表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

84/90

84 ドラゴンの聖剣士 風間麗斗




 ~キリュシュライン・石澤の城~




「ところで玲人様」

「何だ?」


 フェリスフィアと同盟を結んでいる国の制圧に失敗し、新しく婚約者として引き入れたアンナと共に自分の城に戻った日の夜。

 1年前に一緒にこの世界に転移したクラスメイトの女子から、本当に今更感満載の疑問を投げかけられた。


「玲人様の御名前は、何故『れいじ』と読むのですか?普通は『れいと』と読みませんか?」

「本当に今更な質問だけど、まぁいいよ」


 本当に今更な疑問ではあったが、別に聞かれても困るような内容でもないので俺は答える事にした。


「失踪した母の兄の名前を漢字と読みを変えて付けられたんだ」

「玲人様のお母様のお兄さん?」

「ああ。確か、(かざ)()(れい)()だったな」


 母から聞いた話だが、今は疎遠になってしまっている風間家はとても大きな会社を代々経営していたらしく、母方の祖父はその会社の代表をしていた。

 だけど、そんな格式高い家柄のせいなのか世間体と学歴と成績をかなり気にしていて、母曰く小さい事からかなり厳しい英才教育を強要されていたらしい。祖父もまたかなりエリート意識が高く、自分の身うちの人間にはそれに見合う輝かしい実績と学歴を持った、いわゆる完璧超人でなければ駄目だと言う考え方をしていた。

 そのせいか、ちょっとしたミスであっても、祖父は大激怒し絶対に許さなかったという。例えそれが、入社したての新人であっても。

 曰く、「失敗する奴は、人間として最底辺の存在だ。偉大で完璧な私の身内なら、敗北も失敗も何一つ経験したことが無い完璧且つ優秀な本物のエリートでなければいけない」、という信条を持っていたという。その為、祖父の会社ではどんなに小さくてもたった1回ミスをしただけで即刻クビになるのだと言う。

 そのせいか、母が父と共に犯した過去に経験したたった1回の失敗が祖父にとってはどうしても許せなかったらしく、理不尽に罵声を浴びせた後に絶縁宣言までしてきたくらいだ。まぁ、その失敗の内容が、父がパワハラで訴えられたというもので、母は巻き添えを食らっただけだ。

 そんな中、母の2つ上のお兄さんの麗斗は勉強とスポーツにおいても母はおろか、父でさえ凌駕する程の優秀な人間で、祖父にとっては何よりの自慢であった。

 そんな麗斗が、ある日突然失踪し、今も行方が分からなくなったという。


「そんな事があったのですね」

「ああ」


 そんな麗斗を、父と母はとても慕っていて、俺にそんな兄の名前の感じを変え、更には読みも一文字変えて俺のこの名前、「玲人(れいじ)」となったのだ。


「あんなクソジジイに育てられたせいか、母さんもかなりエリート意識が高く、いろんな英才教育をされた」


 そんな母も、失踪した兄に匹敵する才能を持っていた。それ故に、父が犯したたった1回の失敗に祖父は納得がいかず、俺の両親は絶縁された後も過去の栄光を捨てる事が出来ずにすがり続けた。

 結局は、蛙の子は蛙という訳だ。


「そうなんですね。それで今でも、母方の祖父との縁は?」

「切れたままだ。と言うか、もう二度と会う事もない。なんせ祖父は今、刑務所に入れられているからな」


 祖父の会社は、一言で言うのなら祖父の我儘と独り善がりが凝縮されたような環境で、全員が高い実績に縋り、失敗をしないようにとピリピリとしていた。しかも、全員のエリート意識が高くかなり傲慢でプライドの高い性格をしていた為、パワハラなんて日常茶飯事であった。

 そんな職場環境で新人が育つわけもなく、しかも今では犯罪になっている体罰も平気で行うのだから問題にならない訳もなく、クビにされた元部下からの告発によって祖父は10年前に呆気なく逮捕された。

