魂魄の過去
2022/10/21 誤字の修正しました。
「あの子は……魂魄はどの狐よりも巫女というものに憧れておった。
いつか自分が絶対に巫女になると、そう信じて疑わなかったのじゃ」
「……でも、それは……」
「そう……妾達はあくまで巫女を支援する存在。
決して巫女になる事は叶わぬ。
多くの狐達はそれに気付き、その思いを自分の使命へと昇華させるのじゃが……あの子だけはいつまでも諦めなかった。
それが……あ、あの、悲劇を……」
余程のことがあったのだろう。
大婆様は肩を震わせて俯いてしまった。
「その……そんなに悲しい出来事があったのであれば言わなくても……」
「い、いや……こほん。
巫女殿にはしっかりと聞いて貰わねばな。
先程も話した通りに魂魄は装束を盗みだしてしまったのじや。
あの神装は次代の巫女のための物。
妾達はすぐに追いかけて見つけたのじゃが……あやつは狐の姿でどう着たものか奮闘しておる最中じゃったのじゃよ」
その時の様子を思い出したのだろうか?
面白くて仕方ないとばかりに銀様は笑い始めた。
「知っての通り、妾達は人へと変化することが出来る……だが、それが出来るのは一握りじゃて。
まだ子供であり、術の修練よりも巫女の英雄譚を読む方が好きじゃった魂魄に人への変化など無理な話じゃ。
更にその後の修練で魂魄は変化がかなり苦手だと言うことが分かってのう……ほれ、分かるじゃろ?」
「え、ええ……それはもう」
コンが普段、アニメに出てくる狐の妖精のような姿をしているのは変化の術の賜物である。
だが、これはなろうと思って変化したものではなく、元は失敗した末に出来た代物らしい。
ただ、この姿で喋った方が愛着を持ってもらえるのではないかと考え、ニチアサ系精霊ポジションを目指してあの姿を保っていると聞いたことがあった。
「そこで現実を思い知った魂魄は、それ以降は真面目に修練しておったよ。
巫女殿の刀に変化する修練には特にのう。
それから現代の社会に入っても溶け込めるようにと、若い女性の流行やファッションなどを勉強しておった。
まさか、それがら巡り巡って巫女殿の役に立つとは思わんかったがのう」
「そうですね……コンには本当に助けられてますよ」
男から女に変わった私は、生活の殆どをコンの知識に頼っていた。
そのお陰で女性としての常識や意識が育まれたのは間違いないだろう。
「魂魄は才と心構えの二つともに時代の長にふさわしい……巫女殿。
どうか、あの子のことを宜しく頼みます」
「任せてください。
きっと、コンは守ってみせますから」