戯の本当の正体
本日も2話更新。
「魔王?そんなものが……」
この現世にいるわけがない。
そう言おうと思ったのだが、思えば今の私の環境は常識外すぎる。
「私は少し昔の魔王像で話していてね。
現代では良い魔王を扱った作品も多数あるが、一昔前のイメージは世界を滅ぼす者だったはずだ」
「それじゃ、疋様は戯が世界を滅ぼす者だって言うの?」
「それは少し違うな。
アレは既に数え切れない程の世界を滅ぼし尽くしている。
自分の思うままに笑いながら幾つも、幾つも、幾つも……数え切れないほどの世界がアレの犠牲になったんだよ」
「既に……世界を滅ぼしている?
それも数え切れない程の?」
疋様の言葉に頭が追いつかない。
世界を滅ぼしていると言うのであれば、この世界は一体何なのか?
まさか、戯が宇宙からやってきて無数の星を滅ぼしてきた……なんて言うつもりだろうか?
「ああ、私が話している世界とはこの地球の事だ。
他の星からやってきた外宇宙の生命体なんて事はない」
「いったいどう言う事なの?」
全く意味が分からずに疋様に尋ねる事しかできない。
理解が全く追いついていなかった。
「その前に一つ確認しておこう。
狐の里が司る力が時間。
狼の里が司る力が空間。
この事については知っているね?」
「え、ええ……もちろん」
「では、この二つの力を手に入れたらどうなると思う?
時間と空間……いわゆる時空というやつだな」
「えっと……」
時間を自在に操り、空間をも使いこなす。
それは恐らくだが、過去や未来といった好きな時間に空間を繋げるのでは無いだろうか?
「つまりは時間移動が出来……」
そこまで呟いた時にハッと気が付く。
過去に移動して何かを変えた場合、元の時間に戻ったとして、それは同じ世界だと言えるのだろうか?
それは似ているようで違う……並行世界と呼ばれる場所では無いだろうか?
つまり、時空を掌握した者の本当の力とは……
「自由に並行世界を行き来できる?」
「素晴らしい……その通りだよ。
アレは幾つもの並行世界を渡り、その世界で欲望のままに遊び散らし、世界を堕落させ滅亡させたら次の世界へ……それを繰り返している存在なのだよ」
「そんな……」
あまりにも規格外の話に頭が理解を拒もうとする。
だが、その一方でこの話を聞いた私の脳は考えたくもなかった可能性を導き出そうとしていた。
狐と狼の力を操り、並行世界を渡り歩く戯。
私や真守を知っている発言をしており、彼女から与えられた力は自分のもののように馴染んだ。
黒薔薇を着て鏡に映った姿はまるで姉妹のよう。
ここから導き出された、私にとって最悪の答え。
戯の正体。
「戯は……別の世界の……私?」