 それと同時に、数々のパワハラが露見した事により重い罪に科せられた。

 当たり前だが、祖父が経営した会社は倒産し、取引していた会社に買収されてしまった。

 先祖代々から続いた会社を乗っ取られ、自分がこれまで掲げてきた信念を根底から否定され、更には自分を守ってくれると思っていた家族や部下からも見放された時の祖父のあの顔は、今でも鮮明に覚えている。


「ニュースで見た映像ではあったが、みっともなく喚き散らし、自分は何も間違っていないと必死に主張するあのジジイの顔はとにかく惨めで、俺も両親も笑いが止まらなかったぜ」

「それはいい気味ですね」

「ああ」


 刑務所に入れられ、しかも取り付く島もないまま裁判で有罪判決まで下された所でようやく、自分の今までの考え方が間違っていた事、自分の理念が歪んでいたのだという事に気付いたのだ。本物の大馬鹿者だ。


(全てを失い、絶望のどん底に落ちてからじゃないと自らの過ちに気付かないなんて、あのクソジジイこそが本当の無能だったのだとあの時思い知ったさ)


 まぁ、あのジジイが完璧超人な訳が最初からなかったんだけどな。

 何せ、本物の完璧超人と言うのはこの俺の事を指しているのだから。




 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 




 ジオルグに侵攻してきた魔人達を退け、皆でジオルグ城に戻るとすぐに麗斗への質問攻めが始まった。


「上代から、麗斗の名字が石澤の母親の旧姓だって言うけど、どう思うんだ?」

「事実だと思います。あの男の顔立ちが、何処どなく(うらら)に似ていますので」

「うらら?」

「石澤の母親の名だ」

「へぇ」


 3年間石澤の事を調べていたから当たり前だが、上代もやはり知っていたか。

 麗斗も納得した感じで頷いていた。


「やはりそうですか。顔だけでなく、性格も麗の悪い部分ばかりがそっくりでした。独り善がりで、絶対に間違いを認めようとしない所が特に似ています」

「最悪だな」


 本当に母親の悪い所ばかりが受け継がれたな。

 その上、父親も過去の栄光を忘れる事が出来ずにそれに縋る事しか出来ない奴だったな。

 よくよく考えると、石澤はとんでもない両親に育てられたんだな。


「そうですか。麗はあの男と結婚したんですね。まぁ、納得ではありますが」


 上代から石澤の両親の事を聞いた麗斗は、苦虫を食い潰したような顔をしていたが、すぐに納得いったみたいだった。


「あの男は勉強もスポーツも得意で、人望も厚い人だった。でも、その代りアイツは自分より下の人間を見下して、陰湿な虐めを何度も繰り返しては不登校にさせて優越感に浸るようなクズだった。私は何度も麗にあの男と関わるなと言ったけど、麗はあの男と関わる事をやめなかった。麗と似た様な性格をしていたから、気が合ったのかもしれません」


 随分と困った顔をしているな麗斗。

 だけど、石澤と麗斗は全然違っていた。

 石澤は、自分の欲望や願望を満たす為ならどんな手段も厭わず、石澤の父親がしている様な相手の陥れる様な行為も平気で行うクズだ。もろに悪い大人達の悪影響を受けている。

 対して麗斗は、謙虚で自分の能力を鼻にかける事もなく、相手を思いやる気持ちを持ち合わせていた。おそらく、父親が反面教師になっていて、悪い大人達の悪影響を受けなかったのだろう。

 その後麗斗は、この世界に召喚される前までの話をしてくれた。

 当時高校3年生だった麗斗は父親の過度で異常な英才教育を受けながら、学業に励む優等生であった。


「私の父、玲人の祖父はとにかくプライドが高く、エリート意識も非常に高い人でした。それ故に、失敗とミスを何よりも嫌い、どんなに小さなものでも1回ミスや失敗を行っただけで即切り捨てると言う人格破綻者でした」

