不器用な人
ゲートの先は予想通りに戯につれてこられたばしょであった。
周囲の景色は歪み、自分の足元する覚束ない。
油断すると周囲と同化してしまいそうになるが、私の中で繋がっている絆によって自己を保つ事ができる。
真守は大丈夫なのかと思いそちらを見ると、全く平気そうな顔をしていた。
「平気そうだね」
「ああ、俺にはこれがあるからな。
こいつがある限り自分を見失ったりしねぇよ」
そう言って真守が指差したのは首に付けたチョーカーである。
「相変わらず見せつけてくれるね」
前の方から声がし、そちらを見る。
そこには黒百合に身を包んだ戯が立っていた。
「こっちは準備万端なんだけど、そっちはそれで平気なの?」
「いや〜実はまだ最後の準備が終わってないんだよね」
軽い挑発のつもりだったのだが、戯は深刻そうな表情で答えてきた。
「もう待ち構えてるだけって言ってた割には雑な出迎えね」
「まぁ、すぐに終わるから少しだけ待っててよ……ねぇ、真守?」
「え?」
驚いて真守の方を見るが、彼女は真剣な眼差しで戯の方を見ているだけであった。
「ああ、ややこしかったかな?
僕は、僕の真守に対して話しかけているんだよ」
戯の言葉に慌てて疋様を見る。
彼女は悲しそうな、それでいて嬉しそうな表情を浮かべていた。
「すまんな、日向。
真守にも辛い役回りをさせて本当に申し訳ない」
「あんたが選んだ道なんだ……好きにするが良いさ」
真守がそう言うと、疋様は真っ直ぐに戯の方へと歩いていく。
そして、彼女の後ろに立ってこちらと対峙する。
「どう言う事なの、真守!?」
「すまん……どれだけ裏切られようが、どれだけ捨てられようが……私には私の世界の日向が1番なのだ。
彼女に求められれば私は逆らえない。
自分でも愚かだと思うが、私はそう言う生き方しか出来ないのだ」
「全く……並行世界の自分ながら不器用すぎるぜ。
日向、俺が今まで修行して来たのは戯を倒すためじゃない。
疋を……並行世界の自分を倒す為の修行だったんだ」
「え、それって……」
驚いて真守と疋様を見比べる。
2人は既に覚悟の決めた顔をしていた。
「あの人は異世界の俺だから分かるんだよ……俺も日向にお願いされたら絶対に断れない。
例えどんな事情があってもだ」
「そんな……」
真守の言葉を聞いて驚く。
何故なら……私は真守のお願いでも事情が悪ければ断るだろうと思ったからだ。
例えば今のような状況だったら絶対に拒否すると思う。
「ああ、分かってるよ……日向はちゃんと考えて否定する事が出来るもんな。
だからこそ信じられるんだが……まぁ、その話はいいさ。
そう言うわけで、俺が日向に出来る手伝いはあの人に2人の決着の邪魔をさせない事ぐらいだ。
後は……任せても良いよな?」
「……うん。
でも、その前にお願いしていい?」
「なんだ?」
「絶対に生きて戻ってきて。
死んだら許さないから」
私がそう言うと真守は笑いながら私の頭を撫でた。
「ははは、その願い聞き届けた。
必ず生きて帰るさ……待たせて悪かったな」
「いや、構わないさ。
君たちが仲睦まじい姿を見るのは私の喜びだからね」
「それじゃ、やっぱり止めるか?」
「それは出来ない相談だよ……こちらもお願いされてる立場だからね」
「全く……お互いに損な性分してるな」
「元は同じだからな」
2人はまるで気の合う友人のような会話をしながら何処かへと消えていった。
私はその後ろ姿を見送りながら、真守の無事を祈る事しか出来なかった。
自分で書いておきながら、読み直したら本当にこいつら不器用だなって感想しか出てきませんでした。