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悪夢の夜に  作者: 赤さん
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第1節 2章 暗転編Ⅱ

既にできたものをコピペすると謎の空間ができてしまい読みにくいようなので頑張って修正しますね。


今回もよろしくお願いします。

篠原は自室で頭を抱えていた。


この世界にきてからというもの、緊張を解くことなくずっと頭を悩ませていた。

生徒たちの安全だけでなく、篠原は誰よりも冷静にこの状況を理解しなければならなかったからだ。

自分は少し天然なところもあったが、これまで仕事がよくできる女教師だった。

ところが篠原も他の生徒達と同様に突然救世主なんて呼ばれ始め、異世界に飛ばされたのである。

生徒たちの役に立つ情報もなければ実力もない。


まして、生徒が一名攫われたのだ。篠原はキリキリとお腹が痛むような気分を抑えながら昨夜の源二のことを思い出す。


「生きていて、源二...私が絶対連れて帰るから...」


篠原の言葉は届かなかったが、同じようなことを掲げていた生徒たちもいた。

ベットと椅子にそれぞれ腰をかける男子生徒3人、その顔は皆深妙だった

そこには龍弥と正吾、それと2人に言い聞かせるように座っている火属性魔法を会得した西宮和だった。

和は頭脳明晰で、少しシャイな性格を除けば最高の相談相手だったのだ。

龍弥は昨日起こったことをそのまま話すと少し考え込んだ様子を見せていた。



「もしかしたら、僕らにまだ教えられてない属性が存在してるのかもしれない。君達も見たろ、ゲンジ君の魔法は何も見えなかった。いや、むしろあの暗闇に完全に同化したようなそんな光景だった。


龍弥君が言っていたゲンジ君が血まみれだったのも、もしかしたらその教えられてない別の属性がこの世界の歴史の中でどうしても消したい存在だったとしたら...

僕らに秘密で殺そうとするのもわかるよ。」



「つまり、ゲンゲンは攫われたんじゃなくて助けられた?」


「確かに、そう考えればラインハルトが飛び込んでいったのも見方が変わるな...」


地属性を身に着けた八千正吾と雷属性を身につけた西原龍弥も肯定の感触を示す

和は頷くと続きを話し始める。


「ただ、僕らにはそれを確かめる術はない。残念だけど今は大人しく過ごしたほうが良い。でも、僕らを匿ってる存在が必ずしもいい人で、味方でいる可能性はないと思ってたほうが良いかもね。」


西宮は数少ない情報にも関わらず、現状をかなり論理的に捉えることができていた。しかし、肝心な証拠となるものがないこの状況ではただの高校生の推察に過ぎなかった。


源二はその頃、エマに連れられ、リビングを後に書物庫へと連れて行かれていた。


奥にある机を目掛けて書物庫の廊下を歩きながら、指をパチンと鳴らすと突然本棚から数冊の本が飛び出し、机に揃えられる。


「これは?」


「ちょっとした実験じゃ。

ここら辺にはちょっとおかしな魔法を使えるものがおってな、本人は蟲の魔法使いと言ってるんだが、とにかく効率的に怪我を癒せる若いのがおってな。」


未だ目の前にいる幼い女の子が一番の年長者であることに困惑しながらも、回復魔法があるのかと感心する。

エマは源二の手を小さな手で触り始め、静寂の中年は離れど無言で体を触られるのを恥ずかしがった源二はその場繋ぎのために言葉を探す


「回復魔法なんてあるんですね。」


「は?回復魔法なんてこの世の理に反する魔法、あるわけないじゃろ

この世界に回復魔法はない。森羅万象の中に損傷をみるみるうちに治してしまうようなそんなマホウはないんじゃよ。」


皮肉めいたその言い方と、独特なジェスチャーにカッコつきの魔法であることを示すと同時に彼女の頭脳の良さが伺えた。


「まぁもっともそれに近いと言えば、これと闇の魔法だけじゃろうな。」


「闇の魔法ってとんでもない力なんですね...」



「まったくとんでもない力じゃよ闇の力は。

腕が折れたと思ったら瞬く間に元に戻る、切られては元に戻るからの。」


「そんなに強い力ならなんで魔族は人間に滅ぼされたんですか」


エマは少し俯く。エマは恐らくエルフであり、いわゆる魔族の裏切り者として人間側に亜人種として認められていたからだ。源二はまずいと思い、謝罪をしようと手を引っ込めると背後から声がする


