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90/90

90 その後の聖剣士

これにて最終話となります。

ご愛読ありがとうございました。

 戦勝パーティーの翌日。

 俺達はフェリスフィア新女王を筆頭に、同盟国の代表達からかなり高額の報奨金を受け取った。

 その後、上代と桜様、秋野とアレン、麗斗とエレナ様は、各国の代表が見繕った人達と一緒に与えられた土地へと向かった。早速開拓作業に入ったみたいだ。

 そして俺とシルヴィは、城を出てすぐに恩恵を使って髪の色を染めた。俺は赤みを帯びた金髪に、シルヴィは希望通りに黒髪に染めてあげた。黒髪のシルヴィもかなり綺麗で、本人もとても気に入っていた。マリアも近くにいたので、今の俺とシルヴィの今の髪の色を把握する事が出来た。

 その後、マリアから紹介してもらった空き店舗を言い値で購入し、店舗兼住居となる建物の改装を業者さんに頼み、3ヶ月後に改装が完了した。建物は豪邸クラスに大きかったので、素材を補完するスペースも確保できて助かったが、改装や開業までかなりの金額かかかってしまい、結果として全財産の8割もかかってしまった……。

 その間に俺とシルヴィは、必要な家財道具と生活雑貨など必需品をオーダーメイドで頼みに行った後、王都を出て早速魔物狩りに行って素材を採取しに行った。

 最初はオープンしたばかりという事もあり、物珍しさにたくさんのお客さんが来た。

 中でも、ドラゴンの鱗から作られた装備や武器、体力を回復させるポーションは魔物狩りの人達に人気が高く、店の売れ筋商品となっている。

 貴族には、魔物の素材で作った装飾品や工芸品などが人気であった。

 最初の1年は、自分達で仕入れた魔物の素材や薬を売ってた。

 翌年からは、マリアを通して上代の国がたくさんの魔物の素材と薬草、そしてポーションなどをたくさん発注してくれるようになり、出来上がった魔道具や化粧品などをこちらも仕入れて販売することで、俺たちの店はさらに大きくなった。そのお陰で、王都内に2号店と3号店をオープンさせる事が出来た。

 俺とシルヴィが狩った魔物の素材を、上代がたくさん発注してくれるおかげで常に黒字をキープし、上代も自国で作った新しい魔道具を俺の店で販売させることで利益を得ている。更にそうすることで、フェリスフィア側の利益にもなっている。互いに良い関係を築く事が出来た。

 上代の国との取引を始めて2年、石澤を倒してから3年がたった今、俺とシルヴィは手に入れた魔物の素材を持ってマリアの元へと尋ねた。目的はもちろん、魔物の素材をマリアに買い取らせて上代の国へと輸出させる為だ。


「大型顧客を手に入れて、ますます店も繁盛しているみたいですね」

「まぁな」

「楠木商会の楠木竜次を知らない人なんて、もはやこの世界には存在しないわよ」

「3年も経ったが、案外バレないものだな」


 俺とシルヴィは、マリアの提案で偽名も使わずに実名で活動しているが、これが案外誰にも俺やシルヴィの事に気付かなかった。マリアや上代が言うには、この世界では髪を染めるという発想そのものがないので、髪を染めただけで同姓同名の別人と判断されるのだという。

 フェニックスの聖剣士こと俺、楠木竜次とそのパートナーであるシルヴィア王女は、戦勝パーティーの後行方をくらまし、一部の噂では2人で別の世界に行ってしまったのではないかと言われている。恩恵を使っても、別の世界に転移することなんてできないのに。

 厳密にいえば、出来なくもない。

 だが、それには代償が必要となってしまうので使わないことにしているのだ。なのに元の世界に戻れないなんて理不尽すぎるぞ。あのクソ王女が強引な召喚を行ったのせいで。


「それにしても、今日も随分とたくさん取ってきましたね」

「自分で狩りに行くからかなり大変だけど、その分儲けさせてもらっているさ」

「でも、お陰でレイリィを常に召喚しなくちゃいけない状態になっているし、1匹じゃ賄いきれないからあと5匹も契約することになったわ」


 それについては、本当にすまなかったと思っている。

 しかも、シルヴィ以外の人の指示にも従うように指示を出すのにもかなり苦労した。

 召喚獣は、基本的に契約を交わした主の言うことしか聞かないため、シルヴィ以外の人の指示を聞くように説得させるのに相当骨が折れた。


「ま、お陰でこちらの国益もぐんと上がりましたし、上代様の国で作られた魔道具が普及したことでこの世界の生活もかなり豊かになりました」

「ま、どれも俺のいた世界では普通にあったものなんだけど」


 なんせ上代が新たに作った魔道具は、冷蔵庫、洗濯機、通信機、列車など、地球では普通に存在するものばかりなのである。この世界の人達にとっては、かなり驚かれたけど。


「上代の国も、結構順調だな。秋野と麗斗の国もだいぶ軌道に乗っているし」

「えぇ。秋野沙耶の国も、まだゾフィル程じゃないけどいずれはかつてのゾフィルに並ぶ農業国家になると思うわ」

「ですね。麗斗も知識がある分、徐々に発展させていっていますね。何より彼にはエレナもついていますし」


 聞いての通り、上代と秋野と麗斗が建国した新国家は順調に成長していき、近い将来大国として成長することが予想される。


「それと、犬坂の方は?」

「はい。幸いまだ生きていますが、食事も看守が見ていないとろくに取りませんので心配です」

「そうか」


 戦勝パーティーの後、犬坂は石澤を失ったショックから抜け出す事が出来ず、声も発することもなくただ毎日呆然と過ごす日々が多く、周りが言わないと食事すらもとらない程であった。

