第2節 1章女王編Ⅰ
さて、今回からいよいよ第2節の開幕です。楽しんでいきたいところですが...
星の墜落からもうすぐで半年の月日が経とうとしていたこの日、ペトラと源二はウェインフリート帝都に位置する王城の前に並んでいた。
空は白く覆われ、今にもその白が下へ降ってきそうなほど大気が凍りついていた。
以前とは違い、2人は丁重にもてなされ、格好こそ変わらないものの少しだけ大人びたペトラは幾多の視線を集め、その横にいる源二も流石に慣れたのか堂々としている。
しかし内心はやはり、緊張しているが故に不動なだけだった。
「ねぇ、アンタ怖いわよ。そんな殺気だってちゃ。」
「ごめん...」
「そんなんじゃ、名誉叙勲が聞いて呆れるわよ?片翼のヴァンシーさん。」
「その呼び方やめてよ。恥ずかしいっていうか、こう...うーん、なんか嫌だ。」
「あら、わたしはいいと思うけど。どんな名前であれ、二つ名を付けられるなんて光栄なことよ?それもアルレイド・セン、旧国王となる最後の相手が貴方なんだもの。」
「はいはい、じゃあ行くよ。」
二人はそう言って王城の中に入ると、その姿に多くの貴族たちが目を留めて二人を見つめていた。
それだけではない、前回とは全く違う目線を注がれているのに真っ先に気付いたのは、源二だった。
「なんか、みんな俺のこと見てない?」
「当たり前でしょ?あの星の一件は、大陸全体を巻き込んだものよ。
他の国はその存在ごと否定してるけど、ウェインフリート臣民である貴方が破壊した事を知る者達なら、逆に誇示する事で国力を示すって算段にするのは普通のことよ。
「じゃあ皆んなは...」
「貴方に取り入るので必死でしょうね。」
源二は気不味い雰囲気を感じ取り、歩き出すペトラに遅れないように歩き出していた。
源二は注がれる視線を一心に受け、顔も氷のように固まり始めた頃、長い廊下を歩いていると、奥から数人のメイドを連れた女性が歩いてくる。
ペトラはその姿を捉えるなり、真っ先に老化の端によるものの、源二は注がれる視線から逃れるように下を向き、氷の仮面を纏ったように歩いていた為、目の前に近づく女の姿に気づかなかった。
やがて美しい真っ白のヒールの先が源二の視界に入り込むと、歩みを止め、下げていた視線をゆっくりと上に戻す。
「ご機嫌ようゲンジ様、いえ、ゲンジさん。」
ペトラはやっと気づいた様子で源二の元に駆け寄ると、無理やり頭を下げさせようとする
「申し訳ありません、殿下。」
殿下、そう呼ばれた女を再び見上げると、芽亜利とは対照的とも言える長いウェディングドレスのような白いドレスを着て、長い白髪携えた高貴さそのものといった面持ちの女性が立っていた。
「良いんですよ。ゲンジさんのことは、お父様より聞いております。」
「貴方は...」
「そういえば、こうしてお会いするのははじめまして、ですね。
アルレイド・ヴィットーリア。以前はノトスを治めておりましたが、本日より父の盟に変わり、盟主となります。」
ペトラは再び深々と頭を下げる
「戴冠の儀に参列できること、誠に光栄に存じます。」
「そう気を使わずに頂かなくとも、結構ですよ。それに、私と貴方は歳も近いんですから、そう畏まらずに。」
「そういう訳には参りません。私を救って頂いた御恩が有りますので。」
「そうですか。私個人としては、もうその恩に十分報いてくれたと思ってるんですが...」
ヴィットーリアという女性は少し申し訳なさそうな表情を浮かべるものの、ペトラは一向に動こうとしない。
その姿勢に折れたのか、女は何かを思い付いたような表情を浮かべる
「じゃあ今度、女子会しましょ!」
「殿下!」
楽しそうな表情が一変、女の後ろに控えていたメイドの一人が叱咤する。
おそらく一番偉いメイドなのだろうか、最も女に近い位置にいるメイドは顔にシワが目立つ、壮健さが兼ね備わった屈強な女性だった。
「はいはい、じゃあまた式で。」
そう言ってすれ違うと、何かを思い出したように振り返る
「あーそうそう、ゲンジさん?驚きのサプライズがあるから、楽しみにしててね!