「それは僕が説明しよう。 まあ、簡単なことだけど闇の魔法を使ってても再生しない魔法を人類が見つけたんだ。

まあ、そんな簡単なことでもない。魔法は一見、すべての者たちが使えるようになっているとされているけど、それは間違いだ。

植物や動物、魔物、そして一部魔族にもこの世に生を受けているにも関わらず存在するものたちは魔法が使えない。

人間という存在もまた、この世に生を受けた一つの種族ってことだよ。


それでね、魔法は知能というものの中にある想像という一種の機関が働くことで発現するっていうのが僕の考えなんだけど」


「えっと、じゃあつまり魔法は想像力を働かせれば出るってことですか」


「うーん、なんでもできるほど魔法は万能じゃないんだ。その多くはこの世の森羅万象を模倣するのが多いね。

ただ光と闇だけはありとあらゆることに関係しているからその特性が大きく異なってる。

例えば、この火を出すときに僕はこの火を生み出す前に頭の中でこの火をイメージしているんだ。

火が燃えるという現象はこの世界の中に当然のようにあるわけだからこの魔法は成功する。


ただ、今僕の前に何もないようにこの世の現象でないものはそもそも僕の頭の中に想像するのは難しいし、それ故に魔法は発現しない、ということさ。」



「魔法は願わないと出ないんじゃないんですか?」


エマやフォールンはそれぞれ反応が違えど恐らく見当違いな答えに呆れていたような様子を見せていた。


しかしそれはただの迷信に過ぎない。

フォールン曰く、魔法は願うことで発動するのではなく精神の中である特定の自分の再現可能な酌量の現象を想像、あるいは詠唱という言葉に代弁させることで魔法を発現させることができるらしい。


源二はそう行くや否やエマに魔法を見せるように言われると、言われた通り想像の世界で掌くらいの火の玉を思い浮かべると、やはり発現したのだった。


「お前はこんな魔法を使うのに一々目を閉じんとできんのか?」


癖になっていたのだろうか、苦笑いを浮かべると今度は目を見開いたまま手のひらから炎が生まれる。

その光景に思わず感嘆の声を漏らすと、再び呆れたような視線を受けるのだった。


「それで、話を元に戻すけど闇の魔法使いは決して不死身というわけではない。光の魔法使いと闇の魔法使いはその絶対数がほかの属性魔法使いたちと比べて少ない。

それと反するように魔素のキャパシティーが大きいから、他者よりも強力な魔法を行使できる。


一般的に魔法は人間の体内に蓄えられている魔力量で決まるとされているが、正確には貯蓄できる魔力量、行使できる魔法の要求する魔力量、そして自然界から再び魔力を蓄えようとする力のバランスで成り立っている。


それ故に、自然界からの魔素の供給が滞った場合。あるいは、魔力が完全に切れた状態で攻撃を受ければ闇の魔法使いとて容易に命を落とす。」



「でも...それでも闇の魔法使いも光の魔法使いと同じくらいの人数なんですよね?


それだけ、人類は闇の魔法使いを殺すことに本気になったということだよ。それこそ...


「まぁいい、今はその速さでいいじゃろ。

早くその手をこっちに持ってきておくれ。」


エマは自分の向かいにある空いた椅子をトントンと指さすと、再び席に戻りエマに腕を伸ばすし手を取ると、手のひらを彼女の小さなの両手にサンドされる


一瞬心臓が跳ねるがこんな小さな少女に劣情を抱くはずがないと頭を振りかぶると気を取り直す


「では、行くぞ。」


エマはそう言い放つと、どこからともなく空中に分厚い本が出現する

出現したかと思いきや、包み込まれていた手よりも一回り大きな魔法陣がコピー機のスキャンの様に手を通過する。


その瞬間源二は妙な違和感を覚える。

感覚的かつあまりにも小さな異変だったが、源二は何か体内を、自分を見られている様な支配とまでは行かないが自分という空間にに他人の存在が現れたような違和感だった。


「なるほど、これで疑惑は晴れた。」


エマの後ろに浮いていた本が空中に溶け去ると、エマは源二の目を直視する


「今のは...」


「魔法を使ってお前の中を覗いた。もちろんすべてではない。」


「あの本は...」


「固有武器という魔法を行使する個人に一つ必ず生まれるものじゃ。」


「あの…魔法陣は?」


「魔法陣じゃが...」


「固有武器を使う魔法は魔法陣が出るんじゃよ。 正確には、固有武器の使用を伴う魔法は上位魔法と言って、生物としての域を遥かに逸脱した力を生み出す魔法それは術者にも害を及ぼんじゃが、そんな中位、上位などはこうした魔法陣を介すことで術者に精神、肉体的ダメージが逆流してしまうのを防いでるんじゃ。」


