戯の本音
みんなの力を受けて、空に浮かぶ球体の中へと侵入していく。
ここは不浄という穢れを凝縮したような場所であり、新学期が始まった頃に犬型の不浄に襲われた時のように、私の身体を奥底まで穢そうと纏わりついてくる。
だが、私の身体は白百合の加護によって完全な防御を得ている。
その事に感謝しながら先へと進んでいく。
球体の中は外から見るのとは比べ物にならない程に広がった。
そもそも、この狭間の世界自体が見ているものがそのままでは無いのだから仕方ない事だろう。
それでも躊躇わずに先へ進んでいくと、辺りに無数の画像が浮かんでくる。
それは戯が日向だった時、先程の犬型の不浄に襲われて穢された所から始まっていた。
見るに耐えない陵辱劇……遅れて駆けつけた真守共々堕ちる所まで堕ちていく。
そこから狐と狼の里を支配して壊滅させ……その悪意は世界中へと広まっていく。
「あの時間に合わなかったら私もこうなっていた……」
これは決して他人事ではない。
私の中でもあり得た可能性だったのだ。
だからこそ、彼女を否定したくない……拒絶したくない。
そう思い、球体の中心と思われる所までやってきた。
そこでは裸になった戯が浮かんでいた。
「戯!!」
私が手を伸ばそうとした時だった。
今まで纏わりついては弾かれるだけだった不浄が、鞭のような姿に変わって私の手を弾いた。
「何しに来たの?」
空間の中に声が響くと同時に少しだけ瞳を開く。
どうやら意識はあるようだ。
「決まってるでしょ。
戯を助けに来たのよ」
「勝負はお姉さんの勝ちで終わったんだ。
外から僕を斬るなり、無視してここに取り残すなり好きにすれば良かったじゃないか。
助けに来ただなんて馬鹿じゃないの?」
「そうね……確かに馬鹿な事かもしれない。
でも、仲間達にも言われたけど、私はドSで女王様で独占欲の塊らしいから……はい、そうですかって簡単に諦めたり出来ないのよ」
「あはは……お姉さんは本当に面白い人だね。
……はぁ、僕もお姉さんみたいになりたかったよ。
ありがとう、来てくれて。
でも、ここは危ないから早く帰った方がいいよ」
いつもの何が嘘で何が本当か分からない戯じゃない……そこには、本当に私の身を案じている事が分かる1人の女の子がいた。
「こいつらは僕が引き受けてここで道連れにするから。
もうお姉さんの世界にも次の世界にも迷惑をかけない……だから、ね?
早く帰りなよ」
「そんな助けて欲しい目をしながら言わないでよ。
私は貴方を助ける……何があっても。
それでいて私も無事に帰って全員でハッピーエンドを迎える!
絶対に諦めたりしない……私はワガママだから!!」
そう言って私は変身を解除し、白百合を目の前で再構築して押し出した。
白百合の護りが無くなったことで、周りの不浄が一斉に襲い掛かる。
「お姉さん!?」
戯が叫び声をあげる……だが、不浄は私の身体まで届かない。
みんなの力が、想いが、光となって私を護る結界となっていた。