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88 最後の決戦 4


「守るって、秋野……」


 秋野の突然の提案に、俺とシルヴィは思わず言葉を失い、秋野とアレンの2人を見てしまった。

 確かに、あの赤い光はその気になれば防ぐ事が出来る事を知っている。アリエッタ王女が防いで見せたように。

 しかし、それも北方だけと限られた範囲でのみの発動であったためアリエッタ王女は防ぐ事が出来たのだ。範囲が広く、かつ強力なものとなると同じ方法で防ぐ事が出来ない。

 だが、守る事に特化した秋野なら防ぐ事が出来るだろう。

 しかし、そんな秋野の提案に麗斗が異議を唱えた。


『しかしそれだと秋野殿の負担がとても大きくなります。最悪の場合、体に大きな障害を残してしまう事だってあります』

「障害!?」

「どういう事!?」

『楠木殿の恩恵だけに代償が発生すると思ったら、大間違いです。秋野殿の恩恵も、守る人の人数が多ければ多い程、範囲が広ければ広い程に身体にかかる負担がかなり大きいのです』

「負担って!?」

「そこから先は私が説明する。私の恩恵は、守る範囲が広ければ広い程肉体に物凄い不可が掛かってしまうの。前にファルビエ王国の大襲撃に対処した時に知った。まるで、全身をプレスされるような激しい苦痛が襲って来たの」

「激しい、苦痛……」


 詳しく聞くと、秋野の恩恵は守る人数の多さと、守る範囲の広さに比例して身体を押し潰す様な圧迫感を感じるのだと言う。

 更に、敵の攻撃まで防ぎ続けていると全身を大きな鉛の玉で打ち込まれる様な激痛が走り、最悪の場合何かしらの障害を抱えてしまう可能性があるのだと言う。

 秋野が最初にこの代償を払った時、口と鼻から血を流した後に意識を失ったという。幸いにも身体に何の異常もなく、2日後に目を覚ましたという。

 そして、同様の苦痛はパートナーであるアレンも負った。


「まぁ、実際に死ぬ程の負荷は与えないでしょうけど、あまりの苦痛にショック死なんて事もあり得る苦痛でした」

「それでも、私達だけが大勢の人から楠木君とシルヴィアさんを忘れさせずに済ませられる」

「だとしても、秋野とアレンにそんな苦痛を味合わせたくない」

「私達なら身体に負担がかからないから、あなた達が苦しい思いをする必要なんて無いわ」


 俺とシルヴィが我慢すればいいだけだ。

 独りぼっちになる訳ではない。シルヴィだけが俺の事を覚えてくれるし、俺もシルヴィの事を忘れない。

 既に覚悟も出来ているし、ここで秋野とアレンに負担をかけたくない。


「それでもやりたい。守らせて」

「俺も沙耶と同じ気持ちです」


 しかし、それでも秋野の意志は固かった。


「私とアレンに守らせて。石澤を倒す事、魔人事件を終わらせるのが楠木君の役目なら、そんな楠木君に代償を払わせないようにするのが私の役目だから」

「どういう事?」


 シルヴィの問いに、秋野は柔らかな笑みを浮かべながら答えた。


「ずっと考えていた。守る事に特化した私が、何でこの世界に召喚されたのかって。守るだけなら、わざわざ私が選ばれる理由はない」


 確かに、犬坂の恩恵は剣でありながら守る事をメインとしたもので、力に関しては普通の剣と何ら変わりがない。

 そんな亀の聖剣士となった秋野が、召喚されるべき聖剣士の一人といて選ばれた。

 攻撃に特化した上代や犬坂が選ばれず。


「けれど、魔王の話を聞いてようやく私が選ばれた理由が分かった。私はきっと、石澤や魔人達を除く全ての人達を、楠木君達を忘れさせる赤い光から守って忘れさせないようにするする為に選ばれたのだって」

「沙耶1人では無理でも、俺の力も加われば絶対に防ぎきれます。どうか沙耶と俺に、赤い光から2人を守らせてください。絶対に、皆からお2人の事は忘れさせません」

「秋野……アレン……」


 苦痛を味わう事も厭わず、2人はあの赤い光から自分も含めて全員を守ると言って来た。

 だが、秋野の恩恵は守る人数が多く、範囲が広い程身体にかかる負荷がかなり大きくなってしまう。

 そんな危険な事を、秋野とアレンだけに強いても良いのか?