源二は説明された魔法を飲み込むのに必死で話についていくなりそうになる。


火を出したり水を出したりするだけでも十分凄い能力だろうが、さらにそのうえがあることに驚きを感じていた。

思えば、サラトガも同じようなことを言っていた。上位の魔法は源二のいた国でもものすごい価値があったとサラトガの話しぶりからうかがえた。


「今の魔法はどれくらいの難しさなんですか?中位とか?」


「固有の魔法を真似るのは難易度じゃ表せないよ。まあこの魔法だけで言うなら上位くらいかな。


それで、どんな結果だったんだい?」


「召喚による制約や呪いの類はない。」


「なるほど、恐らく術者は...」


「間違いない。」


ただならぬ緊張がどこからともなく溢れ出す。滲み出す


「死んでるね。」


源二は今までに経験したことのないほど重圧に押しつぶされそうになる。心臓の鼓動が耳を押し返すように主張を激しくしている。


そんな中、ふいにドアが開かれる音がすると圧から逃れる為にその扉へと視線を移すとそこには漆黒のローブに身を包んだ大柄な人物が背後から差し込む夕焼けの色に照らされていた。男はドアを閉め、ローブのフードを脱ぐと現代でいうワックスで髪をオールバックに綺麗にまとめた白銀の紳士的な印象を思わせる。