「間違いない。10年ほど前にそれが大々的に取り上げられ、会長と社長が逮捕されとニュースになったのを覚えている」

「それなら私も知っている。確かに、会長の名字が風間だった」


 上代と秋野の話を聞いて、俺もそのニュースを思い出した。

 確か、部下に無茶なノルマと仕事量を強要し、たった1回失敗しただけ罵声と暴力による制裁を行い、その場でクビにさせると言う経営方針が問題になったという。

 秋野の言う様に会長の名字が風間で、やたらと自分の功績と学歴を鼻にかけ、逮捕されて連行されている間もそれを主張して逮捕されるなんておかしいだろとほざいていた。

 結局会社は倒産し、パワハラを行っていた当時の従業員たちはその後も再就職先も見つからず、10年経った今も無職なんだって聞いた。

 会長と社長は、その後裁判で有罪判決が下り、判決が下った直後の会長は意気消沈した様子だったと聞いた。


「まったく!あれ程やめるように言ったのに、結局逮捕されるまで続けていたなんて!」


 麗斗は、そんな父親に今の経営方針を改善するように何度も進言したが、肝心の父親はそんな麗斗の言う事に耳を傾けようとはしなかった。


「父はとにかく、全てにおいて完璧を求めるような人で、失敗をする人は皆底辺な奴だと口癖のように言っていた人でした」

「まるで鹿島みたいな奴だな」


 鹿島もまた、何かしらの才能を持たない人間を徹底的に見下すような奴で、多くの生徒や保護者から嫌われていた。

 ただ、鹿島と決定的に違うのは、会長はちゃんと自分で努力を積んでのし上がってきたと聞いた。その際に、失敗や挫折を一度も経験してこなかったのは、もはや奇跡に近かった。俺が奇跡だなんて言えた事ではないが。

 対して鹿島は、才能こそあったが周りの大人達に甘やかされてきた為に失敗や挫折を経験したことが無いのであって、決して本人の努力によるものではない。本人は努力の賜物だと思い込んでいたが。


「そんな性格をしていましたから、自分の下に就く人間にはそれに見合った完璧且つ輝かしい実績と学歴を持ったエリートでなければいけないといつも言っていました」

「うわぁ……最悪だ」


 当然の事ながら、そんな人間が経営する会社が上手くいくはずもなく、会長と社長の逮捕と同時に会社の倒産という最悪な事態を招く結果となった。


「妹の麗は、そんな父の英才教育の影響を強く受けていて、常に周りを見下すような態度ばかりを取っていました」

「確かに、石澤は母親も常に他人を見下しては暴言ばかりを吐くようなクズだったな」

「うわぁ……」


 最悪だ。

 母方の祖父母とは絶縁状態とは言え、そんな人間のクズばかりが周りにいるような状態で、しかも父親までもクズという家庭環境で育った石澤がまともな人間になる訳がない。

 そんな中、麗斗がまともに育ったのが本当に奇跡だ。本当にしつこいが、俺が言うなってんだ。


「そんな父を黙らせるには、高い実績と高学歴が必要だったので、私は死にもの狂いで勉学に励みました。けれど、学校から帰る途中で魔法陣のような物が足下に広がり、この世界に召喚されたのです」


 それから先は、ドラゴンの聖剣士として選ばれ、この世界を救う事が出来れば元の世界へと戻る事が出来ると言う希望を抱き、魔人と戦う事を決意して聖剣を受け取った。

 だが、その直後にキリュシュラインが攻め込んできた事により麗斗は咄嗟に聖剣の自分の身体の中へと隠し、更に王妃様によって記憶を封印されてから王都の外へと避難された。


「元の世界に戻る方法があったのか?」

「はい。だけど、それが出来るのは召喚に携わった国の姫だけです。それも、ちゃんと正規の手順を踏んだ上で行われた召喚だったらです。ですが、国が滅び、王族全員が殺された今、私はもう二度と日本に帰る事が出来なくなりました」

