の光が包みこみ、白い外套が生まれた。
それは私の肩にピタリと寄り添い、背面を完全にカバーした。
「穢れた嫁入りの道……浄化させていただきます。
……って、ごめんなさい!
何か自分の中に力が湧いてきてつい……」
「す……素晴らしい!!」
思いがけず変身してしまった事を謝罪したのだが、美幸さんは感極まったように両手を上げる。
そして、何処からか立派そうなカメラを撮り出すと
「写真撮ってもいいですか?」
と、食い入るように言ってくる。
「う、うん……問題ないけど……」
「ありがとうございまーす!
あ、目線こっちにくださーい。
……ちょっとポーズを変えてもらっていいですか?」
言われるがままにポーズを撮って写真を撮られていく。
結局、この撮影会はバイトリーダーが出社してきて美幸さんにストップをかけるまで続いたのであった。
その際に美幸さんが趣味で、私にコスプレさせたと
勘違いさせてしまった。
本当のことを話すわけにもいかなかったので、コスプレ撮影は美幸さんの趣味ということで押し通させてもらう事に……申し訳ありません。
ここまで素晴らしい人間性を見せてくれたので、最後はカメコエンドでオチとさせて頂きました。
内面完璧より、このくらいの欠点があった方が親しみやすいですよね。