第1節 1章 召喚編Ⅰ
Ⅰ閲覧していただき、ありがとうございます!本作はいわゆる「異世界なろう系」と、ありふれたジャンルになりますが、ご都合主義やトントン拍子の展開は少ない展開になっています。
周りの大人たちも容赦なく襲ってくるのでいい感じの地獄だと思います。楽しんで。
あの日、俺は死んだ。心躍る異世界での冒険は大切な友達とのスタートを切ることなくあっけなく終わったのだ。
死んだときは何ともあっけなく、無様だった。自分は特別だと浮かれていた。舞い上がっていたのだ。周囲の人間に一目置かれ、魔法だなんていう扱ったことのないモノを何の練習もなしに使える訳もないのに。
ただ一つ、薄れゆく意識の中である一つの疑問が少年の脳裏を埋め尽くす。視界を覆い尽くした黒一色。意識の消失によるものではなく、魔法の使用によって引き起こされたその現象。そして王宮にいたもの達が言っていた、存在しないはずの魔法の名前だった。
闇の魔法。それが、魔法を初めて発現させてすぐ処刑された少年の最後の記憶。
第一章 召喚
金属を激しくたたき鳴らす目覚ましの騒音に心地の良い安眠が妨害され、意識が強制的に覚醒させられると、少年は眠気をそのままに気だるげに着替えはじめる。
志乃 源二は最寄りの高校に通う二年生、現代社会ではごく普通の家庭に生まれ育ち、部活も勉強も普通レベルの極々良くいる高校生だった。
強いて言えば、人より根性がないことが特徴と言える少年で、部活動である陸上部では度々親友の西原龍弥に助けてもらってはきつい練習に耐えていた。しかし、決して意気地なしという訳ではなく、自分の根性がない、心配性な一面が功を奏してクラスの中ではまとめ役とまではいかないものの、それなりの信頼もありクラスメイトとは分け隔てなく接して、信頼できる友達も多い。
源二は、空気が寒く凍り始める10月の寒気に顔を歪めながら、いつも通りの通学路に足を向けていく。
今日も今日とて退屈な授業の後に、キツイ部活。来年になれば受験。先が思いやられる気だるさを初冬の風が追い立てていた。
「源ちゃんおはー!」
電車から降り、自分と同じ制服を着た生徒たちでごった返す駅前の人込みの中から
明るくハツラツとした声に振り返ると、ふわりと丸みのある灰色髪のショートヘアの少女が手で合図を送っていた
「鏡花、おはよ。」
「一緒に行こー!」
こんな憂鬱な朝にもかかわらず相変わらず明るい性格でいる彼女はその可愛らしい顔立ちや雰囲気も相まって関わる人の気持ちも和やかにさせてくれるような気がした。
隣を歩く愛済鏡花 という少女は、その可愛らしい見た目と横を歩くさえない男とは不釣り合いながらも親し気に話してくる。誰でも分け隔てなく接することができるのが彼女の強みだが、源二はそれ以上といっていいのか幼馴染という関係がこの可憐な少女との関係をつないでくれてよかったとたまに思うことがある。
2人は世間話をしながら登校し、同じ教室の扉をくぐると鏡花はにこやかな笑顔で別れを告げ、自分の机へと向かうと群れを成す女子生徒たちの群れへと入っていく。
「おはー。」
いつも通りすれ違うクラスメイト達に軽く挨拶を交わすと一番後ろから2番目の窓際の席に座った。志乃 源二の席である。
「おはー!源二、昨日なんで既読無視したんだよ」
挨拶を返しながら机までやってきた男はマッシュヘアで少し血色が悪そうな男にしては控えめな、いかにも現代的な体躯の少年が源二の気だるそうな顔を軽くはたいてくる。
「あーごめん!昨日寝落ちしちゃったんだよね」
顔の前で手のひらをみせ軽く謝罪を見せる人アニメをこよなく愛する八千正吾という少年にとっては既読無視など言語道断だったが、部活をしている源二にしてみれば難しいのかと落ち着くが、彼の脳をうごめく完璧なオタ活ライフは次なる話題を提供してくる。
「てか!今夜のアニメマジで楽しみだよな!」
机に手をつき顔をグッと近づけて問いかける
「やっちは帰宅部エースだから観れるけど、俺と源は部活あるから録画すんだよ」
そう言いながら、源二の肩に手を置く男はワックスで軽くセットしたツーブロックの髪型をした少し体格のいい男子生徒、最原 龍弥だった。