「起きていたか、源二君。突然すまなかったな。」


初対面の男に突然名前を呼ばれ、血のように赤い双眼に見つめられ、恐れながらも返事をするとその顔は表情を変えることなくエマに視線を移す。



「調べたか?」


「召喚による術者の干渉やその他の類はない。」



「源二君、ついてきてくれ。」



源二は言われるがままに机の前へと座ると男が向かい側に座る。


「ここは茶も満足に出んのか?」


エマはどこから淹れてきたのか、魔法で浮かべた紅茶を男と源二の前に置く。

そのまま男の隣に座ると、1人で先に紅茶の飲み始めた。


「まずは、昨晩の無礼を許して欲しい。」



「いえいえ、そんな謝らないでください。守ってくれたんですよね?」


「言い方にもよるが、そういうことになる。」


「昨夜、君が発現させた魔法は闇の魔法だ。」


「それはもう話した。属性のことも、この世界の歴史も、研究の過程も手当たり次第にのぉ。」


「そうか。では、単刀直入に行こう。源二君、私達の仲間にならないか?」


「何で、俺...僕なんかを...」



「君が闇の魔法使いだからだ。」


「僕は世界中から狙われてるんですよね。」


「いずれそうなる。」


「なぜ...守ってくれるんですか。俺を殺さないんですか...」


「守るのではない。源二君、君も戦うのだ。」


「我々はそれぞれの思いを胸に、このウェインフリート帝国を護っている。それに、君の力が必要なんだ。」


源二は困惑していた。


なぜ自分が入らなければいけないのか、もし世界中から狙われる自分を助けてくれるとしても、この人たちにどんなメリットがわからなかったのだ

危惧していたことが他人に、それも今までいろんなことを教えてくれた人物たちの恐らく仲間であろうこの人物に肯定され、気が遠のきそうになるのを堪える


「僕は、根源に至ることだけどね」


「煩わしいのじゃ。黙りなされ!」


「君だって違うくせに」


そんな話とは裏腹に、源二はゆっくりと話を切り出す。


「僕にできるんでしょうか」


「君にはその力が備わっている。決して魔法だけでない力が。」


「不本意だが、君たちのご学友は危ない立場にいる。」


「神聖エイレーネ帝国は光魔法使いを崇拝する国、それだけでなく、この世界では闇の魔法使いは存在しないということになっている。

その中に突然1人の闇の魔法使いが現れたならばありとあらゆるものたちが君を狙うのは必然。

そんな窮地の中、手を差し伸べる可能性があるのは...源二君、君のご学友しかいない。


だが、幸い君達が召喚されたことは私たちと王宮に関わる一部のものしか知らない。


その中で、君が志乃 源二としてではない。ゲンジとして我々に加わるならば、エイレーネがこの世界に新たな闇の魔法使いを解き放った事実は消える。」


突然突き付けられた現実に押しつぶされそうになった心がたたき起こされる。

もうこうなれば、自分に残された道は一つしかない。


「入ります!俺、入ります!」


「わかった。」


男はゲンジの前に手を差し出す。

ゲンジはそれを握り返した。



「申し遅れた。私の名は、クリスだ。」


握手を交わした途端、緊張の糸が融解し自然と笑みが綻ぶ。

それと同時に空腹を知らせる音も漏れ出た。

源二は恥ずかしそうにお腹を押さえると、クリスは外を見ると視線を戻す


「食料はあるか?」


「僕はさっぱり」


クリスはエマに視線を移す。恐らく持っていないのだろう。


「まぁ、そうなるのは分かっていたが...」


エマは奥のドアへと引っ込むと夕食の準備を始めたのか、やがていい匂いが漂い始めるものの、残された少年以外の二人は何やらよくわからない話をしたり佇むだけだった。


「源二、入ると言った後で悪いが伝えなければならないことも、話さなければならないことも多い。」


フォールンは窓際からエマが座っていた席と反対側の席に座ると初めてフォールンと向き合う。


「まず、私たちについてだ。」


フォールンは着ていたローブのフードを取り、マスクをはずす。

マスクの下は重みのある白い骨の塊が眼球のない頭蓋骨がこちらを見ていた。


源二は戦慄すると、冷や汗がジッと滲む


「あーいい反応だねぇ」


フォールンはローブの裾から白長い手を伸ばすと、頭蓋骨を触る。

しかし、その頭蓋骨には発音の際に動くはずの下顎がなかった。


「おっ気付いたようだね。でも僕の姿のことについては秘密だよ。ごめんね」


笑みを浮かべたような口調で話すと、源二は恐怖から苦笑いを浮かべる

クリスは表情を変えず、紹介すると先程の驚くことなくその赤い双眸が源二と交差する。

やがて、エマは奥から帰ってくると2食分の食事を運んでくるとそれを口に運んだ。

最初は文化が違うのか源二の食べる様子を不思議と見つめたりいただきますといった掛け声の意味について問いかけられたりと、新鮮な空気が流れていた。

料理は健康的な味付けで薄味と言った印象だったが、宮殿の食事と王都での食事とはまた違う家庭的な味わいを感じさせた


やがて食事が終わると、話は再びこの世界の魔法について話が始まる。


内容は光の魔法と闇の魔法の大きな違いと、何故他の属性より強いのか、自分の宿した魔法がどういうものなのかの話だった。



「まず、君は光の魔法は願いが一つ叶うと教えられていると思うが、光魔法はその強力な力と引き換えに多くのものを代償に要求される。光の魔法は行使する魔法はより強力、あるいは多くの魔法を使えば使うほど、精神が消失してしまう。