「そうか」


 という事は、今回召喚された聖剣士5人と、巻き込まれて召喚された人全員は、正規の手順を踏んでいない強引な召喚だったから元の世界に帰る事が出来ないという事か。


「ま、麗斗が帰った所であの会長が考え方を改めるとも思えない。有罪判決が下るまで、自分は何も間違った事はしていないと強く主張するような奴だったから、説得程度じゃ何も変わらなかったと思うぞ」

「そうですね。上代殿のおっしゃる通り、父が逮捕されたという話を聞いて私もそう思います」


 なんてまともな人間なんだろう。とてもあの石澤の親族(になる予定だった)とは思えないぞ。


「けれど、どうして急に記憶が戻ったんだ?」

「エレナ様のお陰です。記憶が戻る方法は、私が心の底から自分のパートナーと手を取り合い、守っていきたいと強く思った時に戻る様になっているのです」

「パートナー、ねぇ……」


 パートナーと聞いて、シルヴィが訝しげな視線をエレナ様に向けた。


「あんたもしかして、最初から麗斗がドラゴンの聖剣士だって事を知ってたの?」

「もちろんです。将来の伴侶となる聖剣士様です。忘れる訳がありません。シルヴィア様やアレン様だってそうですよね?夢で何度もお会いしませんでしたか?」

「「ううぅ……」」


 そう指摘されてシルヴィとアレンは、何も言い返す事が出来なかった。

 という事は、エレナ様も夢で麗斗に会っていたのか。


「だけど、知ってたのなら何でずっと黙ってたんだ?」

「そうよ、せめて私達には話しても良かったんじゃないの」


 俺とシルヴィの質問に、エレナ様は毅然とした態度で答えた。


「レイトを守る為です。キリュシュラインの諜報員が何時何処で聞いているのかも分かりませんし、3年後にあなた方が召喚されても、楠木様以外はキリュシュラインに就いていました。なので、レイトの安全を考えて黙っている事に致しました」

「その割には、三大王女の一人に選ばれたあのパーティー会場で、お仕えの執事でしかなかったレイトと結婚するなんて大々的に宣言したわね」

「私が愛しているのはレイトただ一人です。それだけは譲る事は出来ません。シルヴィア様だってそうではありませんか」

「……まぁね」


 それ以上何も言い返せないシルヴィは、気まずそうにエレナ様から視線を逸らした。

 確かに、俺のパートナーになった事で他の男を寄せ付けず、それどころか突っぱねる様な態度を取ってきたシルヴィが言えた事ではない。

 つまり、麗斗を守る為にずっと黙っていたと言うのか。例え、母親である女王や姉のマリアであっても、麗斗の事は話さないようにしたのか。


「つまり、私はずっとエレナ様に守られていたという訳ですか」

「もうレイトってば、『様』はいりません。記憶が戻り、聖剣士として覚醒した今は対等な立場なのですから」


 嬉しそうに言うエレナ様だが、3年間で染みついた習慣が抜けられない麗斗はどうしても「エレナ様」と呼んでしまうし、執事としての口調が抜けきれないみたいだ。


「ちょっといいかしら」

「何でしょうか?」


 少し控え目に手を挙げたシェーラが、麗斗に質問をしてきた。


「あなたは、石澤玲人が次に現れる場所が正確に分かったみたいですけど、それもドラゴンの聖剣士に与えられた恩恵の力なのかしら?」

「いいえ。あぁいう男の考えそうなこと、次に現れる所なんて手に取るように分かります。そして、現れてすぐに一緒にいた女性に武器を向ければ、その女性の安全を優先して戦闘を避けて逃亡します。男というのは幼稚で見栄っ張りな生き物ですから、女性の前では尤もらしい理由を付けてやたらと格好を付けたがるものなのです」

