生還
「日向!しっかりするコン」
「巫女殿!目を開けられよ!!」
私を呼ぶ声がし、身体を揺さぶられる感覚がする。
その声と感覚に反応するように徐々に目を開く。
そこには心配そうにこちらを見つめる紅蓮さんとコンの親子の姿が見えた。
「良かった……目を覚ましたコン」
「どうなる事かと思いましたぞ」
2人は安堵の表情を浮かべて大きく息を吐く。
「巫女殿……よくぞ無事に戻ったのじゃ」
少し離れた所から銀様の声がし、そちらの方を向く。
表情はいつも通りだったのだが、その声色から銀様も心配してくれていたのが分かった。
「私……一体どうしたの?」
「話の途中で急に日向が倒れちゃったコン!」
「それはそれで問題だったのですが、それだけならまだ良かったのです。
しかし、段々と呼吸が浅く……心拍も弱くなり、明らかに衰弱していったのですぞ」
「それで必死に呼びかけたら少しずつ日向の体調が戻ってきたコン」
コン達からの話を聞くに、恐らく戯は私の精神を何処かへと連れ去っていったのだろう。
そして、自己を認識する事が困難なあの場所で私の精神は一度溶けて消えかけた事で身体が衰弱していったのだ。
だが、コン達の呼びかけによって私は自分を取り戻し、結果的に身体の方も元に戻っていったのだと思う。
「ありがとね……コン達の声が届いたから戻ってこられたよ」
コンの頭を優しく撫でると、コンは嬉しそうに身体を振るわせた。
「それで巫女殿よ……何があったのじゃ?」
「それは……」
私は戯との先程のやりとりを説明する。
不思議とその時のことを鮮明に覚えており、一語一句間違わずに伝えられたと思う。
「ふむ……九尾に行き着いた先に、巫女殿の急な成長の理由のう。
正直、これに関しては筋が通っておると思うのう」
「私もそう思います。
問題なのは戯が私を鍛えるために今までの事をやっていたという部分です。
日和の精神に入った時に彼女はこう言っていました。
この結末がどうなろうと楽しめればいいと。
そして今回も私が死にかけた時に失敗したなら次の世界に行けば良いと。
そこから考えると……」
「嘘じゃろうな……恐らくじゃが、自分が楽しむために巫女殿に色々と仕掛けていた。
そこに神の思惑が重なって結果、偶々巫女殿が加護を自らの力へと変えてしまった。
そこに乗っかっろうとしたブラフであろう」
「やっぱりそうですよね……九尾になって神に取り込まれるのも嫌だし、だけど戯の存在も放っておけないし……どうしたらいいんでしょう?」
「うーむ……」
あまりにも大きすぎる問題に私達の空気は重く沈んでいくのであった。