狐の巫女
覚悟をしていた衝撃だが、いつまで経ってもやってこない……恐る恐るに目を開けると……
見覚えのない……しかし、どこかで見たことのある気がする、巫女服の少女が前に立っていた。
少女は手に持った札で結界を張り、戯の攻撃を必死に防いでいた。
「驚いた!
ただの腰巾着だと思ってたのに!!」
「くうううう……日向はやらせないコン!」
少女の言葉でハッとする……彼女は私のパートナーのコンなのだと。
今まではデフォルトされた狐の姿をしていたコンが、人間に変化して私を守ってくれていたのだ。
「コ……コン……」
「日向は休んでいるといいコン。
ここは絶対に持たせてみせるコン」
彼女が札に加護を込めると結界はより強固になっていく。
「ふーん、ただの狐だと思ったのに……僕でも突破できない結界を張るなんて生意気だね。
それじゃ、こういうのはどうだい?」
戯はそう言うと後ろへと跳躍する。
そこで手に持っていた刀に力を集中し始めた。
あれは……まさか……
「そう、お姉さんたちが神の遣いを倒した時に使った技さ。
なかなか面白い発想だったから使わせてもらうよ……僕は識別なんて面倒な事はしないけどね」
「コン……に、逃げて……」
「逃げないコン!
日向を絶対に守って見せるコン!!」
「あはは、ここでお涙頂戴の展開とはやるじゃないか!
そう言った努力も虚しくバッドエンドに終わる……そう言う結末も僕は好きだよ。
それじゃ、今度こそさようなら……神滅!!」
先が見えないほどに巨大な刃を横に振るう戯。
その一撃はコンの結界によって阻まれるが勢いは衰えていない。
結界に少しずつ刃が食い込み、ピシピシと音を立ててヒビが入っていくのが分かる。
「コン!もう、もういいから!!」
「ま、負けない……諦めないコン!
巫女は……巫女は絶対に負けないんだコン!!」
コンがそう叫んだ時、私の首元が大きく光る。
首に付けていた鈴が光に変わり、コンを包み込んでいった。
その光が収まった時……コンは狐の巫女へと変身していた。
それと同時にヒビの入っていた結界が修復されていく。
「絶対に守ってみせるコン!!」
コンが叫んで力を込めたことで結界が膨れ上がっていく。
食い込んでいたはずの神滅の刃がどんどんと押し返されていき、最後には跡形もなく消滅してしまった。
「そんな……たかが狐如きに……」
呆然としている戯を気にかけながらも、私は立ち上がってコンの元へと向かう。
「コン、凄いよ!
守ってくれてありがとう」
「日向!
身体は大丈夫なのかコン?」
「うん、コンが変身してからどんどんと力が回復していったんだ。
コンの力は回復とか癒しになるのかな?」
「変身……え!?
これ、どうなってるコン!!」
自分の姿を見たコンはようやく状況を理解したらしい。
「どうなってるって……狐の巫女に変身したんだと思うよ。
夢が叶ったね!」
「ひ、日向〜これも日向のおかげだコン!」
感極まって泣きながら抱きついてきたコンを受け止める。
「私じゃなくてコンが頑張ったおかげだと思うけど……それよりもどうするの?
今の一撃で大きく力を削った上に私は完全回復。
どう見ても貴女に勝ち目は無いと思うけど」
コンを優しく地面に下ろしながら戯に向けて構えを取る。
彼女はまるで何も見えていないような表情でブツブツと何かを呟いていた。