魔王
2-2です。
ポタポタと水を垂らしながら黙る疋。
「お、おい、日向よ……」
リルは状況についていけずにオロオロとしている。
「あんたが何様か知らないけど、今までロクに動いて来なかったくせに」
私がそう言うと疋が動く……滴る水を拭こうともせずに彼女が取った行動。
それはテーブルに手をついて頭を下げる行為だった。
「今までの数々の非礼をどうか許して頂きたい」
「え?は……え?」
全くの予想外な行動に反応出来なかった。
この人の事だから、こんな事されてもヘラヘラして軽口を言ってくるのだろうと。
だが、彼女が頭を下げたときに纏っていた空気が変わるのを感じた。
軽薄な空気からどっしりとした重鎮のような空気へと。
「事情を説明したいのだが構わないだろうか?
無論、どうしても私の事が許せず信じられないと言うのであれば仕方ないが」
そう話す疋の瞳は先程とは明らかに違う、強い輝きを秘めていた。
私はこの瞳を知っている……何かに一生懸命打ち込んだ時の真守の瞳と同じだ。
……こんな眼で言われたら断る事はできない。
「……分かった。
その代わり少しでもふざけてると思ったらもう一回水がいくからね」
「それは2度とごめん被りたいものだな。
さて……最初に話しておくべき事だが……私の目的はアレを止め、封印する事だ」
「アレって……戯?」
「……そうだな」
疋様から一瞬だけ迷いのような表情が見えた気がしたのは気のせいだろうか?
気にしても仕方ないので、私は話を続けた。
「戯は一体何者なの?
銀様は初代の姫巫女だと思っているみたいだけど……」
「それは全くの見当違いだな。
巫女殿もそれは分かっていたのじゃないか?」
「ええ……話に聞いた人物像と共通点が全くないもの。
それに姫巫女が復活、もしくは今まで隠れていたとしたら、その理由も分からない」
話を聞く限りで姫巫女は常に周りのことを考えている人であった。
一方で戯は自分の事しか考えておらず、自分の目的のために周りの迷惑も一切考慮していない。
ここまで違う人物が同一だとは、どうしても思えなかった。
「考えている通りだな。
アレは人間の範疇で収まる人物ではない。
言葉通りの化け物だよ」
「疋様は戯の正体を知ってるの?」
「アレは化け物……いや、この時代に合わせて言うなら魔王。
そう言った類のものだ」