憑依
結局のところ何の打開策も見いだせぬままに解散する事になった。
部屋に戻り、狼のぬいぐるみを抱きしめながらため息をつく。
「はぁ……本当に何をしてるのよ」
浮かんでくるのは姿を消してからいまだに姿を見せない真守の事である。
狼の里で修行をしているらしいのだが、一切連絡をよこさずに一ヶ月以上の時間が過ぎてしまった。
この間にも私の周りはどんどんと変化している。
一人で不浄を退治しに行っても何とかなるようになった。
ずっと大事にしたいと思う大切な友達が出来た。
尻尾が八本に増え、九尾になったら神様になってしまうという。
それに戯や疋様の正体……これらは全て真守がいなくなってから起きた出来事である。
この真守がいない状況に慣れてきている自分が嫌だった。
私の世界が真守がいなくても回る環境を作ろうとしているのも嫌だった。
真守と最期の時まで一緒にいたい気持ちは変わらない。
変わらない筈なのに……
「も〜ばか!
何処で何してるのよ……」
狼のぬいぐるみに顔を埋めて何度も愚痴ていると、疲れが溜まっていたのだろうか?
私はいつの間にか意識を手放していた。
漠然とした意識の中……目を開いた訳でもないのに、目の前が拓く。
目の前にいたの疋様で、以前見た着崩した巫女服を着ている。
「どうした?もうへばったのか?」
「まだまだ……こんなもんじゃ足りないくらいだ」
自分の口から聞き覚えのある声がして驚く。
(これ、真守の声だ)
この時に気付いたのだが、私は身体を一切動かせず、視線すらも動かせない。
つまり、これは……
(今の真守の視点ってこと!?)
理屈はよく分からないが、私は真守恋しさに生霊となって取り憑いてしまったのかもしれない。
そうやって私が状況を理解している間も、真守の修行は進行していく。
何度も投げ飛ばされ、打撃を受けては膝を屈し、それでも立ち上がって修行を続けている。
それは私が想像しているよりも遥かに過酷で凄惨な光景であった。
どれだけの時間が過ぎただろうか?
「今日はここまで!」
疋様がそう言って下がっていく。
(今日はこれで終わりなんだね。
真守……頑張ってたんだ)
真守の頑張っている姿が分かり心が熱くなる。
私も負けないように頑張らないと……そう決意を新たにした時である。
「次はワシの番じゃな……さ、構えるのじゃ」
そう言って真守の前に現れたのは、真守のお爺ちゃんであった。
真守はフラフラしながらも構えをとる。
疋様との組み手で体力の殆どを使い果たしていたのだ。
当然、お爺さんとの組手はまともに身体が動いていない。
それでいて、疋様の優雅な動きと違い、荒々しい動きで真守に襲いかかる為に更にボロボロになっていく。
(もうやめて!!)
叫ぶけれども伝わらない……もどかしい気持ちでそれを見ていた時だった。
「どうじゃ……マトモに動けぬ事じゃし、ここでやめにするか?」
「いいや、まだまだ……こんな所で止まるわけにはいかねぇ。
アイツは……日向は今、一人で踏ん張ってるんだ。
なら、俺が楽をするわけにはいかねぇよ。
日向を守るのが俺の役目だからな!!」
「よくぞ言った!
ならば手加減無しで行くぞ!!」
そうしてお爺さんは再び厳しい組手を再開する。
こうしてボロボロになって、それでも立ち上がって修行を続ける真守の視点を見ているうちに意識が剥がれていくのを感じた。