源二は軽く振り向き挨拶をすると、いつも通りの三人の固まるいわゆるイツメンが完成する。
「正吾、ネタバレしたら殺すかんな」
「まぁ俺は原作も見てるし良いけどなー」
源二達の会話が一番の盛り上がりを見せると共に、眠気を帯びていた意識が徐々に目覚め、教室の色が視界に飛び込み、手足の先に熱が帯びる。
しかし、その勢いは教室のドアを開ける音に完全に制止されてしまうのだった。
情景反射的にドアの方を見ると、黒のスーツに白いYシャツをびっちり着たポニーテールの女性が入ってきた。
「ほら、早く席につけ。出席とるぞ」
見た目や口調からクールな印象を受けるこの美人な女教師は学校の男女ともに人気が高い。
ドアを閉め、教壇に足を伸ばしたその時
ゴッと音を立てて足がもつれ、バランスを崩した先生は勢いよく教卓に激突する。
「いったぁ...」
これもまた、篠原 綾子先生の好かれる別の顔でもあった。
「いつまで笑ってるの!早く座らないと欠席にするわよ!」
今さっき起こった失態を取り戻すように、それっぽい口調で着席するよう促すが、かえってそれが可愛らしく見えてしょうがないのである。
「舐めたい...」
「綾ちゃんが先輩だったら俺、全国大会優勝できる。」
「お前ら...」
龍弥と正吾はいつもの調子で、朝から自分の教師への妄想を拗らせているのだった。くしくもそれは源二とて同じで、他の女子生徒にはない大人の色香を放つ若い女教師に劣情を抱かない訳もなかったのだった。
「ゲンもそんなこと言って、綾ちゃん好きなんだろ!」
龍弥は見抜いたぞとばかりに目を細めて、源二に視線をむける。
それに便乗するように正吾までもが、視線を向け髭もないのに顎のあたりを指で弄って、いかにもな目線を送ってきているが、それを大雑把に返してはかえって2人の思惑通りになってしまうと考えると、渋い顔を浮かべたまま無言で押し通す。
「確かにゲンは鏡花ちゃん一筋だもんなぁ...」
「いや、鏡花は幼馴染だからそれはない。」
ガタッとどこかで音が気がしたような気もしたが、すかさず教卓から声が届く
「ほら、そこの3人早く席に座りなさい!」
正吾はビクッと体を震わせ、じゃあと手を挙げ挨拶すると前列の自分の席に戻っていった
龍弥も同じように廊下側へと歩き始め、源二は一つ大きなため息をついた。
時刻はもうすぐHRホームルームの時刻を指す頃だが、あんな中身がド天然な先生でもこれまでこうして時間通りに過ごすのはこの日本という国ならではなのか、それとも彼女が凄いのかとどうでもいいことを考えていた。
そんなどうでもいいことを考えているうちに、時刻は後10秒でHRの開始時刻。
今日も気怠い高校生の1日が始まろうとしていた。
「え?」
いつもなっている学校の代名詞とも言えるチャイムではなく、大きな鐘を鳴らしたような音が教室中に響き渡る。
その突然の出来事は源二だけでなく、クラス中を包んでいた。
途端に教室全体が目を塞がずにはいられないほど、激しい閃光に包まれた。
源二もこれが異常事態であることは容易に想像できたが、突然すぎる出来事にただ何も出来ず、驚きながら光から目を守ることしかできなかった。
教室のあちらこちらから生徒たちの驚きの声が聞こえ、より心が揺さぶられる。
しかし、そんな不安も束の間閉じていた瞼を通して感じていた強い光がその力を失っていくのを感じた。
教室中に鳴り響いていた鐘の音も鳴り止み、余韻の振動だけがあたりの空間を包んでいた。
生徒たちがゆっくりと目を開き始めるなか、突然の閃光により視界がまだぼんやりとしている中、1人の男の声が轟く
「ようこそ、異世界の皆様方。歓迎いたします。」
突然歓迎を告げる言葉に、篠原だけでなくそこにいる生徒たちまでもが呆気に取られる。
しかし、それも束の間男が静寂を破ったことにより、ポツリ、またポツリとあちらこちらで生徒たちが話し始める。
やがてその波は全体へと広がっていき、一つの騒音になる。
篠原はその騒音さえ耳に入らない。
ここはどこなのか、あの男は誰なのか、神聖エイレーネ帝国なんていう名前は聞いたこともなければ、「神聖」だの「帝国」なんて言葉は、日本はおろか、世界中どこを探してもその文化レベルのものは存在しない。もっと前の出来事で、そもそもこの男はさっき異世界と言ったのだろうか。
