オオカミの力とキツネの異変
目の前で逃げ出すようにゲートに飛び込む日向を思わず見送ってしまった。
「追いかけなくてよいのか?」
今はグローブに変化している精霊に言われてハッとする。
慌てて駆け出したのだが、ゲートに触れる直前にその姿が揺めき始めた。
「ちょっと、どうしたの!?」
「う、うーむ……回線の調子が……」
「昔の携帯じゃないんだから!
早く繋げなさい」
「分かっておるわ……暫し待たれよ」
こうして妙な足止めを食らってしまうと、どうしても先程の恥ずかしがって逃げる日向の姿を思い出してしまう。
自分としては最高に可愛い変身で思わず心がときめいてしまった……しかし、逆の立場で考えるならば、やはり恥ずかしさでどうにかなってしまいそうだ。
「うん……会ったら先ずは謝ろう」
「繋がったぞ」
先ずは謝る……そう決めたときにゲートの再接続が完了したことを告げられ、目の前で揺らめいていたゲートがしっかりと視認できるようになった。
「遅れた分を取り戻すわよ」
「おう!」
ゲートを抜けた先は潰れた工場跡地であった。
私は周りを見渡したがキツネの姿は見えない。
「本当にさっきと同じところに繋がってるの?」
「うむ、近くに魂魄の気配も感じるので間違いはないだろう」
「とりあえず周りの不浄を浄化しながら探すしかないわね」
私はグローブから爪を出すと周りの不浄達を切り裂いていく。
動きが遅い不浄達は、素早さを売りにする私には造作もない相手である。
不浄の攻撃を軽く受け流しながら確実にトドメを刺していく。
「……これは?」
「気をつけろよ、真守。
違う種類の不浄が来るぞ」
精霊がそうアドバイスを告げた途端に低空を飛ぶように、一匹の黒い犬型の不浄が駆け出して来た。
「ちっ……だが、それでも遅い!!」
私はその犬型不浄の体当たりをその場で回転してかわし、すれ違う瞬間に上段から爪を振り下ろす。
爪は易々と犬型不浄を切り裂き浄化させる。
「これで全部かしら。
魂魄は何処にいるの?」
「右側の壁付近だな」
精霊の言葉を頼りにその付近を探すとキツネの愛刀である魂魄が落ちていた。
「助かったコン。
日向はあっちにいるから助けてあげてほしいコン」
そう言って変化を解いた魂魄の案内にしたがう……すると、崩れた段ボールの山から女性の下半身が生えていた。
「全く……何やってるのよ」
時折ピクピクと動いているので死んではいないのだろう。
私は呆れ混じりに両足を掴んで引っ張る。
段ボールの山から救出したキツネはペタリとその場に座り込む。
「キツネ……いい加減に立ちなさいよ。
もうさっきの魔物はいないわよ」
「お、おおかみ……」
焦点のおぼつかない瞳で私を見てくるキツネ。
その瞳は妙に潤んでいて妙な色気を感じてドキドキしてくる。
「ほら、いつまでもそんな情けない格好してないで起きなさいよ」
「あ、あしがアツいの!
おねがい……タスけて!!」