茶番の戦い
世界を隔てる通路の一画。
ここでは2人の女性が雄叫びを上げながら戦い続けていた。
1人は黒のライダースーツを身に纏い、黒いチョーカー首に巻いた金髪の女性。
もう1人は胸元が大きく開いた巫女服を着た黒髪の女性。
2人の動きはまるで鏡写しのように同じで、交互に攻めと受けが変化していく。
何も知らない者が見たら流れの決まった型稽古、もしくはカンフー映画のアクションシーンを見ているような気分になるだろう。
それ程までに実力が拮抗した者同士の戦い……もしもこの戦いを見ることが出来たものは100人が100人、そう答えるだろう。
だが、戦いながら巫女服の女性が叫ぶ。
「何故だ!
お前には私の力も技も全て託した。
今のお前なら私をいつでも殺せるというのに……いつまでこんな茶番を続けているつもりだ」
そう……巫女服の女性……疋が言う通りである。
この戦いは実力の拮抗した者達がしのぎを削っている訳ではない。
強者が弱者の動きをコントロールして拮抗した勝負に見せている……ただそれだけの戦いだった。
疋は理解していた……自分が戯の言う事に逆らえないことを。
そして、それを知っていた上で、戯は疋を仲間に引き入れて利用しようとするだろう事を。
だからこそ、戯の監視が無いうちに真守に接触し、長い時間をかけて己の力と技を全て託し終えたのだ。
残りカスのような力しか持たない自分は、ライダースーツの女性……愛弟子である真守に秒殺されるだろう。
それでこの長い戦いから解放され、愛弟子は最愛の人へ駆けつけることが出来る……かつての自分は出来なかったことを。
戦いが始まった時は、全てを悟った弟子が全力でこちらに向かってくると思った。
しかし、現実はそうはならなかった。
弟子は……真守はこちらの攻撃を易々と見切る。
そして、反撃する攻撃は鋭いものの、自分たちの流派の基礎的な動きしかしてこない。
故にどれだけ鋭かろうが、容易に読んで対処が出来る。
ならばワザと攻撃を受けて倒されれば良いのでは無いかと考えた。
だが、それは出来ない。
疋は直接戯に頼まれて真守と対峙しているのだ。
ここで手を抜けば何のために2人を裏切って戯に従ったのか分からなくなってしまう。
こうして、2人は茶番とも言える行為を続ける事で、無為に時間を浪費していくのであった。