襲いかかる狂気
5-2です。
「あそこに見えてるのが私の住んでるマンションだよ」
楽しそうに空いてる方の手で指差すセツナさん。
もうすぐ彼女を送り届けるという、姉ちゃんから与えられた任務が終わる……そう思った時であった。
「ふふふ、そんな可愛い男の子連れて楽しそうじゃないの」
物陰から1人の女性が現れた。
その人は髪はボロボロで酷くやつれ、眠れていないのか、目の下にはクッキリとした隈があった。
「風子……」
セツナさんがポツリと呟く。
「アイツらとは連絡付かないし、やっと見つけたと思ったら人が変わったように真っ当になってた。
おまけに教室でやらかした粗相のせいで学校にもマトモに行けない……あたしは不幸の真っ只中だって言うのに、何であんたはそんなに幸せそうなの?
あんたは私がいなきゃ何もできないクズのくせに、こんなの不公平だよね!!」
風子と呼ばれた女性は、定まらない目線の中で早口に捲し立てて叫ぶ。
その瞳にと状態に危険を感じた俺は、セツナさんの手を離すと庇うように前に出た。
「セツナさん、俺の後ろに」
「でも……」
「あらあら、可愛いナイトさんだこと。
でもね、お姉さん達の会話の邪魔をするのは良くないわよ」
風子の瞳に宿した狂気が増したような気がして思わず怯みそうになる。
だが、ここで気後れなど出来はしない。
「俺は姉ちゃんからセツナさんを守るように言われてるんだ。
悪いけど、正気に見えないあんたをセツナさんに近寄らせる訳にはいかないね」
「姉ちゃん……それにその顔……稲荷の弟か!
くっくっくっ……それなら君も無関係じゃないね。
アイツには私よりも不幸になってもらわないといけないんだから」
風子はそう言うと懐からナイフを取り出した。
「可愛い弟君と友人を一度に失ったら……あいつは私よりも不幸になるに違いない。
恨むんならあのアバズレの弟に生まれた事を後悔する事ね」
そう言って風子はナイフを構えてこちらに突っ込んでくる。
俺は咄嗟にセツナさんを突き飛ばし、こちらに向かってくる風子に身構える。
正直な話、格闘技を習っているからとはいえ、小学生がナイフを持った高校生など相手に出来る訳がない。
冷静な部分では逃げた方がいいという自分もいる。
だが……姉ちゃんに任された事もそうだが、俺個人としてもセツナさんを守りたいと思った。
そして、大切な姉ちゃんをアバズレだと馬鹿にしたコイツが許せないという怒りの心もあった。
結果、ナイフを持って襲いかかってきた風子と戦うと決め……いま、彼女は俺の足元に蹲って倒れていた。