生徒の数を数えたことは咄嗟のことだったが、とりあえず全員いたので安心はしたが、今はこの状況を把握しなければならない。私がしっかりしなくてどうする。
そう自分にムチを打って頭をブンブンと振ると、「静かにしろ!」声をあげてそう言い放つ。
途端にフハハと大胆な笑いが男から漏れる。
「其方の国は女性が尊重されているのか?」
男はドサっと大胆に段の上にある椅子に座る。
「い、いえ。私はこのクラスの教師ですから。」
篠原は男の方を振り返り、答える。
男はフッと鼻で笑うと、再び視線を篠原へ向ける。
「見たところ確かに、後ろの子供たちとは格好が違うようだ。クラスというのも、位のことではなく、恐らくアカデミーか何かの類なのだろう。丁度良い。教諭殿、其方の名をお聞きしたい。」
男は少し考えた様子を見せた後、そう問いかける
篠原は少し怪しみながらも、自分の名を名乗る。
「シノハラ殿、突然このような状況になってしまい申し訳ない。私は、神聖エイレーネ帝国皇帝、アレクサンドラ・バルドル・ラインハルトと言う。」
男は椅子に座り直し、頭を下げる。
自身を皇帝と名乗る男が頭を下げたからか、甲冑が擦れる音も同時に聞こえた。
男は顔をあげると再び篠原の方へ向き直ると、自己紹介と説明を兼ねて話し合いのを設けたいと提案してきた。
どうやら、自分たちを召喚したのは彼ららしいと、この心持の差で容易に察することができた。
篠原は振り返って生徒たちの様子を見ると、みんなは足に力が入っているものなど1人もいなく、ただ呆然と篠原のことを見ているだけだった。今になって自分に視線が注がれていることを自覚した篠原はしまったと思い慌てて向き直る。
「そっ、そうですね。この子達も突然のことで驚いているようなので、この子達だけでも休憩をさせていただけると...」
あまり自然に見えない営業スマイルをみせながら答える
男は頷きながら即答すると、パンパンと手を叩くと、台座を左に降って突き当たりにあるドアから、紺を基調とした白いフリフリのついたまさしくメイド服をきた女性たちが無駄のない動きでささっと1名入って来る。
メイドは王の方に向かい、頭を下げたままの傾聴の姿勢を見せると王は目だけをメイドの方へやる
「後ろの子供達をもてなしなさい。」
メイドは「畏まりました。」と深くお辞儀をすると、近くに歩み寄り篠原にお辞儀をする。
篠原は癖なのか、習性なのかたじろぎながらも軽く会釈を返す
メイドはもう一度生徒たちの方へ向き直り、深々と頭を下げる
「誠に恐れ入りますが、皆様には私とお願い致します。」
生徒たちは最初は驚いた様子だったが、すでにそれなりの時間が立っていたため、落ち着きを取り戻し、ぞろぞろと立ち上がる。
「大丈夫?源二、立てる?」
廊下を挟んで隣の席だった西宮 和は源二に向かって手を差し伸べる。
源二は狼狽えながら返事を返し、その手を借りながら立ち上がる
「では皆様、私の後に着いてきてくださいませ。」
そう言って歩き出すメイドの後をゾロゾロと生徒たちが追いかけた。
廊下に出ると、さっきの部屋ほどの広さはないが、クラスのみんながある程度固まっても横がつっかえない程には大きい。
あたりをキョロキョロと見回しているうちにメイドがあるドアの前で立ち止まると、そのドアを開ける。
中に入ると、その部屋の中央には豪華なシャンデリアとクラス全員が座れるであろう大きな2つの机と人数分の椅子が綺麗に並べられていた。
さらに壁際には、他のメイドたちが何人も控えており、他の生徒たちも入るや否や感嘆の声を漏らしていた。
「皆様、どうぞこちらに。」
手で椅子へ座るように促すと、みんなはぼーっと上の空のまま歩き始める。
とりあえず入ってきた順で座る中、源二もそれに続こうとすると突然後ろから源二の腕がガシッと握られる。
その腕を掴んでいたのは正吾だった。
正吾は入り口から一番離れたところに源二を引っ張って座らせると、今度はドンッと効果音がつきそうな勢いと真剣な剣幕で源二に顔を向ける。
「げげげげげ..げんじ。異世界だ。異世界だ!見ただろ!あの部屋!絶対王様かなんかの部屋だし、メイドたんも!
