夏休みデビュー×夏休みデビュー
新連載のラブコメです。
よろしくお願いします。
2022/08/22 誤字報告受け付けました。
いつもありがとうございます。
夏休みデビュー……それは長い休みの間に様々な経験を経た若者が大きく変化した外面と内面を見せる時に言われる言葉だ。
真面目な優等生が不良になっていたり、その逆も然り。
そんな中で俺……いや、私はこの世界の中でも最大規模の夏休みデビューを果たす事になる。
「よし、大丈夫。
ちゃんと可愛い……美少女!
さすがは私」
鏡の前で女子の制服を着た自分の姿を見て何度も頷く。
鏡の中では銀色の髪をした愛くるしい顔の少女が微笑んでいる。
何処に出しても恥ずかしくない完璧な美少女だ。
これならきっとあいつも気にいる筈……私はそうやって自分に何度も言い聞かせる。
(そこまで緊張しなくても周囲の人は驚かないコン)
「分かってても緊張するの!
……よし、行ってきます!」
頭の中に響く声に応えてから家を飛び出した。
通学している同じ制服の生徒達に紛れながら学校を目指す。
時折、周囲の目を確認するが誰も自分の事を不審な目では見ていない。
一部の男子は自分と視線が合うと、顔を赤くしながら慌てて別方向を向くので、そういう意味での視線は集めているのだろう。
だが、銀髪の少女が制服を着て登校している事に不信感を抱いてる様子はないようだ。
「ここまでは問題無しだな……あ、問題無しね」
(僕たちの神通力を侮っちゃいけないコン。
何も心配いらないコンよ)
「分かってるって。
こういうのは実際に体験してみるまでは頭で分かってても緊張するもんなの」
またも脳内に響く声に返答しながら学校へと向かっていく。
「おはよう!
ああ、おはよう……ちょっと待て。
その髪の色は校則違反だぞ」
校門の前では生活指導の花田が生徒一人一人をチェックしていた。
夏休みデビューを果たした者達は軒並み花田に問い詰められて絞られている。
「お、おはようございます」
「稲荷か、おはよう。
うむ……今日も素晴らしい黒髪だな。
全ての生徒がお前を模範にしてくれたら良いのだが……おっと、引き止めてすまない。
通っていいぞ」
「あ、はい」
花田の言葉を受けて窓ガラスでもう一度自分の姿を確認する。
そこには先程と同じ銀髪の美少女が映っていた。
「周りの人たちにはこれが黒く見えてるんだ」
そう呟きながら軽く指を通すと驚くほどに抵抗がない。
腰まであるサラサラの髪は以前の自分とは正反対であり未だに慣れない。
これなら……きっとこれならあいつも私の事を好きになるに違いない。
「待ってろよ、真守……この姿で絶対にお前をメロメロにしてやるからな」
意気込みながら教室の扉を開ける。
久しぶりにやってきた教室……キョロキョロと見渡して自分の席を確認する。
その右隣こそ目的の人物である大山 真守の席である。
真守は既に席に座っているようだが、緊張から目線を外しながら着席する。
逸る気持ちを抑えながらコホンと軽く咳払いをし、呼吸を整えてから真守の方を向いて挨拶をする。
「おはよう、まが……はぁ!?」
「日向か、おは……は?」
俺たちはお互いの姿を見て凍りつく……俺の幼馴染で昔から好きだった親友の真守。
その幼馴染はこの俺、稲荷日向と同じように夏休みデビューで男から女に性転換していたのであった。