九尾に至るという事
「まぁ、巫女殿の異常さは今に始まった事ではないからのう。
それは置いておくとして……8本目の権能とは一体何なのじゃ?」
「あれ、姫巫女様も八尾にはなったんですよね?
銀様は何も聞いてないんですか?」
「姫巫女様が八尾になったのは処刑される直前じゃったからのう。
詳しい話は聞けなんだよ」
「あ……ご、ごめんなさい」
「よいよい……いつまでも引きずっておっては今を生きる者達に示しがつかぬからのう」
そう言って笑う銀様の顔は晴れやかであった。
それは以前の姫巫女様に執着していた頃より、遥かに素敵なもの思えたのであった。
「あ、それで八尾の能力なんですけど……今までは尻尾が生えた瞬間に何となく伝わってきたんです。
でも、今回は全然なんですよね」
「では、全く分からないと言う事でございますか?」
「一応、ヒントになりそうな出来事ならあったコン。
日向の弟と友人が人間にはあり得ない力を出してたり、擦りむいた怪我が一瞬で治ってたコン」
コンがそう言うと銀様が一瞬、険しい表情を作る。
「その人物ら、或いは他にもかのう。
何か変化などは無かったか?」
「え、ああ……うーん。
あ、そう言えば不浄が現れた時に時間が止まってなかったかな」
「……ならば間違いなかろう。
時に巫女殿よ。
何故世界の時間が止まった中で動けるか分かるかのう?」
「え?変身できるから……だと、コンとかリルが止まらない理由にはならないかな」
「半分ほどは合っておるかの。
正解は加護を受けておるからじゃ。
加護を受けた者だけが止まる時間の中で活動を許されておるのじゃ」
「え?じゃあ、日和達も神様から加護を受けてるって事?
ひょっとして望んだら、日和も巫女になれたりするのかな?」
「いや……加護を与えておるのは神ではあるまい。
恐らくは……巫女殿が加護を生み出して与えておるのじゃ。
まるで神のように……」
そう話す銀様の目には恐れと畏敬の念のようなものが浮かんでいる。
「ま、まさか……巫女殿が神に至るというのですか?」
「分からぬ……全く前例の無い事じゃから何とも言えん。
だが、九尾に至るというのは、ひょっとしたら神に成るという事ではないのじゃろうか?」
「は?ちょっと待ってよ。
私、神様になんてなりたい訳じゃないよ。
私の目的は真守と一緒に過ごして最後まで寄り添いたいだけなんだから」
「でもねぇ……九尾になったら神様に認定されてあっちの世界に連れて行かれちゃうんだよね」
聞き覚えのある声がして一斉にその方向を向く。
そこには異世界から来た自分……現在は戯と名乗る少女が立っていた。