 俺達が支払う代償は、別に死ぬ事も苦しむ事もない。精神的苦痛はかなり酷いが、肉体的苦痛は完全に皆無。

 秋野とアレンとは違う。


「気持ちは嬉しいけど、そんな代償を払わせる訳には」

「えぇ。流石にそこまでさせる訳には」

『分かりました。では、私が範囲を指定いたします』

「ちょっ!?」

「麗斗!?」


 俺とシルヴィが渋ると、麗斗が秋野の提案を承諾し、自分も協力すると言い出したのだ。


『楠木殿とシルヴィア様にはお分かりになりませんか?秋野殿とアレン殿の、強いご意思を。強い意志を持って守ろうとするお2人を、私は尊重したいですし、それ以上は私でも意見する事は出来ません』

『麗斗の言う通りです。星獣様も、何の理由もなく召喚させる聖剣士を選びません。必ず理由が存在します』


 麗斗の後に、ずっと黙っていたエレナ様までもが援護射撃をしてきて、秋野とアレンも覚悟を決めた眼差しで俺とシルヴィを見た。

 その目には、迷いや恐怖なんて一切感じられなかった。


「まったく。やっぱり俺は弱いな……」

「竜次」

「ああ。分かった。秋野達に任せるよ」


 結局秋野とアレンの強い意志に根負けし、俺達は石澤や1万人の女性達、更に魔人に変えられた人達を人間に戻す事を決め、代償を払わせる赤い光を秋野達に防がせる事を決めた。


『そうと決めたら、急いだ方が良い。俺もこれ以上、石澤に罪を重ねて欲しくない。最後に、2000年以上も世界を混乱に陥れ、その尻拭いを君達に任せてしまって本当に申し訳ない。恩恵が発動されると、私は今度こそ消滅し、地獄の業火の中でこれまでの罪の報いを受ける事になるでしょう。玲人と共に』

「かもしれないな」


 いずれにしろ、石澤は地獄行きになる。

 過ちを過ちと認識せず、己の欲望を叶える為だけにここまでこの世界を混乱に陥れたのだ。

 確かに、視点を変えれば石澤も被害者なのかもしれない。

 しかし、だからと言って罪が軽くなる訳でもないし、被害に遭った人達もそれで納得なんて絶対にしない。

 経緯はどうあれ、石澤は人間である事を捨てて、欲望や快楽のままに生きる悪魔へと変貌してしまったのだ。

 そんな石澤を、これ以上生かしておく訳にはいかないのだ。

 改めて覚悟を決めた俺達は、再び石澤のいる訓練場へと足を運んだ。

 訓練場に着くと、未だに怒りのままに暴れる魔人化した石澤により、訓練場には瓦礫がたくさん散乱し、石澤は周りの物を手当たり次第に破壊して回っていた。


「怒りで我を失っているとはいえ、堪え性が無さすぎだろ」

「調教が可能な分、猛犬の方がマシだわ」


 シルヴィさんや、猛犬が出来上がる原因は全て飼い主にあって、犬が最初から凶暴という訳ではありませんよ。

 そういう意味では、石澤と猛犬は一緒なのかもしれないな。世話をする人が駄目だと、それが育てられている子供や犬にも悪い影響を与えてしまうから。


「さて、早速始めるね。アレン」

「はい。沙耶1人だけに、苦しい思いはさせない」


 準備が整った秋野は、聖剣を地面に深く突き刺し、アレンはそんな秋野の手を両手で包み込むように握った。その瞬間、2人の紋様が金と銀に強く輝きだした。


『では、守るべき人達の位置情報と範囲を秋野殿の頭の中に送ります』

『麗斗が将をやっている3年の間に、恩恵と併用して作り出した麗斗だけが使える特別な魔法ですよね』

『当時はこれが恩恵だったなんて知りませんでしたが、結果的に自分の恩恵を魔法と併合して使用する術を身につける事が出来ました』

『そうでしたね。ですが、今回は私も協力します』


 それを最後に、麗斗からの通信が切れた。おそらく今、秋野の頭の中に守るべき人達の位置情報と、守備範囲を送り込んでいるのだろう。

 だったらこっちも、そんな2人の思いに応えないといけないな。


「おいこっちだ!」


 俺の叫び声を聴いた途端、石澤の動きがピタリと止まり、ゆっくりとこちらに身体を向けた。


「楠木ぃいいいいいいいいいいい!」


 俺を見つけた途端、石澤は大きな声を上げながらこちらに向かってきたが、その前に俺は聖剣を天にかざし、シルヴィはそんな俺の両手を包み込むように両手で握った。それと同時に、俺とシルヴィの紋様も金と銀に強く輝きだした。

