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89 戦勝パーティー

 石澤を倒し、仲間と一緒にフェリスフィアの王都に戻るとお祭り騒ぎとなっていた。それこそ、あの広い王都全土で催された程であった。

 が、肝心の聖剣士とパートナーは誰一人このお祭りに顔を出さなかった。


 秋野とアレンは、重傷であった為戻って早々集中治療室へと入れられた。幸い体に異常はなかったが、1週間ほどは療養生活を送る事になった。


 麗斗とエレナ様は、激しすぎる頭痛のせいで戦いが終わった直後に意識を失い、目を覚ましたのが5日後でお祭りは既に終わっていた。


 上代と桜様は、俺達が恩恵を発動させる前に代償を伴う程の力を使った事で、起き上がる事も出来ない程の激しい疲労感を感じてしまった。起き上がれるようになったのは、麗斗とエレナ様と同じ5日後であった。


 聖剣士である以前に、罪人でもある犬坂が祭りに参加できる訳がなく、終わると同時に地下牢へと戻される事になった。


 そんな中、俺とシルヴィだけが参加するのは何だか気が引ける為、国民に見つからないように王城で静かに過ごした。あぁいう雰囲気が苦手というのもあるが、それ以上にあの戦いは決して誇れるものなどではなかったのだから。


 2000年以上も続いたこの戦いによって、大勢の人の人生が狂わされ、そして犠牲になってしまったのだから。

 余談ではあるが、石澤によって別の世界から引き寄せられてしまった女性達は、俺の恩恵を使っても元の世界に戻す事が出来ず、言葉の壁に苦労しながらも結局はこの世界で生きなければいけなくなった。

 そして、俺達の召喚に巻き込まれ、石澤と婚約した女子生徒達は、石澤を失った事に対する喪失感から生きる気力を失ってしまい、殆ど廃人のような状態になってしまった。彼女達にとって、石澤の存在こそが全てであり、結婚出来る事を心の底から喜んでいたのだろう。勿論、その殆どが犬坂並みの狂信者だったというのもあるかもしれないが。

 しかし、そんな女性は1万人いるうちのわずか100人にも満たない。

 先に言った別の世界から引き寄せられた女性や、絶対服従能力を受けて無理矢理婚約させられた女性達は、石澤によって体を汚され、愛を語っていた事に対して罪悪感に苛まれ、抱かれた事に対して気持ち悪さを感じて落ち込んでいた。

 婚約者や夫がいた女性は特に酷く、最愛の人を裏切ってしまったことにとても苦しんでいた。未遂に終わったが、中には自ら命を絶とうとする人までいたくらいであった。

 その為、彼女達はしばらくフェリスフィアで保護観察していき、きちんと生きていけるようになるまで支援していく事が決まった。

 そんな訳で、俺達の戦いは決して称賛される様なものではない。

 全ての元凶たる魔王も元は人間で、結婚したいと思う程強く愛していた女性の死がキッカケで騒動を起こした。

 新しい魔王になった石澤も、周りにいる人間に恵まれなかったせいであそこまで歪み切ってしまった。

 地球では、石澤の能力に目を付けた大人達に利用され、違法行為を全てもみ消して持ち上げさせた結果、自分が欲しいと思ったものをどんな手段を用いても手に入れようとする人間になった。

 この世界に召喚されてからも、聖剣士としての石澤の力を悪用しようとし、その犯罪をもみ消す等の行為を行ったせいで益々性格が歪んでしまった。

 魔王騒動だの、悪魔の仕業だの何だの言われているけど、実際は人間が全て引き起こした事件、つまり人災だ。

 聖剣士なんて言われて持ち上げられているけど、結局は人間が引き起こした人間同士の争いに巻き込まれてしまったのだ。

 そんな戦いに勝利したとしても、俺達は一ミリも嬉しいと感じない。達成感も感じない。

 なので、戦いに勝利して喜ぶ国民には悪いけど一緒に喜ぶ気にはなれなかった。だから、戦勝の祭りに参加する気になれなかった。

 だけど、女王や同盟国の代表やその国の貴族が参加する戦勝パーティーには出席しなくてはいけなかった。

 秋野とアレンが治った3日後に開かれ、俺達は各国の代表や貴族達から称賛された。ちなみに、この時だけは地下牢にいた犬坂も出席が認められたが、貴族達に話しかけられても小声で返事を返すだけであり、顔からは生気が全く感じられなかった。


