止まらない友人
授業中に1人の女生徒が盛大にやらかした……そんな噂が流れたりもしたが、人々はすぐに別の事に興味を移す。
真守のいない日常にもすっかり慣れたようで、それが当たり前の生活が続いていく。
唯一変わったのは……
「ひーちゃん、次は移動教室だから一緒に行こう」
私に積極的に声をかけてくれる友人が増えたことくらいである。
「え、あ、うん……行こっか!
声かけてくれてありがとね、セッちゃん」
ボーッと意識を飛ばしていた私はセッちゃんの声でハッとする。
「気にしなくて良いよ。
また大山さんのこと考えてた?」
「あ、うん……まだ帰って来ないんだなって」
「それだけ大事な友達だと寂しいよね。
私じゃ代わりにはなれないだろうし……」
「そんな事ないよ!
代わりとかじゃなくて……こうやって仲良くしてくれるの、本当に嬉しい。
セッちゃんと友達になれて本当に良かったって思ってる」
「……もう、ひーちゃんってば無自覚なタラシなんだから。
大山さんがいない今くらいは譲ってもらわないとね……行こう!」
「え、なんの……って、わあああ!?」
セッちゃんは唐突に私の手を掴むと急かすように引っ張る。
抵抗しようとすれば簡単にできるのだが、友人のふざけ合いと思い、されるがままで移動先の教室へと向かったのだった。
時間になり授業が始まる。
移動先では席が自由だったので、セッちゃんと並んで座っていたのだが、その時に事件が起きた。
それまで講義していた教師の動きが……教室の仲間の動きが……世界そのものの時間がピタリと止まる。
「日向、また不浄が現れたコン!」
「また?
最近多くない?」
「これほどの頻度で発生した事例はないな。
それでも鎮めてもらわねば大変なことになってしまうのでな……すまぬが」
「はいはい、分かりましたよ」
いつもの調子で現れたリルとコンに応えて立ち上がったところで、ガツッと腕を掴まれた。
「ひ、ひーちゃん……何が起こってるの?」
「ええ!?
セッちゃんもなの?」
「私もって……何の話?
それにこの喋る動物達も何なの?
可愛いとは思うけど」
「可愛いって言われると照れるコン!」
「どうせなら格好良いと言って欲しいものだな」
「わぁ、ちゃんと言葉通じるんだ!
可愛いし、格好良いよ!」
そう言ってセッちゃんが2人を撫でると満更でもない反応だ。
「ごめん、セッちゃん!
後で説明するから、とりあえずこの状況何とかしてくる」
「多分ひーちゃんの不思議な力と関係してるんだよね?
分かった……待ってるから無事に帰ってきてね」
「うん、ありがとう。
それじゃあ、ちょっとごめんね」
そう断ってからセッちゃんが掴んでいた腕を離す。
「無垢なる姿で……今、嫁入りを願います」
変身ワードを口にしてキツネへと変身する。
「うわあ……ひーちゃん、可愛い!」
「ありがと!
じゃあ、行ってくるね」
「うん、なんだか分からないけど頑張って!!」
そう言って見送ってくれたセッちゃんに別れを告げ、私はリルの作ってくれたゲートに飛び込むのであった。