 そして、願った。




「「魔人と、不老不死になった人達を元の人間に戻せ」」




 そう強く願った瞬間、頭の中にまたあの声が聞こえた




 ―――この願いを発動すると、代償が発生します。




 その声を聴いた瞬間、俺はまたある事を思い出した。

 実は俺、この声をつい最近も聞いた事があった。

 そう、あの夢で――――

 その瞬間周囲の景色の色が失われ、俺やシルヴィも含めた全ての生き物の動きがピタリと止まった。

 そして、俺のすぐ目の前に3本の長い尾羽を生やした鷲に似た炎の様に真っ赤な大きな鳥が現れた。

 そう、代償が発生するぞと警告してくれていたのは、俺に恩恵を与えた星獣・フェニックスであった。


「ようやく思い出したのか。余程あの夢の衝撃が強すぎたのだな」

「仕方ないよ」


 声を発していないのに、頭で考えただけで言葉が響いた。




「梶原麻美が、大好きだった女の子を奪われるのが、お前の心に深い傷となって残ってしまい、今愛している彼女を奪われるのが耐えられなかったのだな」




「そうだな。当時はただ、梶原が俺を裏切って石澤に就いた事に納得がいかず、その上で共謀して俺を陥れた事に対して激しい怒りを抱いていた」




「後から彼女も、石澤玲人の犠牲者だったと気付いても尚、彼女を許す事が出来なかった。かつて好きだった女が、他の男に略奪された時のショックが大きかったせいで」




「そうだよ!梶原も被害者だって気付いた後も、その時のショックが強すぎたせいで俺は梶原を許す事が出来なかった!だから、シルヴィまで石澤に奪われるかもと思うと!」




「梶原麻美の時よりも強い恋慕を抱いていただけに、彼女が奪われるのが耐えられなかったのか。そのせいで、私の忠告が頭に残らなかったなんてショックだな」




「うるさい!」




「そんなに怒らないでくれ。今は、お前に強いトラウマを植え付けた元凶に引導を渡す事が出来るのだ。ただ、それを行うには君も含めて6人に大きすぎる代償を払う事になってしまうだから、最終確認の為に警告も兼ねて訪ねているんだ。私達とて、聖剣士に苦痛を味わって欲しくないからな」




「私達って、他の恩恵でも強すぎる力を引き出すのに代償を払わないと言うのか?」




「ああ。亀の聖剣士には肉体的苦痛が伴い、獅子の聖剣士には起き上がる事もままならい程の激しい疲労感に襲われ、ユニコーンの聖剣士には異性に対する関心が無くなる。そして、ドラゴンの聖剣士には立っているのも辛いほどの激しい頭痛に苛まれるという代償が発生する。まぁ、亀とドラゴンの聖剣士の代償は恩恵を使っている間だけだから、継続的に続かないのが救いと言えば救いかもな」




「激しい頭痛って、まさか!?」




「そうさ。ドラゴンの聖剣士に与えられる恩恵、『戦況図』は見る範囲が広ければ広い程激しい頭痛に襲われるのです。まぁ、それでも旧キリュシュラインの3分の1くらいの広さなら代償なしで見る事が出来ます」




「だが、今回は規模が違う。この世界全体を見ているのだから、麗斗とエレナ様は確実に激しい頭痛に襲われているというのか!?」




「そうなります。この星はあなたがかつて住んでいた地球と同程度の大きさですが、あの2人が味わっている頭痛はかなりのものだと思う」




「そうか。だったら尚更、この願いを発動させないといけない。秋野とアレン、麗斗とエレナ様がそれだけの苦痛を味わっているというのに、俺達が自分の代償を恐れて使い渋る訳にはいかない」




