黒く染まる
ゲートを抜けた先、そこは見覚えのある場所であった。
「ここって……この間のオンボロビルじゃん」
「場所は地下みたいだコン」
「場所までおんなじって……あ、嫌な予感がしてきた」
コンが示す通りに外側にある階段を降りて地下へと向かう。
扉を開くと中では人型の黒いモヤが複数いたのだが……
「ひー、ふー、みー……多分あの時と同じくらいの数かな。
それに……あんなに目立つのがいるとね」
奥には一際大きな人型の不浄が座っていた。
恐らくだが、ここにたむろしていた不良グループの負が不浄へと変わったのだろう。
パタンと扉を閉めると、全員が一斉にこちらを振り向く。
「やばっ……こっちでも近接は出来なくは無いけど、これだけの数は……っと、思った以上に早い!?」
今までに相手をしてきた不浄達とは一線を画す動きでこちらに近づいて来る。
また、前に戦った不良達とは違い、その動きは非常に洗練されて統率が取れていた。
この動きをされてしまうと、瞳術との組み合わせ技は使えない。
術式を練るための時間が足りなさすぎる事に加えて、ポイントで発動するため、発動までのラグで回避されるからだ。
「仕方ない、黒薔薇!
リミットは……5分」
私は瞬時に黒薔薇へと切り替える。
室内での近接戦闘であるならば明らかにこちらの方が有利……心配なのはただ一つ。
(数が多い……なのに1人切る度に気分が高揚して来る。
終わるまでに暴走せずに耐えれるの?)
そう……黒薔薇は私の加虐心を増幅し掻き立てる効果がある。
それが一定のラインを超えてしまうと、私はその加虐心に支配されて暴走してしまう。
そうならないように制限時間を設けてはいるのだが……
(前は3分いけたからって5分は長かった?
そもそも、初手で不意をつけなかったのが……ああ、もう!!
こんな時にオオカミがいてくれたら良かったのに!)
修行で私を放ったらかしにしている相方に愚痴る。
そもそも、私は後衛の筈だったのに1人で全部こなさないといけないのが理不尽なのだ。
増幅される加虐心に加えて、この場にいないオオカミに対してもイライラが募ってくる。
そのせいで前回よりも遥かに精神が不安定になっていたのだろう……私は限界点を見誤っていた。
「あ……」
理性のラインを超えたのが分かった。
もう自分では止めれない……止まらない。
欲望の赴くままに周囲を破壊する……その感情に身を任せる気持ちよさに邪悪な笑みが顔に浮かぶ。
もういい……全てを叩き潰す。
その心に染まりそうな時だった……
(姉ちゃん、頑張れ!!)
(ひーちゃん、無事でいて)
私を応援する声と、私の無事を願う声。
2つの声が私の耳にハッキリと聞こえた。