ご都合主義にハッピーエンド
「お姉さん、何をする気なの!?」
「戯がいま何も着ていないって事は、これが黒薔薇の正体なんでしょ?
なら、同等の力を持つ白百合をぶつけて相殺する!」
私は目の前で浮かぶ白百合の力を引き出す。
浮かぶ白百合の周りから、猛烈な勢いで不浄を吸い込んでいく。
「そ、そんな事したら両方とも消えちゃうよ!
巫女装束の継承しちゃったんだから、二度と変身できなくなっちゃうよ」
「ん〜まぁ、変身できないのは残念だけど、後はコンが上手くやってくれるって」
こう話している間も白百合はどんどんと不浄を吸い込んでいく。
だが、同時に純白だった白百合がどんどんと黒く染まっていく。
「それだけじゃないよ!
巫女じゃなくなったら加護が無くなっちゃうかもしれない。
そうしたら男の子に戻っちゃうよ!
今の生活が気に入ってるんでしょ?」
「……確かに女の子やってるのは凄く楽しいし、今更男に戻っても困っちゃうかもね。
でも、それでもその生活を続けたらいつかは慣れるもんなんだよ。
真守がいない日々がそれを教えてくれたんだ」
「あ、で、でも……」
「何を言ったって無駄だよ。
私は救われなかった私を救うって決めたんだ。
この意思は何があっても止められない。
確かに戯の最初は間に合わなかった……だけど、間に合って助けてもらえる事だってちゃんとあるんだ。
それを信じて欲しい」
そう言って私が手を差し出すと、戯は一度目を閉じる。
再び目を開いた時には、涙を浮かべながらも満面の笑みであった。
「あはは……やっぱりお姉さんには敵わないや。
信じる……信じるよ」
そう言って戯が私の手を取って胸の中に飛び込んできた。
その時であった……2人の間から白き光と黒き光が溢れたのは。
その光は私と戯を優しく包み込み……その姿を変えて2人の間に装着されていく。
私には黒い光が集まり、白百合そっくりな黒い衣装に。
戯には白い光が集まり、黒薔薇そっくりな白い衣装に。
「これって……私のは黒百合って事?」
「じゃあ、僕のは白薔薇かな。
なんだかよく分からないし、ご都合主義にも感じるけど……これでいいんだよね?」
「そうそう、物語はやっぱりハッピーエンドじゃないと。
……やる事は分かってるね?」
「それはもちろん!
なんたって元は同じ人物なんだから」
そう言って2人で片手でお互いを抱き合いながら、もう一つの手を繋いでそこに力を溜めていく。
『白と黒の輪舞』
2人が繋いだ手から黒と白のエネルギーが放たれる。
それはお互いに螺旋を描きながら絡み合い、真っ黒に染まった白百合を穿った。
白百合の表面にピキピキとヒビが入り、遂に耐えきれずに粉々に砕ける。
白百合の破片はキラキラと光ながら狭間の世界に消えていく……それは先程の不浄の塊が綺麗に浄化されたことを意味していた。
「やったね!」
「だいしょーりだよ!」
私は戯とハイタッチをして喜び合った。
そんな私たちに向かって仲間達が駆け寄ってくる……こうして、夏休みから始まった私たちの、長いようで短い戦いの話はハッピーエンドで幕を閉じたのだった。
簡単に言うとマーブルなスクリューです。