「まったく。せっかく牢から出られたんだから、目の前のご馳走を堪能すればいいのに」

「それは無理だと思うわ。神みたいに信仰し、異常な好意をずっと黒い方に向けてたんだから、アイツが死んだ事でこの世の終わりと同等のショックを受けているでしょう」


 確かに、犬坂に限らず他の狂信者たちも石澤の本性を知っても尚、石澤に異常な愛情を向けていたくらいだ。例え洗脳が解けでも、石澤への異常な愛は揺らぐ事は無いのだろう。

 そんな石澤を失ったのだ、支援を受けているとはいえ、彼女達にとって世界の全てである石澤がいない世界でまともに生きていられるのか不安だ。


(願わくば、少しだけでも立ち直ってしっかりと生きて欲しい。自殺なんてされても迷惑だ)


 更に補足情報として、一度絶対服従能力にかけられた女性達には、解かれた後で絶対服従能力に対する耐性が確かに身に付いていたらしく、再びかかっても自力で解く事が出来るようになった事が後で分かった。

 麗斗曰く、能力なんて名前が付いているが実際はウィルスのような物で、それが俺の恩恵を使ってとは言え解かれた事で免疫機能が備わったおかげだと言う。エミリア王女が自力で洗脳を解いたのも、そのお陰ではないかという。

 ただし、精神的な依存は別で、元々石澤に信仰に近い好意を抱いていた女子達は例え解けても、石澤が悪魔になっても好きだと思っていて、そういう女子が俺とシルヴィの目の前にいる犬坂みたいになるのだという。


「彼女達にとって、石澤は物語に出てくる理想的な白馬の王子様に見えたのだろう」

「けど、そんなものは所詮幻想に過ぎないわ。在りもしない幻。彼女達が抱くような白馬の王子様なんてこの世には存在しないわ。自分の理想を他人に押し付けるのは、押し付けられた人達にとっては迷惑でしかないわ」

「そうか」


 シルヴィはその歳でしっかりと現実を見ているな。

 人間というのは、大なり小なり欠点や悪い所はあるものだ。物語に出てくるような、外見も中身も全てが完璧な理想的な人間なんて現実には絶対に存在しない。

 だが、それを分かっていても理想を抱いてしまうのが学生の恋愛というものであり、地球では社会に出て現実を知って初めて思い知るものだ。


「それで、これからどうするの?女王から旧キリュシュライン領の領地の一部の譲渡権を放棄したって聞いたわ」

「ああ」


 実は戦いの後、フェリスフィア女王からキリュシュラインが奪った領地の一部を、犬坂を除く4人の聖剣士に譲渡し、新しい国を興して欲しいと頼まれた。

 乗っ取られた国でも、王女もしくは王子が生きていればその人に自国の再建を任せておき、フェリスフィアとその同盟国もその支援を行う事になっている。

 しかし、西方の殆どの国の王族は殺されていて、滅ぼされた国の再建はほぼ不可能な状態になっている。

 そういう領地には、犬坂以外の聖剣士に譲渡して新しい国を興して欲しいと依頼された。

 上代と秋野は、政治や経済や経理等国の建国に役に立つ家臣を付けて欲しいと言う条件で、新しい国の建国を了承した。

 麗斗に関しては、婚約者になったエレナ様がサポートしてくれる上に、麗斗自身も政治や経済や経理等に詳しかったので新しい国を建国するのは問題なかった。その為、すぐに了承した。