それと、星を落とした大英雄がそう剣幕を浮かべては、誰も怯えて近づけませんことよ?」
柔らかな表情と、声色でそう言われると、図星をつかれた源二は立ち尽くす
優雅に歩いていくヴィットーリアを見つめていると、突然膝のあたりを痛みが襲うと、床に倒された。
「何すんだよ!」
「うるさい!」
華やかなドレスに似合わない怒気を含ませたその姿にいつのまにか源二の緊張も飛んでいってしまった
パーティーが始まる前は厳かな戴冠の儀が行われるとのことで、源二は案内の元に待合室で待っていた。
やがて執事のようなものに声をかけられ、思えばツバキとの契りもこんな感じで結んでいたななんてどうでも良い事を思っていると、大扉の前で待つよう促される
「観客席にしては随分でかいな...」
そう声を漏らす源二の横では、ペトラが落ち着かない様子でドレスの裾を握っていた
「どうしたの?」
「女王殿下、ヴィットーリア様はたまに悪ふざけが過ぎる時があるって聞いたことがある...まさか...プレゼントって...」
落ち着かない様子で言葉を紡ぐ様子にやっと違和感を覚えた源二は再び戸に向かった次の瞬間、重みのある低音が震えると一直線に伸びた深紅の絨毯に白い石室が広がる
「こちらへ。」
側に控えていた執事が先導し、部屋の中へと入ると、凄まじい静寂と突きつける幾百もの視線を浴びながら、源二とペトラは二つの人影が立つ元へ辿り着いた。
「久しいな、源二殿。」
「アルレイド・セン...皇帝陛下...」
「ちょっと、アンタ!」
小声で押し殺すような怒気を孕ませた声を源二の耳に投げつけるペトラは気付けば恭しく片膝をついて平伏していた。
「良い。元よりこの者は我に平伏するものでない。対等な立場にある。礼なんぞいらんわ。
それに、長きに貴族の世に身を置いてもお主らしいな。」
センは豪のある表情の裏に朗らかな笑みを見せると、その横に立つ人物の肩に手を置き、源二達の辿った道のりをそのまま部屋を後にして行ってしまった。
「皆!聞け!」
勢いの良い、透き通った声に源二の飽和した意識が引き戻されると、目の前には先程とは全く異なる印象を与えるヴィットーリアの姿があり、頭には厳かな冠、背には身を覆ってあまりあるマントを着て、狂いのない一直線で、静かな湿りのある光を放つ剣を握っていた。
「この者は、先日の星の墜落。及び、エイレーネ帝国との間に燻っていた火種を跳ね除け、友好の一歩を紡いでくれた!
妾は争いは好まぬ。故に、それらを払い除けたこの者に褒美を与えたい。」
これは女王として、他の貴族に訴えかけたのか、反応を示しているような静寂が響く。
「よい、では。この者をシザーベント共有地、特別監督官として任命する。」
その声に、一同が騒然としていた。
それもそのはず、シザーベントは最近になってエイレーネとの間に講話を結び、二国間で共同で統治して独立させるという方針を取っていた。
それ故にその共同事業を務める者は貴族としても、かなりの名声を手に入れる上に、とんでもない重役なのだ。
貴族達は内心悔しいのか、多くのものが声のない抵抗心を見せるものの、逆にいえばこれほどエイレーネとの間に取り入っている貴族もまたいない。それ故に適任であることは事実だったのだ。
「この者に、奮闘を期待する。では、宴を始めるとするか!」
そう言い放つと、ゾロゾロと周りにいた貴族達がその場を離れ始めた。
源二達もそれを横目に、課せられた重役に目を白黒させていた。
「女王陛下、御言葉ですが、流石にこの名は私達では...」
「その話はまた後で。今は、とりあえずパーティーが先よ。」
満面の笑みにおちゃらけた色さえ伺える様子にペトラは呆気に取られ、源二は不満タラタラのジト目を向け、目の前を横切っていく快楽主義者の退場を見送るのだった。
やがて源二達もパーティー会場へ案内されると、前回の立食パーティー同様にかなりフラットに執り行われていた。
それ故に、多くのもの達が提供される酒や料理に舌鼓を打ち、交流を図る。
ペトラはもちろん、源二までもが今回は格好の色眼鏡で見られていたのだった。
「是非、今度私のところにいらしてください!一家総出でおもてなしをさせて頂きます!よろしければ娘にも!」
「いやいや、是非私のところに!」
源二はこれほどまでに絵の書いたような熱烈な誘いが来るものかと苦笑いを浮かべながらやんわりと躱していく。
やがてやんわり断ることさえも余裕がなくなってくると、その場から逃げるように部屋を出る。
ドアを閉めると先程まで鬱陶しかった音が嘘のようになくなり、閑散とした廊下が伸びていた。
そして、その先にはなぜかそれを知っていたように執事のような男がこちらへ来ることを知っているかのように恭しく一例していた。
物知りな方はよくご存じかと思いますがいよいよヴィットーリアちゃんが登場しました。
この女、まじでやばいです。




