日向と戯
「これで僕とお姉さんが雌雄を決する舞台が整ったね」
戯が嬉しそうに言うが、私は冷たい視線で返した。
「あれだけの想いを持った疋様を使い捨てにしてよく言うね」
「僕は一度彼女を見限っているからね。
それがこんなに情熱を持って追いかけてくれたから、役に立ってもらおうってだけさ。
僕の真守も喜んでると思うよ」
「ほんと……許せないよ」
私がそう言うと戯は心底から可笑しいと言った具合に笑い出す。
「許せない……何故?
お姉さんだってそうでしょ?
この数ヶ月、真守がいない生活にすっかり慣れたんじゃないのかい?
真守がいなくても平気だって気が付いたんでしょ?
所詮、その程度の関係だって!」
「……戯は本当に私とは違う人になっちゃったんだね。
そんな簡単な事も分からないくらいに……」
私はそう言うと魂魄を構える。
「そうさ……だから、僕は日向じゃなくて戯なのさ。
この世界での偽物、戯れる者……僕の全てが詰まった名前さ」
「なら、その偽物を倒して物語の幕引きにさせてもらうよ」
「どうかな?
最近では偽物が勝つ話も多いからね」
戯も日傘の中から仕込み刀を取り、日傘の方は何処かへと投げ捨てた。
「決着をつけよう」
「結末を迎えよう」
2人の声が重なったと同時にお互いの刀がぶつかり合う。
「ははは、凄いね。
その刀って狐族が変化してるだけなんでしょ?」
「コンは日向の相棒だコン!
日向が強くなるならコンだって強くなるコン」
「コンは最高のパートナーなんだから舐めないでよね」
こんな会話の間もお互いの間では何度も何度も刀がぶつかり合う。
「本当に感動させてくれるね。
なら、これならどうかな?」
一瞬で真後ろに跳躍した戯が手をかざす。
そこから黒い霧のようなものが私の身体を包み込んだ……たが、それだけだ。
私の身体には何の影響も与えない。
「これがどうかしたの?」
「やっぱり何も起きないか……狐の加護を逆手に取って感覚を操ろうとしたんだけどね。
やっぱりお姉さんも狐の加護なんて使ってないんだ」
「どう言う事?」
「今のお姉さんの力は、お姉さん自身とその衣装……白百合だっけ?
その力だって事さ。
いや、元々白百合がお姉さんの九本目の尻尾から出来てるなら、その全てがお姉さん自身の力って事だね」
「……それは戯も同じって訳なんだ」
「そう言う事……ここまで互角なんて本当に久しぶりだから楽しませてもらうよ!」