 けれど、俺は領地の受け取りを断った。国を治めるのは性に合わないし、シルヴィも自国の復興にあまり乗り気ではなかった。


「でも、本当に良いのか?せっかくエルディア復興の機会が与えられたのに」

「良いわよ。洗脳されたせいだと分かっていても、国の為に尽くしてくれたお父様達を裏切り、罵倒してキリュシュライン王になびいた国民の為に復興しようなんて思えないわ」

「そうか」


 確かに、信じていた相手に裏切られる辛さは想像以上だ。

 シルヴィも何度も言っていたが、自国の復興を行う気が無いと言う意思は固かった。

 それ以前に、元エルディア国民は全員が絶対服従能力にかかっていた期間が長かったせいで、王族に対する印象は最悪であった。

 そんな相手の為に再建なんてしたくないと言っていたし、そもそもシルヴィの性格では政治と経済を回す事は出来ない。


「どんな理由があっても、お父様やお母様、お兄様やお姉様達を悪く言う人達の為に頑張ろうなんて思えないわ」

「分かった。でも本当に良いのか?俺の選んだ生き方は、正直言って優雅とは言い難いかもしれないぞ」

「構わないわ。竜次と一緒ならそれで良いわ」

「そうか」


 シルヴィの意思は本当に固かった。

 例え辛い事があっても、俺に付いていくと言って聞かなかった。

 俺もまた、そんなシルヴィが傍にいてくれる事がとても嬉しかった。

 そうして雑談をしていると、フェリスフィア女王や同盟国の代表達が壇上に上がり、それを合図に俺とシルヴィも貴族達と談笑をしていた上代達と一緒に壇上の近くへと向かった。

 無論、ジオルグはこのパーティーに出席していない。戦いが終わると同時に、フェリスフィアとの同盟が破棄されたというのもあるが、代表であるシェーラが国際指名手配犯である為出席するだけで国際問題になる。

 犬坂にも一応勲章を与えるが、罪が軽くなる訳ではなく次の日からまた地下牢へと戻る事になる。いずれにせよ、残りの人生を死ぬまで牢屋で過ごす事になる。せめて今だけは、思う存分楽しんで欲しいのだが。


「よくぞこの世界を救ってくださった。同盟国を代表して、お礼を申し上げます」


 フェリスフィア女王陛下は、俺達に向けて笑顔でお礼を言って頭を下げた。そんな女王と一緒に、同盟国の代表達も頭を下げた。

 同盟国の代表達は満面の笑みを浮かべていたが、フェリスフィア女王陛下だけは笑顔ではあるが満面とは言い難かった。

 壇上に立っている代表達の中で唯一、魔王と魔人の真相を知っているからなのか、笑顔ではあるがあまり嬉しそうではなかった。

 それでも、フェリスフィア王国の女王として私情を挟む訳にもいかず、勝利を喜ぶ場に水を差す訳にもいかず、場の雰囲気に合わせて嬉しそうに振る舞っているのだろう。

 お礼を言った後、女王は俺達に勲一等を与えた。報奨金に関しては、パーティーの後で改めて渡される。


「会場の皆も、この世界を救い、2000年もの長きに渡る魔王との戦いに終止符を打った聖剣士達に拍手を」


 女王の掛け声の食後、会場にはガラスが割れんばかりの拍手が鳴り響いた。

 皆この戦いに勝利して喜んでいるのだ、人間同士の戦いに巻き込まれた事に対する不満を言うのではなく、ここは一度周りに合わせて俺達も喜ばないといけない。

 皆の拍手に応えるように、俺達は立ち上がり、皆の方を振り返ると右拳を高々と上げて、それぞれ金と銀に輝く紋様を見せた。

 その瞬間、会場の喜びは最高潮に達し、わぁー!と大きな声を上げて喜んだ。


(今はこれでいい。100年後、200年後にこの戦いの真相が正しく伝わる事を願って)


