並行世界での出来事 3
2-2です。
2022/09/25 誤字修正しました。
誤字報告受け付けました。
ありがとうございます。
「1人残された彼女は……呪いにかかっていた」
「呪い……加護が反転した感じ?」
言葉の響きからそのような事を想像したのだが、疋様は首を振る。
「いや、そんな理屈のあるものじゃない。
ただ、彼女は無条件に日向を信じていた。
自分が捨てられた事にも意味はある筈だと……何年も何十年も……どれだけの時が経ったのか理解できないほどに。
長い年月は彼女にかけられた呪いを少しずつ薄めていった。
放棄した思考が戻り、再び物事を考えるようになり……彼女は自分が捨てられた事をやっと自覚出来たんだ」
「そんな……」
自分では全く想像出来ない程の年月をかけて正気を取り戻していくというのはどんな感覚なのだろうか。
こんな浅い経験しかしていない自分では絶対に理解する事など出来ないだろう……ただ、言いようもない悲しさだけが心の中に去来してきた。
「その後、彼女は自らの力で世界を渡る術を探した。
日向の残した加護により不死に近い存在になっていた彼女は、更に長い年月をかけて遂に世界を渡る術を編み出した」
「何のために……何でその真守は世界を渡ろうとしたの?
堕ちた私に復讐するため?」
自分勝手に弄ばれた挙句に捨てられたのだ……そうなっても仕方ない。
だが、ここでも疋様は首を振った。
「いや……結局呪いは完全に解けていなかったのさ。
彼女は日向に滅ぼされた世界を渡り歩きながら追いかけた。
そして、日向の行動原理を知った。
日向が何を望んでいるのか、何を求めているの。
それらを知った彼女は日向に追いつき……更に追い越していった」
「え?……追い越した?」
「そう……日向が望んでいるものが、面白さのみである事を知った彼女は、先の世界で待ち受ける事にしたんだ。
準備を万端に整えて、日向の望む楽しさを与え……そして終わりを与えるために。
そう誓った彼女は次の世界に移り住み、狼の里の里長になり、ひたすらに待ち続けていたのさ」
そう話す疋様の目はとても優しく穏やかだった。
「狼の里の里長って……それじゃ、貴女が……」
「ああ、私が堕ちた世界の大山真守だ。
最も、その名前はとうに捨てたがね、
今の私は狼の里の疋……だから、今後もそう呼んでほしい」