光の魔法はその消失の過程で、自身の望む一つの強い願望を見定められ、それを叶えるだけの力が与えられるのだ。」


「じゃあ鏡花は!」


クリスは手でそれを制すと再び口を開く


「精神の消失を伴う大魔法は少なくとも上位の魔法でしか起こらない。安心したまえ。」


「そして、それとは少し異なるが、同じようなものが闇にもある。


闇は、精神と、さらに肉体の消失も同時に伴う。

それと引き換えに、人間の枠から外れた身体能力や俊敏性、危機察知能力、そして肉体の再生能力を手に入れる。

しかし、光が大魔法を行使しない限り消失が伴わないのに対し、闇はその力を使うだけでその力に応じて少しずつ消失が始まる。」


クリスの横にいるフォールンが手を挙げると、肉体もないのにゴホンと咳払いの仕草と音を発するとここは僕が。とクリスを制する


「闇の魔法は肉体の消失を伴うと言ったけど、闇の魔法使いである限り肉体の再生は行われるから、表面上は何の損傷もないままになる。

でも、痛覚のある人間は肉体の消失は防ぐことができても、自分の体が壊れる痛みに晒される。

今のゲンジ君の状態はステージゼロと言われ手当て、初めて闇の魔法を発現させることで、次の闇の魔法の行使に耐えうる為いくつかの倫理観を消失しているんだ。


例えば、他人に外傷を負わせることができるようになると言った暴力的なタガが知らず知らずのうちに外れるんだ。

でも、これは殺害衝動というほど激しいものではなく、理性によって容易に抑えられているから心配することはない。」


「そこでゲンジ君、いや。ゲンジ、君は明日からまともに戦えるように訓練を施すことにした。」


話が終わる頃には日はすでに落ちており、源二は寝ていた部屋へと戻る。窓の外を見ると、少し遠くに見える街は幻想的に包まれていた。


「ゲンジがいい子でよかったじゃないか。」


「そうだな。だが、こちらにはまだ...」


「とにかく、闇の魔法は人目に触れるとまずい。妾が場所を手配しよう。」


「頼む。では、私は」


「それじゃあ僕も。」


リビングの火が消えると、それぞれの姿が闇夜の中に溶け消えていった。

それからと言うもの、源二は毎日のように戦うための訓練を受けさせられた。

体を動かす戦闘はスティーヴンとフォールンが日替わりで担当した。


「えっと...フォールンさん。これは?」


「今は刃引きしてあるけど剣だね。まさか、君のいた世界にはこの剣もないのかい?」


「いや...そういうわけじゃ...」


「切れることはないけど、突けば刺さるからね。」


フォールンは楽しそうに距離を取りながら源二の様子を黒く輝く双眸で見つめていた


「まあ、まずはその剣持ってみなよ。」


源二は剣を持ってみると、剣身は鋼鉄でできているのに木の棒を持ったように軽い。


「あれ?」


「それが、闇の魔法の特性。」


「でも、こんなの前は...」


源二は驚きに目を丸めながら過去のことを思い出していた。


というのも、源二はこの世界に来てからという者今日に至るまで何一つ違和感なく過ごしてきた。


それがこの剣を持った時にだけ軽く感じるのはおかしい...


「君は闇の魔法だって断定したあの石はね、ある意味強制的に本人の能力を引き出されるようなものなんだ。


君があの石に触れ、闇の魔法を発現させたときからもう君は立派な闇の魔法使いとして心も体も変わってきてるんだよ。」






源二は剣を深く握りしめると、中腰の体勢になる


「剣を振るったことはあるかい?」


「いえ...」


「そうか。まあ、今の君はそう簡単に死ぬような状態じゃないから。かなりの荒療治だけど、頑張ってね。」


フォールンは目にもとまらぬ速さで、源二の元へ急迫するが、源二はその姿を確実に捉えていた。


「どうしたんだい?抵抗しないと斬っちゃうよ?」


フォールンは目の前に立ちふさがると、源二の顔を覗き込む


「そんなこといわれても...」


「君の身体はもう元のような貧弱なモノじゃない。太刀筋は酷くとも、戦いは型じゃない。勝ったほうがすべてなんだよ。」



「はぁ...」


「危なければ避けるか、弾く。つぎは、当てるからね?」



フォールンは靄に変わり、再び距離を取ると足を使って急迫する

今度は体だけでない、鈍く光る銀色の剣の軌道が目に入るそれもかなり早い速度で繰り出されていた

初心者どころか、剣も握ったことのない源二は一瞬たじろぐが斬撃を食らうわけにはいかない。

軌道を読み、名一杯力を込めてはじき返す

緊張感のない感想とは裏腹に気の抜けない連撃が絶えず繰り出される

数回それを弾くと、初心者から見てもあからさまな隙ができてしまった

フォールンはそれを見逃すわけがなく、弾き返した剣をそのままに蹴りを叩き込むと、激しい鈍痛と共に後方へ吹き飛ばされたであろう衝撃が襲う


心臓の脈に合わせたようにジンジンと鈍痛が襲い、息がうまくできない。

しかし、そのキツイ痛みもやがて引いていくと今まで通り剣を握る


「感じたかい?いま僕は内臓を軽く損傷させたんだけど、君はそれをすぐに再生したんだよ?」


「い...たい...」


「そりゃあそうだよ。痛みを感じるのが痛覚の正しい機能だからね。それに、存在するだけで狙われる君の立場を考えればそれくらい本気でやってもらわなきゃ困る。僕も剣なんか握らないけど、君に死んでもらうのはもっと困るから、いくよ?」