「ありがとうございます、聖剣士とパートナーの皆様。それともう一つ、皆様にご報告があります。マリア、こちらへ」

「はい」


 女王の最後の報告に会場が一気に静まり返り、呼ばれたマリアが俺達の前に立って壇上に上がった。


「よくぞ、国の為に戦い抜きました。大儀です」

「いえ。勿体なき御言葉です」


 公の場という事もあって、マリアも何時もの豪胆さもなりを潜めてしおらしく振る舞っていた。


「私は本日をもって退位し、マリアを新たな女王に即位させます。これからは貴方が、この国を支えていくのです」

「はい。この国の為、この国に暮らす全国民の為に尽力いたします」


 その後女王は、自分の頭に被ってあったティアラを外し、それをマリアの頭の上に乗せた。

 この瞬間、マリアがフェリスフィアの新しい女王となった。

 新女王の即位に、フェリスフィアの貴族達が喜びの声を上げた。

 その後、叙勲と継承を終えるとまた貴族や王族達を交えた戦勝パーティーが再開した。


「まさか今日マリアが女王になるなんて」

「ちょっと竜次、マリアはもう一国の女王なんだからあまり軽々しくしない方が」

「気にしないでください。今更恭しくされても気持ち悪いです。それに、女王になっても私は竜次様の師です。戦いが終わった後でもみっちりと剣の修業は積ませます」

「お手柔らかに……」


 女王になってもやはり変わらないな。


「ところで、本当によろしいのですか?せっかく広大な領地が手に入り、そこに新しい国家を築けるチャンスを」

「ああ。俺はそういうのは性に合わない。だから俺は、王都で店を建てようと思っている。魔物の素材を売り買いし、または素材から作った装備や装飾品、工芸品などをシルヴィと一緒に売ろうと思っている」

「そうですか。我が国の王都で店を構えるとなると、椿様には申し訳ありませんね。竜次様がこの国に籍を置くと、側室になる事が出来ませんので」

「確かに、竜次がフェリスフィアで店を出すと聞いた瞬間、椿様ったらすごい顔で懇願してたわね。ヤマトで店を出してって」


 確かに、フェリスフィアに定住すると決めた時の椿は今にも泣きそうな顔になって縋り付いてきたな。

 フェリスフィアでは側室を貰うのは禁止されていて、椿を娶る事が出来ないのである。

 それに納得がいかない椿と、ヤマト王妃様は何としてもヤマト、もしくは違う国で店を建ててくれと懇願してきたのだ。かなり必死で。

 でも、俺は地位も名誉も何も求めず、剣の修業を積みながらのんびりスローライフをしながら、自分の店を経営していきたいと根気よく伝えた事で何とか引いてくれた。

 その代り、椿もフェリスフィアに移住させて俺の店で働かせて欲しいと言う条件付きであった。シルヴィ曰く、愛人として近づき俺から子種だけでも貰おうと企んでいるとのこと。


「まぁ、長年男と縁のなかった椿がようやく本気で惚れた男に出会えたのですから、そう簡単に手放すとは思えません」

「しつこすぎて困るんだけど……」

「ちょっと目を離すと竜次が襲われそうで心配になるわ」


 ちょっとシルヴィさん!?襲われるのは俺の方なの!?

 が、否定したいが否定しきれない自分が悲しい……。襲って来ないで、椿様。


「ま、竜次様と結婚したいという女性はこの国でも大勢いらっしゃるでしょうし、不可抗力で椿様との間に子供が出来てしまったのでしたら特別に目を瞑って差し上げましょう」

「よくねぇだろ!助けてくれよ!」

「私が四六時中傍にいてあげるから安心して!寝る時はもちろん、お風呂に入る時も!」


 それ、半分自分の欲求も入っていませんかシルヴィさん?まぁ、相手がシルヴィなら構わないか。

 実はパーティーの後、シルヴィと2人で待ちに待った時間を迎える約束をしていたのだが、その話は皆には内緒だ。


「それにしても、上代と秋野と麗斗は一体どんな国にするつもりなんだ?」

「そもそも、国の名前をどうするかだよ」

「国名については追って連絡いたします。3人とも、既に国名を決めていますので」


 どうやら3人とも、既に新しい国名は考えてあるみたいだが、発表はもう少し先になるようだ。

 どういう国にするかについては

 上代は、新しいエネルギーと魔道具の開発を中心に伸ばしていこうと考えている。エネルギーに関しては、魔力を動力源とした環境に優しい新しい資源の開発を行っていこうと考え、魔道具は地球の家電製品をベースに作っていこうと言っている。