やばいことになった!やばいことに!!!」
「落ち着け!まだここがどこかもわかってないんだ。先生が今話してるのもそういうことだろ!今はみんな突然のことで驚いてるんだから、興奮する気持ちもわかるけど今は抑えろって。」
正吾を静止すると、相変わらずソワソワしてはいるものの、落ち着きを取り戻し椅子に座り直す。なんとか宥めることに成功した源二は、自分のために開けられた椅子を見つけるとそこへ座った。
「はぁ!マジ最悪。」
正吾の発言の次は、源二の席のちょうど向かいから聞こえる。
情景反射的に声の主を見ると、セミロングの金髪に毛先にかけて少しパーマがかかったまさしくイマ風な髪型をした女の子は大きなため息をつく佐伯 凛だった。
「どうしたの、佐伯さん」
源二は佐伯の顔が思ったよりも深刻な剣幕を浮かべているのを心配しながら尋ねるとそれは、スマホが使えないということだった。源二はハッとした顔でポケットへ手を伸ばす
確かに突然のことだったが、スマホという存在は今でも情報を得るにあたってまず使用される便利なツールだ。
ポケットへ手を突っ込み、スマホを手に取るがその期待も波が引くように呆気なく霧散する
「あれ、つかない。」
ポツリと呟くと、隣の正吾も徐にスマホを取り出すが、コトリと机の上にスマホを置いた。
「動くどころか、電源さえ入らない。たしかに朝は100%だったのに...まぢ最悪。」
佐伯は2人の姿を確認するとまた大きくため息を吐くと同時に部屋のドアが再び開けられる。
ワゴンの上に乗った白い陶器に青の模様が描かれているティーポットとティーカップが乗っており、また別のワゴンには焼き菓子が並んでいた。
メイドたちは慣れた手つきでお茶を淹れ、焼き菓子を並べると、机の前に整列する。
「このような簡素なおもてなしでは御座いますが、今しばらくお待ちくださいませ。御用が御座いましたら、廊下に控えておりますので、お声がけくださいませ。それでは、失礼いたします。」
メイドたちは深々と頭を下げ、次々と部屋を後にしていく。最後のメイドが部屋を出ていくと、部屋は静寂に包まれる。
ティーカップから立ち登る湯気だけがそれぞれの前に陽気に揺れ動く。
少しばかりの静寂があった後、源二はゴッと立ち上がる。
「みんな!その、今はとりあえず...落ち着こ!先生も頑張ってくれてるしさ!」
勢いよく席を立ったにも関わらず、特に話す言葉も何も思い浮かんでいなかった源二はカアァっと顔を赤らめながらみんなに声をかける。
すると所々から「お前が落ち着けよ」「まぁ源二だからなぁ」と場が和むような野次が飛んでくる。
その野次に顔の赤面が加速する。
シューっと顔から蒸気を出して俯く源二に声をかけたのは正吾ではなく、佐伯だった。
ダサいとさげすまれたものの、彼女の顔は笑みを浮かべておりそれが彼女なりの戯れ方だということは理解できたが、自分の心に余裕がない今では少し辛い言葉だった。しかし、それを知ってか、佐伯はウィンクしながら源二を励ますと、焼き菓子に手を伸ばす。
「こんな朝からお菓子かよ」
ボソッと源二の隣から言葉が放たれる。
佐伯は明らかに不機嫌そうな顔を浮かべながら声をかけた主である正吾の方を見る。
「ウチ、朝飯食ってないし、それに出されたのに手つけない方が失礼なんすけど。ねぇオタク君、キモいから喋りかけないで。」
容赦のない佐伯の言葉はすでに談笑始めているクラス中に伝染することはなかったが、近くの席の人間たちは凍りついた。
「それともアレ?ウチに気があるから、煽ってんの?」
ニヤリとした表情を浮かべると、焼き菓子を手に取る。
焼き菓子を正吾に見せつけるように口を大きく開けると、舌先が光を微かに反射して光る
その扇情的な光景に、近くの席にいた男子生徒はもれなく、全員揃って生唾を飲む。
そんな中、佐伯だけは焼き菓子を頬張りうっとりしていた。
咀嚼し飲み込むと、佐伯は自分に注がれる視線にやっと気づいた様子で扇情的な笑みを浮かべ、再び正吾へ視線を移す
「チョロ」
男達を弄ぶ笑みを浮かべながら佐伯はさらに挑発的な言葉を重ねる
正吾は平静を保つため、咳払いをして、紅茶を口にする。
