自己の認識
今までのことを思い出してみる。
確かに戯が最初に現れた時に尻尾が三本に増えた。
その後も彼女が関わる事件を解決する度に力が増していったのは事実だ……まさか、本当に?
「何故……そんな事を?」
「決まってるじゃないか。
真実を知って神と戦う仲間が欲しかったからさ。
その為にいろんな世界を渡ってきたけど、お姉さんが初めてなんだよ。
ここまでの領域に辿り着いたのは」
神と戦う?
私だけが辿り着いた?
何かがおかしい気がする……だが、それが何なのか分からない。
そうだ……さっきまでいた仲間達と相談……
仲間達?
私は誰と一緒にいた?
それにここは何処だ?
周囲の景色がドロドロに溶けている。
ハッキリ見えるのは戯の姿と自分のすが……
自分の姿って?
私は男だった?
僕は女だった?
分からない……周囲の流れと一緒に全てが溶け出しそうだ。
「ありゃ……ここまで力が高まったならイケるかと思ったけどダメかな?
今回は諦めて次の世界で遊びなおそうかな」
戯の声だけがハッキリと聞こえる。
だが、周囲の景色と同じように自分の思考が溶け出していて考えがまとまらない。
何よりもこの光景に身を任せたいという欲望が強くなっていく。
このまま目を瞑って溶けて無くなってしまおうか……そんな考えが頭をよぎった時であった。
(日向!しっかりするコン!!)
(巫女殿、自分を保つのじゃ!)
(しっかりしてください、巫女殿!)
何処かで聞いたことのある声がする。
(ひーちゃんがいなくなったら嫌だよ!)
(日向ちゃん、目を覚ましてください)
(日向ちゃん、目を開けて!!)
大事だったような気がする人の声が聞こえる。
その声の一つ一つが私に力を与える。
溶けて無くなりそうだった私を認識させてくれる。
与えた加護が、繋がった絆が私という存在を思い出させてくれる。
私は稲荷日向……巫女の契約により男から女に変わった高校生。
そして、契約によってキツネへと変身して不浄を浄化する巫女。
溶けそうになっていた身体が固まり、固体としての自分を取り戻していく。
目の前にはこの光景を楽しそうに見ている戯がいた。
その笑顔は無邪気でありながら邪悪。
全てに興味を持ち、それでいて真には興味を持っていない。
こいつの話は本当であり、嘘である。
だからきっとさっきの話も……
「やっぱり私は貴女を信用出来ない」
一部は本当だが、殆どは嘘なのだろう。
「いや〜お姉さんは本当に素晴らしいね。
こんなに当たりだと思った世界は今までにないよ。
……今日は返してあげるし、暫くは手出ししない。
それと、神のシステムは本当だから九尾にはならないで欲しい。
これは本当さ」
戯がそう言った瞬間に周囲が乱れていく。
「また何処かで会おう……日向お姉ちゃん」
戯の言葉を最後に周囲が真っ暗になり、何も見えなくなる。
それと同時に私の意識は闇へと落ちていった。