九尾へ
「そっちで行くコン?」
「え、ああ……大丈夫!
暴走はかなり抑えられるようになったから」
不浄発生の報告を聞いて早速変身したのだが、私が纏ったのは黒薔薇の方であった。
「……確かに以前よりもおかしな雰囲気は感じなくなったコンね」
「こっちの方が近接がやり易くて便利だから。
安定しているならこっちで行こうかなって」
「分かったコン。
ゲートでお留守番しているから、気をつけて行ってくるコン」
ゲートにコンとリルを置いていって暫し進む。
二人が完全に見えなくなってから大きなため息を吐いた。
近接がやり易いとか暴走しにくくなったというのは本当である……だが、キツネに変身しなかったのは単純に怖かったからだ。
キツネに変身した瞬間に尾が増えており、神のシステムに取り込まれる……そうなったら日和にもセッちゃんにも……そして、真守にも会えなくなってしまうだろう。
私は何のために契約をしたのだろうか……真守と一緒にいたい。
そう思って契約した筈なのに、その契約が私と真守を引き裂こうとしている。
どうしたらいいか分からずに、ずっとモヤモヤとした気持ちだけが私の中で渦巻いている。
そんな気分のせいか、今日は黒薔薇を着ていても、いつも以上に昂揚感は湧いてこなかった。
全く戦いに集中できていない状態ではあるが、それでも身体は勝手に動く。
人型の不浄を仕込み刀で突き、その陰に隠れて強襲してきた犬型の不浄を日傘で打ち落とす。
今の私は上の空だろうがその辺りの不浄には後れを取ることはないだろう。
契約に基づいて強くなった。
強くなった先に真守との幸せがあると思ったから……でも、それは間違いだった。
「……はぁ、かえろ……」
そう言って一歩踏み出した時であった。
地面が大きく揺れ、下から何かが迫り上がってくる。
咄嗟にジャンプで範囲外に離れたのだが、反動もあって空中高くに放り出されてしまった。
高さにして10メートルはあるだろうか?
変身していなければタダでは済まない高さである……何とか体勢を整えようとした時であった。
「え……うそ?」
黒薔薇への変身が解けて制服姿に戻ってしまう。
時間を設定した覚えは無いが、ボーッとしていたので無意識に何かしてしまったのかもしれない。
「くっ……嫁入りを願います!」
一瞬躊躇するも他に選択肢は無かった。
私はキツネへと変身し、現れた護国に掴まって地上に降り立った。
「尻尾は……!?」
慌てて自分の尻尾を確認する。
そこには九本の尻尾が自己を主張するように振り振りと動いていた。