「本当に使うのか?確かに、亀の聖剣士に選ばれた彼女がこの世界に召喚される事が決まった理由は、あなたに代償を支払わせないようにさせる為だけど、それでも完璧とは言い難いです。あなたの恩恵が発動している最中に気絶してしまう可能性だってある」




「それでも俺は、秋野を信じる。あいつの覚悟を信じる」




「……そうか。ならもう止めない。一瞬でも揺らぐな。強く願い続けろ」




 そう最後に言い残し、フェニックスは目の前からスッと消え、俺の意識は現実に引き戻された。


「シルヴィ!」

「えぇ!」




「「願う!」」




 俺とシルヴィがそう強く願った瞬間、俺とシルヴィの全身から北方でも見たあの赤い光が周囲に広がっていった。


「何だこの赤い光は!?身体から力が!?」


 真っ先に赤い光を浴びた石澤は、自分の身体から力が抜けていくのを感じ、最後の抵抗で前に進もうとするも赤い光に押し返されて進めないでいた。


「何ですかこれ!?想像以上です!」

「でも負けない!楠木君はたくさん苦しい思いをしてきた!こんな苦痛ごときで、負けてたまるかぁあ!」


 俺とシルヴィの後ろでは、想像以上の苦痛に秋野とアレンが苦しんでいて、口や鼻だけでなく目からも血の涙が流れていてかなり苦しそうであった。

 遠くで指揮を執っている麗斗とエレナ様も、襲い来る頭痛によって膝を付いていて、今にも気絶しそうになっていた。だが、そんな激しい頭痛に襲われても2人は必死に耐えて秋野に情報を送り続けていた。

 2人が味わっている苦痛は想像を絶するが、そんな2人を見ると益々揺らぐ訳にはいかない。

こんな苦しい思いをしてまで、俺とシルヴィの代償による被害を抑えてくれているのだ。

 そんな4人の思いに応える為にも、絶対に迷ってはいけない!


「シルヴィ!」

「えぇ!感じる!魔人に変えられた人達が、皆元に戻り始めている!」

「石澤によって薬物投与された女性達も、薬の効果が消えて人間に戻り出している!」


 彼等は魔王の影響がそれほど強くなかったお陰か、わりかし早く人間に戻りつつあった。石澤によって奪われてしまった生殖能力も、無事に戻っていた。

 対して、魔王の影響を強く受けた石澤だけが人間に戻るのに時間が掛かっていた。




「やめろやめろやめろ!せっかく完璧な肉体と完璧な力を手に入れたんだ!この力を使って、俺が理想とした完全かつ完璧な世界を創造してあげようとしているのに!それなのにどうして!どうしてお前等はいちいち邪魔をするんだ!せっかく不幸のどん底にあった彼女達を救い出したのに、お前等のせいでまた彼女達が地獄に逆戻りされようとしてんだぞ!なのに何で邪魔するんだ!神であるこの俺に逆らって許されると思ってんのか!」




 何が完璧且つ理想の世界だ!?

 自分の欲望を叶える為に大勢の人の人生を弄び、お前の性欲を満たす為だけに1万人を超える女性を洗脳して、それの何処が完璧且つ理想的な世界なのだ?


「お前は神なんかじゃない!周りの大人達の欲望を満たす為に利用され、その対価として自分が望むものを全て与えられ、人として真っ当な人生を歩む事が出来なかった憐れな男だ!」

「そこに魔王やこの国の馬鹿王や姫まで加わったもんだから、お前は益々取り返しのつかない方へと進んでいった!地獄に落ちたいのならお前1人で落ちろ!関係ない人達を巻き込むな!」


 確かに、お前も被害者なのかもしれない。

 しかし、お前は人として踏み込んではいけない一線をたくさん超えてきた。そうなるともうお前は、被害者ではなく加害者になってしまう。

 それなのに、目の前でもがいている馬鹿はそれを認めようとしていなかった。




「嫌だ嫌だ嫌だ!認めない!こんなの絶対に認めない!この世界が俺を否定するなんて、そんな事は絶対にない!だって世界は、全てこの俺の為に存在しているのだから!それを否定するお前等こそが悪で、この俺こそが正義なんだよ!何でそれが分かんないんだよ!」




