観測する悪意
今回は第三者視点です。
「ふふ〜ん、いよいよお待ちかね。
お楽しみの時間だね」
無に近いほどに何もない空間で彼は無邪気に笑う。
「いつもと同じだと油断しちゃってるから酷い目に遭うんだよ。
でも、きっと素敵な時間になるよ」
そう言いながら彼女は目の前にあるモニターを恍惚とした表情で眺めていた。
「よーしよし……って、あれ?
思ったより助けに来るのが早いなぁ。
……ふーん、ここでも助かっちゃうんだ」
彼はモニターの結末に納得できずに不貞腐れる。
「なんか不公平だよね。
僕はあんな……あんな……」
辛い過去を思い出すように言葉を詰まらせて俯く。
だが……
「あんな素敵な時間を堪能出来ないなんてカワイソー。
ああ……思い出しただけでも濡れてくる……」
何かに酔ったように目をトロンとさせた彼女は食い入るようにモニターを注視する。
「ああ……もう我慢出来ないよ。
一人でしちゃおっかな……ううん、ダメダメ。
我慢をすればするほどに後がもーっと気持ち良くなるんだから。
それに……早漏は嫌われちゃうからね」
彼女が嬉しそうに話すたびに瞳の色がコロコロと変わる。
いや……変わっているのは瞳だけではない。
髪の長さが、顔の形が、身長が、性別が……ありとあらゆるものがグネグネと変化していく。
そして、それは遂には人の形を取ることをやめていた。
「あはは〜この空間で脳みそが蕩けちゃうと姿が保てなくなっちゃうよ。
もっと自分をしっかり認識しないとね」
それは目を瞑って集中する……この空間で己の存在を客観視して見つめる。
理想の自分を、なりたい自分を……そうする事によって不定形に動いていたそれの動きがピタリと止まる。
やがて収束を始めたそれは、どんどんと人の形へと変貌していった。
「こんな感じだったっけ……久しぶりだから覚えてないなぁ。
まぁ、たぶん合ってるでしょ」
その場に現れたのは10歳くらいの少女だった。
ツインテールにした髪の毛は結んだ先は銀色に、それ以外の部分は金色。
瞳は左が金色、右が銀色のオッドアイ。
闇を凝縮したような黒さを持つゴシックのワンピースに、同じように深い闇色のヘッドドレス。
滴る血のような赤いハイヒールを履いた少女はスカートの両側をちょこんと摘み、誰に見せるわけでもないのカーテシーを行う。
「ふふ……うふふ……うふふふふふ。
楽しみだなぁ……もうすぐ会えるのかなぁ。
僕はずっと我慢してきたんだから全部受け止めてね。
早々に壊れちゃったら嫌だからね」
正気を全て捨て去ったような笑い声を上げながら少女はモニターを食い入るように見ていた。
その視線の先には一人の人物。
「またいっぱい遊ぼうね……真守」
世界の理を超えた場所で、少女はとても楽しそうに笑い続けていた。
みんな大好き、メスガキ様の登場回でした。