ギャルとひーちゃん
路地裏のボロビルから出てきた私だが……一つ困ったことになっていた。
「ご主人様〜」
「あの、そのご主人様って言うのはやめて欲しいんだけど………」
「ええ〜でも、私にあれだけの悦びを与えてくれた方をご主人様以外にお呼びする事なんて出来ません!」
幻術から覚めた田辺さんは、何故か私の右腕にしがみつき、私の事をご主人様と呼び始めていた。
誓って言うが私自身は彼女に一切手出しをしていない。
あくまで幻術をかけただけである……いや、確かにサディスティックかつ、心が折れた時に解けるように設定してはいたが。
「とにかく周りの人にも変な目で見られちゃうから、ご主人様はやめて。
ほら、クラスメイトなんだし稲葉でも日向でも何でも良いから。
あと、敬語もやめて」
「む〜それがご主人様の望みなら仕方ありませんね。
ひーちゃんって呼んでいい?」
「いや、確かに何でもとは言ったけど、距離の詰め方エグくない?
さすがギャル」
「ねっねっ、ひーちゃんお腹空いてない?
お詫びに奢るからもう少し一緒に居ようよ」
田辺さんはグイグイと腕を引っ張ってきて離しそうにない。
私は仕方なしに……お腹が空いていたのも事実だったので、もう少し彼女に付き合うことにした。
駅前の大手ハンバーガーチェーン店に入りテリヤキのセットを注文する。
田辺さんはこの時期ならではの月見セットにしたようだ。
商品は出来上がり次第届けてくれると言う事で、2人で席に移動する。
「ねぇねぇ……ひーちゃんって何者なの?
絶対に普通の人間じゃないよね」
椅子に座った途端にそんな質問を投げかけてくる。
「別に……普通の人間だよ」
「普通の女の子があんなに強かったり、変な技使ったり出来る訳ないじゃん。
あたしに催眠プレイまでしちゃったんだから教えてよ」
「催眠プレイって……人聞きが悪いなぁ。
あれは変な悪さをしてきたお仕置きだよ。
そもそも女の子を嵌めて、男達が待ち構えているところに誘き出す方が悪いでしょ」
「それは本当にごめん……ほら、さっきも言ったけど、あいつ等に弱み握られてたから」
「弱みってどんな?」
私が質問すると田辺さんは一瞬口を閉じる。
「言いたくないなら別に良いよ」
「いや、ちゃんと言うよ。
こんな事して許されるとは思ってないけど、ひーちゃんとは本当に仲良くなりたいし。
だから聞いて!」
そうやって田辺さんが話した内容は私の想像を絶するものであり、改めてあの不良グループを潰しに行くかと思わせるものであった。