並行世界の出来事 4
「そんな……私は……どう言えば……」
疋様の正体を知ってしまった私は深く動揺していた。
並行世界とは言え、私のせいで過酷な運命を背負った真守が目の前にいる。
それだけで胸が苦しくなり、涙が止めどなく溢れてくる。
「気にしなくていい……私は君の知る真守とは全く関係のない別人さ。
こちらこそ、私たちの問題をこの世界にまで持ち込み、あらゆる人達を巻き込んでしまった事を申し訳ないと思っている」
疋様はそう言って再びテーブルの上で頭を下げた。
確かに疋様の言う通りに、彼女達がこの世界に来なければ起こらなかった問題ではあるのだろう……それでも……
「この世界にたどり着いてどれほどの年月を過ごしたのかは分からない。
でも、それだけ長い時間を過ごしたのなら、疋様はもうこの世界の人間なんだと思う。
だから……戯の事、一緒に解決しよう」
「ひな……」
疋様は何かを言いかけ、そして首を振って俯く。
心配で覗き込もうかと思った時、ガバッと顔を上げた。
その顔は全ての迷いが無くなったように晴れ晴れとしていた。
「感謝する、狐の巫女殿。
真守はもう少しだけこちらで預からせてくれ……必ず貴女の力になれるように仕上げるつもりだ」
「はは……手加減はしてあげてね」
「それは本人が望まないだろうな。
真守という人間はいつだって日向の力になる事しか考えてないからな」
「それは……今でも?」
「ああ、そうだな。
だから必ず止める……その為の力、貸してもらえるかな?」
「私で良ければ」
私の返事を聞いた疋様は満足そうに頷くと立ち上がった。
「今日は話せて本当に良かったよ。
……やはり君はどんな時でも私の太陽だ」
疋様は背中越しにそう語るとそのまま会計を済ませて店を出ていってしまった。
私はそんな背中を見送りながら、これから先の事を考える。
戯の正体はあまりにも意外であり、衝撃も大きかった……それでも平静でいられるのは疋様のお陰だと思う。
そうして冷静な頭で考えたのだが……
「どうしたものかなぁ……」
正直な話、どうすればいいか全く見当がつかない。
うーん、うーんと唸っている私の前にコトリと何かが置かれる。
「そんなに難しい顔してる可愛い顔に皺がついちゃいますよ」
「あ、美幸さん……」
顔を上げると、美幸さんが微笑みながらフルーツジュースを運んできてくれていた。
「そう言えばここって美幸さんの場所から見えるんでしたっけ?
話、聞こえてました?」
「それなんですけど……私には2つの映像が同時に出てるように見えたんですよね。
それで、試しに真由美ちゃん呼んで見てもらったんですけど……彼女には普通に2人が談笑しているように見えると。
これって……」
「多分ですけど、覗き見対策してたんでしょうね。
美幸さんはコンやリルが見えているので、映像も本来の映像と偽造した映像の2種類が見えてしまったんだと思いますよ」