こうして地獄のような訓練が始まった。

息が上がるわけでも、傷が増えるわけでもない。

ただひたすらに精神だけがすり減っていく。

毎日のように訓練を重ねていたが、それは主に魔法を使いながら戦わされていたため、どんなに動き回っても、倒されても、立ち上がりたく無くても、体質を理解していた2人は倒れていても容赦なく間合いを詰めてきた。


そんな訓練の産物か、源二はこの世界の常識をある程度理解しつつあった。

源二がいる国はウェインフリート帝国という場所で、世界の中央部分に当たる場所で亜人族と人類が共同生活を営む世界で唯一の国はだった。


それに加え、ウェインフリートはエルフの森と呼ばれる人間界と完全に隔離された亜人による自治区を守るような役目も担っていた。


源二達はエマのツテで、誰の目にも触れないエルフの森の深部で訓練を行っていた。

帝国議会には人間、亜人、あるいはその両方の血が混ざった者など多種多様な人間が選出されているようだった。

それ以外にも、この国のウェインフリート・シティー・ギルドという政策の一環で(他国への技術流出や戦力流出を避けるため)各職種ごとにギルドという団体が築かれていた。


それ故、この国には大陸で唯一冒険者ギルドと呼ばれる、エルフの森をはじめとした亜人族の一部地区、及び街の領地。古戦場と呼ばれるウェインフリートとエイレーネが共同で管理をしている地区の治安を管理していた。


驚きはそれだけでなく、公衆浴場と言われるいわゆる巨大な銭湯もあり、人々はそこで体の汚れを落としていた。源二もその浴場を利用していた。

フォールンやクリスはともかく、エマは魔法で水を生み出して体を清めているらしく、源二も渋々それで済ませようと思っていたが、目立つようなことをしなければという制約付きだったが浴場の使用のみ許されたのだった。


やがて、近接戦闘の訓練にも少しずつ対応できるようになってきた頃、今度は魔法を思い通りに使えるよう、エマによる手解きが行われる。


ある程度の訓練が終わり、最低ラインと言われる頃にはすでに日は何十回も回り、元の世界では1ヶ月半を過ぎようとしていた。


訓練はその後も続けられることになったが、ほぼ一日中訓練漬けだったのも、この日だけは違っていた。


「ゲンジ君、今日はちょっと夜に用事があるから必ず浴場に入って早めに帰ってきてね。」


すでにかなりの時間を共に過ごしていたこともあり、源二の表情はすっかり柔らかいものになっており、外見的に一番怖いフォールンにも難なく接することができていた。

しかし、彼は常に覆面を身につけていたため、基本的に素顔を見ることはなかった。

だからこそ源二は覆面のいったことに疑問を覚えた


「なんかあるんですか?」


「今晩はちょっと恩返しをしに行かなきゃいけないんだよ。それのついでにね。」



源二はなんだそれと気になったが、とりあえずいつもの通りエルフの森の深林部へ向かう。

黒いローブに身を包んだエマと新たに動きやすい服装に身を包む源二


(街中に入るのに鎧などを装備すると警戒されてしまうため、その世界の普段着を与えられていた。

エルフの森は街の外に存在しているが、エルフの森とウェインフリートの街は街の中に森への出入り口が存在していたため、検問を通る必要はなかった。)


2人はいつも通り街に入ることなく、エルフの森に直接入るための自然に溢れた道を歩いていた


「お前今日、ツバキに会いにいくらしいのぉ」


「ツバキ?誰ですか?」


「ツバキはこの国の遊郭の...うーん、管理者といったところか」


源二は遊郭という言葉に結構が良くなるのを感じる


「お主も雄の子よのぉ。じゃが、あいつは喰えない女じゃ。気をつけた方がいいぞい」


エマはいやらしい笑みを浮かべた後何を想像した後クスクスと笑った。


桁が違う...一体、娼館の管理者は何が桁違いなのかものすごい気になったが、これからはじまる地獄のような特訓の前にはこれ以上血液が暴走を起こすことはなかった。



「あぁ、それとあいつと会う前は入念に体を洗った方が良いぞ。わざわざ良い石鹸を買っても良いくらいじゃ。お主、まだ渡された金の余りもあるんじゃろ?」



再び幼女がからかうと、少年の顔はいよいよ噴火寸前の色を帯びたのだった。



翻弄される主人公が可愛らしいですが、ツバキさんは今後にも関わるものすごい重大な人物でやばすぎる女です。

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