目の錯覚
「へぇ〜よく分からないけど凄い事が起きてたという事ですね。
それって日向ちゃんも出来るんですか?」
「えーっと、カメラがあの位置だから……どうですかね?」
「ちょっと待ってくださいね……あ、日向ちゃんの前に真守ちゃんが座ってるように見えます!
この映像はブレてないですね」
一旦、調理部屋に戻ってカメラを確認した美幸さんが感心したように話す。
「疋様の場合と違って、私の前に真守の幻影を嵌め込んだだけですから。
ここに幻影の私を混ぜ込むと……どうです?」
「えーっと……あ、確かに画面が二重になって見えますね。
理屈はなんとなく分かりましたけど、何で全体が二重に見えるんですかね?
日向ちゃんの部分だけでも良さそうですが」
美幸さんの見えている世界は分からないので何とも答えようがない……しかし、話している通りに私のところだけがブレて見えているわけではないらしい。
どういうことか分からずに悩んでいると、ひょっこりとコンが顔を出してきた。
「予想でしか無いコンけど、視覚に幻影が多く混じると脳がバグを起こすんだと思うコン。
更に元の映像と重ねた場所に幻影を配置する事で脳の混乱が加速したんだと思われるコン。
人間の脳や視覚は割と当てにならないコンよ」
「あら、久しぶりですね。
それにしても脳がバグを起こしていると聞くと穏やかじゃないですね」
「思い込みみたいなものだから気にしなくていいコン。
身近な思い込みによる視覚の誤情報だと鏡も同じコン」
「鏡って……どういうこと?」
私はコンの言っている意味が分からずに首を捻った。
「鏡は本来は全てを反転して映すものだコン。
所が自分たちから見ると左右にしか反転していないコンね」
「それは……言われてみれば確かにそうですね。
何となくそれが当たり前だと思っていましたが」
「これについては明確な答えはまだ出ていないから一説として聞いてほしいコン。
鏡が上下に反転して見えないのは、頭が上で足が下という人間の固定概念からと言う話があるコン。
つまり、本当は上下反転しているのに、人間の錯覚と思い込みの力で強引に反転していない事にしている……という説コン」
「それって何か力技すぎるような……」
「でも、そう考えると見えているものが実は違っている可能性も高くてロマンがありますね。
コンちゃん、教えてくれてありがとうございました」
「このくらいお安い御用コン」
エヘンと胸を張るコンに対して素直に頭を下げる美幸さん。
やっぱり憧れちゃうなぁ……真守の将来が疋様なのは納得だけど、私の将来の可能性……の一つが戯かと考えると若干憂鬱になるのであった。