どちらが彼女?
それから2週間……真守がいなくなって合計で3週間の時が流れていた。
流石にこれ以上休むと留年もあり得るのではないだろうか?
そう心配しながらも連絡を取る手段が無い私は悶々とした毎日を過ごしていた。
「まぁまぁ、そのうちひょっこり戻ってくると思いますから。
その時に笑顔で迎えてあげるのがお嫁さんの役目ですよ」
仕事中にも関わらず大きなため息をついてしまったのだが、それを見た美幸さんが心配して声をかけてくれた。
「お嫁さんって……結婚してないですよ。
というか、付き合っても無いですからね」
「え?あれで2人とも付き合ってなかったの?」
美幸さんとの会話を何処からか聞いていたのだろう。
真由美さんまでやってきてしまった。
「付き合って無いですってば。
それに何で私の方がお嫁さんなんですか?
真守も女の子なんだから、真守がお嫁さんでもいいじゃないですか」
「え、何でってそりゃあ……」
「2人を並べて、どちらが彼女役だと思いますかって聞いたら、十人が十人、日向ちゃんを選ぶと思いますよ。
正直な話、自覚はあるでしょう?」
「ぐぬぬぬぬ」
確かに自覚が無いかと言われれば自覚はある。
真守は全然女の子らしくならないのに対して、私の方は完全に身も心も女性化してしまっている。
そして、以前にこの店で2人で撮った写真を見ても、体格や身長差を考慮して私の方が女性側というのは納得してしまう。
だが……何というか、それを認めてしまったら負けみたいな気分があったので否定してみたが、悉く無駄であったようだ。
大人しく真面目に仕事するかとホールに戻ってきた時であった。
「いらっしゃいませー」
自動ドアが開く音に反応して声をかけながら、そちらの方を振り向く。
入り口には長い黒髪をたなびかせた長身でスーツ姿の女性がいた。
この甘ったるい雰囲気には似合わない、キャリアウーマン風の女性である。
30手前くらいの見た目であるが、背筋はピンとしており、女性の私から見てもとても格好良い女性。
そんな女性が入ってきたせいか、店内は途端にざわつき始めた。
「それでは席にご案内しますね」
「この店には周りから見えにくい、店長が気に入った客を座らせる席があるだろう?
そこに案内していただけないかな?」
「え……ちょっと確認してきても良いですか?」
「もちろんだよ……店長さんには是非ともオーナーによろしくと伝えてくれ」
「はぁ……」
オーナーによろしくという事は店長やオーナーの知り合いなのだろうか?
最も、私は店長の美幸さんだけしか会っておらず、オーナーの事は知らないのだが。
そんなことを考えながらも、美幸さんにその言葉を伝えると露骨に顔色が変わった。
「私に対してオーナーによろしく……そのお客様はそう言ったのですね。
……分かりました、希望する席に案内してかあげてください」
一体何の話だろうか?
私は首を捻りながら先程の客の元へと戻る。
「お待たせしました。
許可が出ましたので案内しますね」
「ああ、ありがとう」