君をレンタルしたい
「それではこちらの席どうぞ」
「ああ、ありがとう。
それと、もう一つ頼みがあるんだがいいかな?」
「はい……何でしょうか?」
奥の席へと案内した女性は席に座ると更なる要求をしてきたので、私はつい怪訝な表情で答えてしまった。
「君をしばらく借りたいんだけど良いかな?
なに……向かいの席に座って話を聞いてくれるだけで良いんだが」
「お客様、困りますよ。
ここはそういうお店ではありませんし、私にも仕事があるんですから」
「今の状態なら返答はそうなるだろうね。
だから、これを君に渡そうじゃないか」
そう言って女性が懐から出したのは白い封筒であった。
「買収ですか?……幾ら積まれても……」
「そんなつまらない物は入っていないよ。
この中には君の求めるものが入っている。
確かめてご覧」
「……っ!?」
封筒の中には写真が数枚入っていた。
その写真に映っていたのは、いなくなった真守。
彼女が座禅を組んでいたり、滝に打たれていたりと、いま行っているであろう修行の写真であった。
「よく撮れてるだろう?
これでさっきの話を受けてくれる気になったんじゃないかな」
「そ、それは……」
正直な話、今すぐにでも彼女の話に飛びついて詳細を聞きたかった。
だが、今は仕事中であり、そんな勝手が許される訳がない。
迷っている私の右肩をポンと叩く感触がした。
「今日はもうシフトを上がってもらって大丈夫ですよ」
「で、でも……」
美幸さんの提案はありがたかったが、私が抜けたら周りのシフトのみんなに迷惑がかかる。
それは避けたかったのだが……
「真由美ちゃん、問題ないですよね?」
私の意見を先回りする様に真由美さんに尋ねる美幸さん。
「その分店長が働いてくれるなら構いませんよ」
そんな美幸さんに対して、冗談めかしながらもうサムズアップで真由美さんは答えた。
「はい、そういう訳ですので今日はさっさと上がってください」
「美幸さん、真由美さん……ありがとうございます!
すぐに着替えてくるので待っていてください」
私はそう言って事務所の方は向かう。
「ああ、君のような可愛い子とお話しさせてもらえるんだから幾らでも待つさ。
ゆっくりおめかししてくるといい」