並行世界での出来事 1
本日2話目です。
「驚いたな……まさかその答えにまで行き着くとは。
そう……アレの正体は別世界、救われなかった稲葉日向だ」
「救われなかった?」
私がおうむ返しに尋ねると、疋様は悲しげな瞳をした。
何を考えているのかは分からない……ただ、とても深い悲しみの色が宿っていた。
「君達が不浄との戦いに身を投じ始めた頃、犬型の不浄に襲われた事があっただろう?」
「それは……あったけど……」
あの一件は未だに思い出したくない出来事だ。
上半身を封じられ、犬型の不浄に曝け出した下半身を好き放題にされた……あの屈辱と恥辱は未だに忘れられない出来事である。
「思い出したくないのは分かる……だが、巫女殿は救援が間に合って助けられた。
そこは間違いないだろう?」
「それはそうですけど……ひょっとして……」
「アレはその数ある並行世界の中で、唯一救援が間に合わなかった。
狼の巫女が駆けつけた時には不浄によって徹底的に冒し尽くされ、身も心も堕とされたのだ」
話を聞いて青褪める……何せ途中までは自分の身に起こった出来事だ。
そして、もし助けが来なかったらという最悪の想像をした事も一度や二度の話ではない。
その度に助けに来てくれた真守に深い感謝を抱いていたのだから。
だが、そんな最悪の想像を経験したのが戯と名乗る私だと言う……いや、私の軽い想像など遥かに超えた悲惨な目に遭わされていたのかもしれない。
そう考えただけで心臓が鷲掴みにされたような苦しさを覚えた。
「それで……その後はどうなったの?」
それでも何とか言葉を紡ぎ出す。
私の身に起きた可能性の果てが戯だと言うなら、それは知っておくべき事だと思ったから。
「狼の巫女が駆けつけた時には身体の奥底まで穢れた状態だった。
コンやリル……この時はまだ名前が無かったかな?
それはともかく、周りが止めるのも無視した狼の巫女は手当てを行なった。
手当てにより目を覚ました狐の巫女は……」
疋様はそこで一旦言葉を途切らせた。
その先を言うのがとても辛いという表情で。
だが、意を決したように言葉を続け始める。
「狼の巫女に襲い掛かったのだ。
既に心まで堕落した狐の巫女に理性など無かった。
そして、狼の巫女は自分が間に合わなかったからだという責任から全てを受け入れてしまった。
結果……狐と狼の巫女、その両方が穢れに穢れて堕ちる所まで堕ちていったのだ」