いかにも高級そうな目線の高さまであげ、吟味するように角度を変えたりしている。
「そうそう、あの人さっきイセカイーとか、コウテイーとか言ってたけど、あれなんなの?キモオタ、お前の専門じゃないの?」
佐伯も高級そうなティーカップを物珍しそうに見つめながら、問いかける。キモオタとは、恐らく正吾のことだろうから源二は同じ疑問を浮かべていたことを喉奥に押し込め一旦黙ることにした。こんな非常事態でも、ポジション取りと言うものは大切なものである。
正吾はキョロキョロと周りを見回し、視線が、空気が自分を待っていると感じるとティーカップを置き、自分の顔に向けて人差し指を指す。
「俺?」
「あんた以外に居ないんだけど。」
源二は無言を貫く。
佐伯の隣にいる西宮 和も苦笑いを向ける。
西宮は中性的な見た目で、女子だけでなく、男子からの人気もある。それ故に佐伯のようなキャピキャピした女の子の隣に座っていてもなんの疑問符も浮かべさせない。
「確かに異世界って言うジャンルは二次元の中でも有名で人気のあるコンテンツだけど、俺は日常専門だぞ!」
源二は予想通りの回答に、求められている解説とは全く違ったエンジンがかかってしまったことを察知すると頭を抱えるとこれからまたこの男のいわゆる少女、少年たちの日常を描いた物語達のことを話し始めるのかと諦めを浮かべてる中、西宮が口を開く。
「確か、神聖エイなんとか帝国のラインハルト皇帝?だっけかっこいい名前だよね」
「神聖エイレーネ帝国だよ西宮くん。」
「そうそれ!あのおっさん皇帝なんでしょ?腕の筋肉みた!?」
会話に参加していなかった4人ではない声が、正吾の隣から聞こえる。
佐伯は声の主の方にそれそれと指を指し答える。源二はその声の主の方に視線をやると、そこには愛済 鏡花が座っていた。今まで会話に集中していて気付かなかったものの、突然のことで適当に座った椅子が、ラッキーなことに顔見知りの多い席だったのだった。
鏡花は源二と目が合うと、手を振りながら鏡花に笑いかけられる。
源二は鏡花に笑い返すと、鏡花は少し顔を赤くしながら笑い返す
佐伯はおぇーっと不満そうな顔を浮かべながら鏡花にジト目を送っていると、そこに再び西宮が口を開く
「神聖、とか帝国ってことは中世にあった神聖ローマ帝国みたいだね。異世界っていうのは僕にはわからないけど、神聖って最初につくってことは、あの国王に任命した教皇か宗教関係の偉い人がいるんじゃないかな」
新たに会話に加わった鏡花を含め、突然の博識の披露会に誰もがポカンとしていた。
「流石学年一位ね」
佐伯は苦笑いで少し棒読み気味で西宮に称賛を送る
「そんなことより、源!あの景色見たか!?」
再びガシッと肩を掴まれ正吾に強引に目線を合わさせられる源二
源二は困惑気味に「あの景色ってどの景色だよ」と答えると、目を見開いて「外だよ!外!」指を壁の向こうを指すように人差し指を空中に投げ出す
しかし、源二にはそんな余裕などなく、辺りを見回した時にかろうじて風景の一部として捉えていたに過ぎなかった。その答えを聞いて正吾はため息をつきながら椅子に深く体重を預ける。
「はぁーお前もか...でもここが本当に異世界なら俺らはきっととんでもないチート級の能力だったりとか、神様からとんでもない贈り物が!とかあるよな!あるよな!」
「ほんとキモい。だいたいなんであんたがそこから座ってんのよ。」
正吾は突然自分の世界に土足で入り込んできた者へ露骨に顔を顰める
態度だけ悪くみえる返事はなんとも小動物が名一杯抵抗しようとしているほどの迫力しか生み出していなかった。
「だから、なんであんたがそっちにいて、鏡花ちゃんがあんたの隣なのよ!そこどきなさい!」
「そんなこと言われても、ここに最初から座ってたんだからしょうがないだろうが!」
「あんたが源二を強引に引っ張ってここに座らせたんでしょうが!」
「ほら、あんたすぐ自分の世界に入って変なことするんだから。まじでキモい。」
佐伯はそう言い放つとティーカップの紅茶を飲んだのだった。
読んでいただきありがとうございます。
実はこの作品を出すまでに、そもそも公開するか悩んでいたのですが一度出したからには全部出すのでよろしくお願いします。