 そのせいか、日に日に犬坂はやせ細っていき、看守曰く今では肋骨が浮き上がるほどにやせ細っていた。


「前の戦いで活躍したおかげで、無期懲役から特別に15年の懲役に軽くなったんでしょ。一生刑務所暮らしではなくなったんだし、15年後には釈放される筈でしょ」

「はい。正確にはあと12年。あと12年なんですが、彼女が出所後もまともに生きていけるのかが不安です」


 シルヴィの言う通り、本来刑期が軽くなる訳ではなかったのだが、フェリスフィア前女王の計らいで残りの人生牢屋暮らしから、きちんと反省しているという理由で15年後に釈放される事になった。

 しかし、マリアの話を聞く限りでは釈放後にきちんと生きていけるのかどうかが不安になってきた。そもそも、あと12年もちゃんと生きていられるのかも分からなくなった。


「一応、常に看守と医療班が交代で見張っているのですが、正直言って自ら命を絶たないかが心配です」

「本来なら、パートナーのダンテが支えてあげなきゃいけないだろうけど」

「無理だと思うわ。ダンテは明里と結婚しちゃっているし、今更あの狂信女が黒い方以外の男の事を好きなるとは思えないわ」

「そうだな」


 シルヴィの言う通り、犬坂もダンテもお互いに別の相手を好きになっていて、犬坂に至っては相手がもう生きていないのだから後を追って自殺しかねない。

 だけど、自殺はしてほしくない。

 石澤と一緒に罪を重ねてきたのかもしれないが、石澤ほど酷くないから勝手に立ち直って苦しみながらも生きて償ってもらいたい。

 ちなみにダンテは、宮脇と共に俺の店で働いてくれて、去年結婚した後2号店を経営してくれている。

 軽く雑談と近況報告を終えた俺とシルヴィは、お金を受け取ってから王城を後にして俺とシルヴィの店へと帰っていった。

 店に帰ると、身分を問わずにたくさんのお客さんが来店していて、椿や他の従業員たちがその対応に追われていた。


「大繁盛しているのは嬉しいけど、従業員の人達には毎日大変な思いをさせてしまったな」

「そうだけど、私と竜次だってこれからやらなくちゃいけないことだってあるでしょ」

「わかってる」


 俺とシルヴィは店の奥へと入り、そこで明日お店に出す分の装備や工芸品、薬などの制作を行っていた。

 そんで、制作した全ての商品を三等分に分けて本店に置く分と、2号店と3号店に送る分と分けなくてはいけないのだ。

 その為、作る量が半端ない。いくつかは魔法で何とか賄っているが、それにしたって限界があるし、細かい所はどうしても人の手で仕上げないといけない。


「素材そのものを買い求めてくれるとありがたいけど、そうもいかないよな」


 今はまだ俺とシルヴィの2人と、専属の職人10人の計12人で頑張っているけど、いずれは工場のようなものを作って制作するスタッフさんももっと雇おうと考えている。

 今は資金が足らずに実現できていないが、あと2年後くらいにはそうしたらいいなと思った。

 すべての作業を終えたのは夕方の6時過ぎで、店は5時に閉店なのでいつも俺とシルヴィは1時間も残業することになっている。

 だけどシルヴィは、毎日残業しても毎日楽しそうに加工作業を行っていた。本人曰く、魔物の素材を加工するのはすごく楽しいということだ。


「さすがは魔物のエキスパート。素材加工も楽しそうだな」

「当たり前じゃん。魔物の素材の良さは、実際に自分で加工してみないと分からないものだし、肉だって実際に食べないとどの魔物の肉がどんな風に美味しいのかが分かる」

「だからと言って、スノーラットやタコナメクジまで食べようなんて思わないだろ」

「スノーラットはお腹壊して後悔したけど、タコナメクジの肉は珍味で美味しかったわよ」

「ええぇ」


 あんな見た目が気持ち悪いタコナメクジを食べようなんて、俺にはとても信じられなかった。シルヴィが言うのだから美味しいのだろうけど、やっぱり俺はあのタコナメクジを食べようとは思えない。


「さて、もうすぐ夕食が出来るわよ。今夜は、雄のメルボーモのステーキよ」

「3年で随分と料理の腕が上達したな」

「いつまでも下手くそのままではいられないからね」


 3年の間にシルヴィは、メキメキと料理が上達していって、今では俺が手伝わなくても大丈夫になった。


「お店も順調みたいだし、そろそろ私も子供が欲しいわ♪」

「うぐっ!?」

「ふふふ。動揺しすぎよ♪」

「わ、わりぃ……」


 まぁ、店の経営も軌道に乗ったし、工場の資金とは別に貯金はあるのでそろそろ子供が欲しいなと思った。子供が生まれたらしばらくシルヴィは仕事ができないだろうが、その時は椿に頼むとするか。制作作業は一人減るが、作業効率的には問題ない。

 なので、俺もそろそろ子供が欲しいと思った。

 そしてこの先も、俺はシルヴィと共に歩んでいくのだ。





最後までお読みいただきありがとうございます。

あまり話を長く引き伸ばすのが性に合わなかったと思い、簡素にまとめるような内容になったと思った。


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