いない間に変わったもの
「ひーちゃん!」
もう間もなく冬休み。
後ろから声をかけられて振り向くが、私をこう呼ぶのは1人しかいないので誰かは分かっていた。
「セッちゃん、おはよう」
「えへへ〜おはよう。
朝からひーちゃんに会えるなんてラッキーだなぁ」
「私も一緒に登校できて良かったよ」
最初に会った時に比べるとセッちゃんはかなり変わったと思う。
最初のギャル感は一切なくなり、現在は髪も黒に戻して制服もしっかりと着ている。
だが、無理をしている感じはなくて、こちらの方が本来のセッちゃんだったと思わせてくれる雰囲気があった。
これは日和から聞いた話なのだが、セッちゃんはかつての友人に憧れて無理をしてそういう格好をしていたらしい。
何故私じゃなくて日和にその話を?と思わないでもないが、あれからも家に遊びに来た帰りは日和に送らせているので、そういう会話も出てくるものなのだろう。
因みに姉のプライドにかけて、あれ以降覗き見はしていない。
その代わりに小さな鈴を渡して、ピンチになったら鳴らすように言っている。
これは日和だけではなく、セッちゃんや真由美さん、美幸さんも同様だ。
鈴は狐の装束のあまりで作成されており、これを鳴らすと私が持つ鈴が鳴るという仕組みである。
また、首にかかっていた鈴は変身が解けると、私のスマホの根付チャームに変わっている。
これはスマホと連動しており、4人の誰かが鈴を鳴らすとスマホが鳴る仕組みになっているそうだ。
「こら、あんまり引っ付かないの」
「え〜嬉しいからいいじゃない。
ほら、早く行こう」
セッちゃんは私の左腕に両腕を回して頭をくっつけている。
口では嗜めながらも、私は嫌な気はしておらず、そのまま学校へと向かう。
登校している周りの生徒達の視線は感じるものの、この数ヶ月で急速に仲を深めた私達のじゃれあいは半ば公認化されているらしい。
誰も彼もが温かい眼差しでこちらを見ていた。
そう……この数ヶ月で私はすっかり真守がいない生活に慣れてしまっていた。
真守がいなくて出来た心の隙間はセッちゃんや日和が、真由美さんや美幸さん。
バイトの忙しさや、この所はほぼ毎日のように発生する不浄との戦いですっかり埋まってしまっていたのだ。
人間というのは何と単純にできているのだろうか。
契約した時は真守と一緒じゃない人生なんて考えられないと思い込んでいた。
だが、実際はそうではなかった……もちろん、真守の事が大切だし、一緒にいたいという気持ちに違いはない。
ただ、そこに固執するあまり見逃した事が沢山あるのではないか?
真守がいない時間は私の考え方を変え、そのような気付きを与えてくれる貴重な時間となっていた。
例え想像していない未来が来てしまったとしても、長い時間を過ごせばそれが現実となってしまうものです。