「新しい魔道具はともかく、新資源に関してはバラキエラの成金国王が何て言うか」

「それは問題ありません。化石燃料の利用も視野に入れているみたいで、この星の環境に悪影響の出ないようにさせ、尚且つ少ない量でも回せるようにしようと考えているそうです」

「そうなれば、私達の暮らしも豊かになるわね」


 確かに、そうなればこの世界の文明レベルが何百年も進む事になるだろう。

 一方、秋野は農業を中心に国を発展させようと考えている。

 石澤が倒された事で、ゾフィル王国も無事に復興する事が出来た。幸いにも、王子と2人の王女が無事であった為再建は可能だが、以前のような農業大国に戻すには土壌があまりにも酷い状況らしい。アバシア国王によってかなり荒らされていて、農業が難しくなってしまった。

 その為秋野は、ゾフィルと協力してこの世界の食糧事情の解決に尽力すると言うのだ。


「あの馬鹿王のせいで、ゾフィルの土壌はかなり酷いらしいし、貴重な固有樹木もたくさん伐採されているもんね」

「まぁ、王子は母親寄りの性格をしていますので、何とかなると思います。2人の王女も、祖国の再建に協力的ですし」

「あの王様に似なくて良かったな」


 それに、石澤や魔王のせいでこの国の食糧事情はかなり危険な状況になっている為、秋野の製作はとてもありがたかった。

 麗斗が貰った土地は海がある為、漁業と海産物の養殖に力を注ぐと言った。


「海の生き物を養殖しようという発想は、正直言って思いつきませんでした」

「まぁ、この世界の海にはサメ以上に危険な海の魔物がいるから、海で海産物の養殖を行おうという発想なんてなかったんだろうな」

「西側の海にはクラーケンは出ないし、大抵の海の魔物はかなり遠くの沖に行かないと遭遇しない種類ばかりだから、大丈夫だと思うわ」


 つまり、余程奥に行かない限りは魔物に襲われる心配はないと言うのか。それなら養殖も大丈夫だろう。

 ただし、サメは来る可能性があるらしいが、ただのサメだったら魔物狩りでなくても対処は可能なので問題はないらしい。


「皆そこまで考えているんだな」

「竜次様だってきちんと将来を考えているではありませんか。狩った魔物の素材をお店で売って、顧客からたくさんの素材を売るのでしょ」

「他にも、魔物の素材から作った装備やアクセサリー、それに工芸品なども売る予定だ」

「他にも、肉の販売もするわ。魔物の中には、食用に適した種類もいるわ」


 魔物肉に関しては、魔物に詳しいシルヴィがよく知っているし、ドラゴンの肉みたいに高級の肉もシルヴィと一緒なら狩る事も出来る。

 他にも、リーゼから教わった錬金術や薬学で薬も販売しようと考えている。


「最初はそんなにたくさん売れないと思うけど、魔物の素材と肉は生活する上でなくてはならないものだし、薬だって魔物狩りに必要でしょ」

「シルヴィって本当に辛辣だな」

「シルヴィア様ってそういう御方ですから。という事は、報奨金で店舗の確保と開業資金に使われるのですね」

「ああ」


 あと、これまでの行商で得た金を使えば当面の生活も何とかなるだろう。報奨金の受け取りを終えると、俺とシルヴィは身分を隠して店を構えるんだから助かる。

 従業員も椿の他にも、マリアが店の経営に詳しい人を何人か紹介してくれるという事なので、俺とシルヴィが留守の間も何とかなるだろうと思った。


「さて、私はそろそろお暇いたします。これ以上竜次様とシルヴィア様を独り占めする訳にはいきませんので」

「確かに、周りを見ていると貴族達が話しかけるタイミングを窺っているわ」

「ええぇ……話しかけてもどう反応を返せば良いのか?」


 話す内容は想像がつくし、あまり関わりたくないな。

 俺の反応に困る俺を他所に、マリアはグラスを片手に母親の元へと行った。