 本当に憐れな男だ。

 醜い姿になってまで己の欲望を叶える事しか考えず、その為なら多くの人の人生を踏みにじる事も厭わない。

 そんな石澤(お前)はもう人間ではない。

 全ての元凶である魔王以上に、最悪な魔王だ。


「今からお前は人間に戻り、俺とシルヴィの事なんて忘れるだろう。けれど、だからと言ってお前が犯した罪が消える訳ではない。俺は絶対にお前を許さない。シルヴィも、秋野も、アレンも、麗斗も、エレナ様も、上代も、桜様も、椿も、マリアも、この世界にいる人全員がお前の事を許さない」


 俺とシルヴィは最後の力を振り絞り、石澤の中にある魔王の力と魔人化の薬を全て取り除き、巨大な魔人と化した石澤の身体はみるみるうちに元の人間の姿へと戻っていった。


「俺の世界が……完璧な理想郷が………………消えていく……」


 力が無くなった事を認識し、自分が求めていた世界が無くなっていくのを知り、涙を流しながら背中から倒れる石澤。




『ようやく終わった……2000年もの間、本当に申し訳なかった。私達はこれから地獄に落ちて、地獄の業火で永遠の苦痛を味わうだろう』




 石澤が人間に戻ると同時に、魔王も穏やかな声を発しながら自ら消滅していった。

 それと同時に赤い光は消えていき、秋野とアレンがバタンと倒れた。


「秋野!アレン!」

「私達に構うな!」

「まだ、終わっていません!」


 すぐに駆け寄ろうとする俺を、秋野とアレンが強い口調で制止させた。口や鼻、目からだけでなく、全身の至る所から血を流していて、その姿はとても痛々しかった。


「竜次」

「分かってる。2人の言う通り。まだ終わっていない」


 秋野とアレンの所に駆け寄りたい気持ちを抑え、俺はシルヴィに手を引かれながら石澤の元へと歩み寄った。

 真横に着くと同時に、石澤がゆっくりと目を覚まし、視線をシルヴィの方へと向けた。俺なんて目もくれず。


「美しい……なんて綺麗なんだ……まるで美の女神だ!こんな美しい女性は、今まで見たことが無い!俺と結婚してくれ!きっと君は、俺と結ばれる為だけに生まれてきたに違いない!」


 完全に忘れてしまっているせいで、石澤はシルヴィを見るなりいきなり口説き始めた。

 記憶が無くなっても、やる事は結局変わらないのか。


「本当に救いようがないな」

「えぇ。まったくよ」


 そんな石澤を見かねた俺とシルヴィは、ほぼ同時に石澤の胸に聖剣とファインザーを突き刺した。


「ガハッ!…………何で……どうしてなんだぁあああああああ!」


 顔を歪ませ、断末魔を上げる石澤。

 大勢の人間を、特に女性の人生を滅茶苦茶にした男は性懲りもなく美人の女を口説き、自分の女になるように言って来た。

 人間に戻っても、結局やる事は変わらないのか。

 石澤が完全に絶命したのを確認し、俺とシルヴィは勢いよく聖剣とファインザーを引き抜いて鞘に納めた。

 そして、大急ぎで秋野とアレンの所へと駆け寄った。


「秋野!アレン!」


 近くに駆け寄ると、2人の身体はピクリとも動かず呼吸も


「ちょっと……勝手に殺さないでよ」

「まだ、死んでません」


 生きていた。


「良かった……」

「えぇ……」


 2人が生きているのを確認し、安心から一気に脱力した俺とシルヴィはその場に座り込んだ。


「皆守り抜く事が出来た」

「流石に、あの男に占領された国にいた人達は無理でしたけど」

「それでも助かった。ありがとう」

「魔人にされた人達や、薬物を投与された人達の身体を元に戻したのだから、仕方ないわ」


 シルヴィの言う通り。そういう人達から、俺とシルヴィの記憶が無くなってしまうのは仕方がない事だ。

 それに、そんなに関わりが深い訳ではなかったので、記憶が無くなっても特に影響はない。


「ようやく終わったわね……」

「ああ……」


 多くの犠牲を出してしまったが、ようやく魔人騒動を終結させる事が出来た。





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