幻術の牢獄
不良軍団の頭が一発で吹き飛んでいった事で、周りの取り巻き達がざわつき始める。
「私ね……いま、割とイライラしてるの。
こんな事をしでかしてくれたからには、ストレス解消に付き合ってもらうからね」
「ふ、ふざけた事抜かしやがって!
一斉に抱えて押さえ込んじまえ!!」
不良達の1人がそう言って一斉に私を取り囲む。
さっき見せた一撃でビビる奴がいても良さそうであるが、目のギラツキを見るに、それ以上に性欲に支配されているようだ。
押さえ込まれた所でどうと言う訳でも無いのだが、こんな奴らに触られるのも嫌だなぁ。
と言うわけで瞳術と幻術を組み合わせ、周り全体を見渡す。
「へへっ……これだけの人数で押さえ込んじまりゃ、こっちのもんよ。
おら、いくぞ」
そう言って不良達が一斉に飛びかかってくる……私の横の空間に。
前後左右から何も無い空間に飛び込んでいった為に、男どもがぐんずほぐれつ、阿鼻叫喚の地獄絵図である。
そんな中で、私が床をどんと踏みつけると、その部分から無数の鎖が現れた。
鎖は男達の元へと飛んでいくと、あっという間に雁字搦めに拘束してしまった。
「おい、変に動くな!」
「お前の股間が顔に来てるんだよ!!」
「なんでちょっと大きくなってんだよ!?」
「お、ふぅ〜おお、イエス」
何かちょっと喜んでる奴いないか?
ひょっとしたら新しい扉を開いてしまったのかもしれない。
悲喜こもごもな雄叫びをあげる男達の塊は無視して、私は入り口の方へと顔を向けた。
そこでは青い顔をした田辺さんが、必死にカチャカチャと鍵を開けようとしているのだが、何故か全く開かない。
「な、何で開かないの?
あいつがあんな化け物だなんて聞いてな……」
「た〜な〜べ〜さ〜ん〜!!」
「ひぃっ!?」
そんな田辺さんの肩をガツッと掴む。
「そんな何も無い所で扉を開ける動作して何してるの?
パントマイムの練習かな?」
「えっ……ええ!?」
田辺さんが視線を前に向ける。
そこには鍵の掛かった扉などない、普通の壁であった。
彼女には最初に鍵をかけられた時に既に幻術を仕掛けておいた。
目が覚めた事で今度はしっかりと確認できた扉の鍵を開ける。
幸いにも本物の扉はすぐ近くにあったので、慌てて扉を開けて飛び込む。
そうして扉を潜った先には……
「いらっしゃい。
それじゃ約束通り遊ぼうか」
この私、稲葉日向が先程と同じ部屋の中心で待ち構えていた。
「ひ……え、ひいっ!?」
慌てて元の扉に戻ろうと振り返った時に彼女は気付いただろう。
部屋のあちこち無数の扉が現れていることに。
「ルールは簡単さ……本物の扉を当てて無事に帰るだけ。
間違った扉を選んだ時にはここに戻されるから注意してね!
あ、その時は罰ゲームのお仕置きがあるよ。
だいじょーぶ、だいじょーぶ。
私が優しく虐めてあげるから……ふふ」
「ひいいいいいい!?」
こうして田辺さんは私がかけた幻術の牢獄に迷い込んでいったのであった。