 その直後に、いろんな国の貴族達が俺とシルヴィ、もとい、俺の元へとやってきた。


「楠木殿!どうか我が国に来て、娘の事も嫁に貰ってください!側室でも構いませんので!」

「いいえ!私は公爵家の人間です!うちの娘と結婚した方が後にお役に立ちます!」

「私の娘は、国内でも1番の美人です!どうかうちの娘も!」


 やっぱりその話ですか。

 フェリスフィアの貴族達は遠慮しているが、他の国の貴族達はそうはいかない。

 自分の国に来て、娘と結婚させる事で俺との繋がりを持ちたいと思ったのだろう。事実、上代と麗斗の所にもいろんな国の貴族が縁談話を持ち掛けてきた。2人とも断ったし、俺も受け入れる気なんてない。


「申し訳ありませんが、俺、いや、私はシルヴィ一筋ですし、この国に永住しますので側室は無理です」

『そこを何とか!』


 それでも引かない貴族達にたじろぐ俺の腕を、シルヴィがグイッと引っ張って抱き着いてきた。


「残念だけど、竜次は私だけを愛してくれているの。ごめんね」

「ちょっ!?シルヴィ!?」


 大きくて柔らかいものが身体に押し付けられている!

 だが、そのお陰で貴族達が泣きべそをかきながら去っていった。相手がシルヴィでは、流石に勝ち目がないと思ってくれたみたいで助かった。


「助かりました」

「まったく。私が近くにいると分かっているのに、よくもまぁ堂々と自分の娘を進められるわね」

「俺に限らず、上代や麗斗も似たような感じになってたし……貴族って、こんなのばかりなのか?野心が見え見えだ」

「あれを基準にしない方が良いわ」


 それは分かっているけど、あんなの見るともう関わりたくないと思ってしまう。


「城を出た後、恩恵を使って髪を染めるか」

「それが良いわ。せっかくだし、私は黒髪にしてみたいわ」

「黒、ねぇ~」


 似合うかもしれないが、綺麗な金髪が勿体ない気がしたが身バレは避けたいので仕方がない。


「竜次は、赤みが掛かった金髪が良いと思うわ」

「赤身の掛かった金髪、か……」


 髪を染めたことが無いから分からなかったし、赤みが掛かった金髪に染まった自分の姿が想像つかなかった。


「悪くないかも」

「あれ?冗談のつもりだったんだけど……いや、ありかも」


 どっちなの!?

 まぁ、軽く脱色した程度じゃすぐにバレるだろうから、そこは思い切った方がバレにくいだろうと思ったんだけどな。


「まぁ何にせよ、城を出た後は髪を染めるという方針でいくとして、シルヴィは本当に黒髪で良いのか?」

「えぇ。実を言うと、椿様を見ていると黒髪も良いなって思っていたのよ」

「そういうものか?」

「地で黒髪の竜次には分からないかもしれないけど、西方に住んでいる人達にとって黒髪は憧れなんだ」


 何かそれ、地球でも聞いた事がある気がするな。ちなみに日本人は、金髪に憧れる人が多いんだよな。何故なんだろう?

 そんな時、パーティーは最後のダンスに入ったみたいで、会場中にクラシックな音楽が鳴り響いた。

 それと同時に、会場の真ん中に男女のペアが一斉に踊り始めた。その中には、俺の知っている人達もいた。上代と秋野は、踊れないという理由で断っていた。


「竜次も一緒に踊りましょう」

「ちょっ!?俺踊れないんだけど!?」

「大丈夫。私がフォローしてあげるから♪」


 シルヴィに手を引かれて、俺もシルヴィと一緒に踊った。

 正直言って、すごくぎこちなくてカッコ悪いと思うけど、それでもシルヴィが楽しそうに踊ってくれていたのでまぁ良いかと思った。

 そうしてダンスタイムの終了と共に、戦勝パーティーはお開きとなった。

 その日の夜、俺とシルヴィはお楽しみの甘い夜を過ごす事になった。





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