「「「「あはははは……」」」」


 麗斗の最後の言葉に、俺と他の男性陣が乾いた笑みを浮かべながら視線を逸らした。

 確かに、女性の方が男性よりも精神的に成熟していると聞くけど……。


「そんな訳ですから、あんな男の次の行動は恩恵なんて使わなくても丸分かりなのです」

「それは分かったから、ドラゴンの聖剣士に与えられる本当の恩恵は何なのか教えてくれてもいいのでは」

「国際指名手配犯の質問に答えるのは癪ですが、お答えいたしましょう。ドラゴンの聖剣士に与えられる恩恵は、『戦況図』です。敵と味方の動きが、上から見えているみたいに頭の中に送り込まれる恩恵です」

「それって、自軍と敵軍の行動を上から見る恩恵なの?」

「はい。例え敵が建物の中にいようが、地面に潜っていていようが、水中に潜んでいようとも正確に分かりますし、罠の位置も映し出されます」


 何それ!?

 それだと敵が何をしようが、全てが上から見えているから筒抜け状態になっていると言うのか!?奇襲も不意打ちも全て見抜かれる上に、罠の位置もバレているから意味もなさない。

 まさに、将である麗斗に持ってこいの恩恵だ。


「更に、その副次効果として膨大な知識も与えられます。地球とこの世界の知識だけでなく、現在過去未来あらゆる時代の情報が頭の中に入ってくるのです。なので、ファランクスの陣形を思いつく事も出来ましたし、弩の開発も思いつく事が出来たのです」


 戦況が見える上に、そんなに膨大な知識まで得られるなんて反則過ぎる恩恵だ。

 …………ん?


「副次効果?」

  

 聞き慣れない言葉に、俺は思わず聞き返してしまった。


「副次効果と言うのは、恩恵と一緒に与えられるもう一つの恩恵のようなものです。分かりやすく言えば、新商品を購入する際にレジで一緒に貰える試作品を初めとしたおまけの様なものです。楠木殿の『不老不死』も、恩恵『奇跡』の副次効果なのです」


 なるほど。俺とシルヴィが死なない身体になったのは、恩恵を与えられると同時に得たもう一つの恩恵の事だったのか。確かに、最初に女王が行っていた様に恩恵の一部ではあるな。

 しかし、それはあくまでもおまけの様なものなので恩恵程強い力がある訳ではない。

 ちなみに、獅子の聖剣士の副次効果は「鋭い嗅覚」で危険を察知する際に役に立つ。だから上代はすぐに、キリュシュラインが危険な国だという事に気付く事が出来た。

 亀の聖剣士の副次効果は「審美眼」で、微かな違いから相手の嘘や間違いを見抜くもので、イルミドで見た俺とシルヴィのやり取りを見て石澤に嘘に気付いたのもそのお陰なのだと言う。

 ユニコーンの聖剣士の副次効果は「無限の体力」で、最大で1ヶ月間走り続けても付かれる事もなく、身体にも何の悪影響も与えないのだと言う。


「恩恵の影響だとは思っていたけど、まさかおまけで与えられる副次効果だったなんて」

「私は審美眼に感謝。お陰で石澤の卑劣さに気付く事が出来た」

「あたしはそんなに実感が無かったわ」


 麗斗の話を聞いて、上代と秋野は自分の副次効果に感謝し、前から体力馬鹿だった犬坂はあまり実感がない様子であった。


「さて、そろそろ私達はフェリスフィアに戻って準備をしなくてはいけません。あの男は1週間後に、全力でフェリスフィアを潰す為にキリュシュライン領にいる男全てを魔人に変えて、更に取り込んだ国に住んでいた男全員も魔人に変えて同盟国を攻め落とす気です」

「1週間後って、短すぎるぞ!?」


 そんな短期間でたくさんの人達を魔人に変えるなんて、石澤は魔人に変えられた人達の事を何だと思っているんだ!しかも、全員が男って!


「まったく、妹の息子がこんなクズに育ってしまうなんて、情けない限りです」

「石澤が生まれる前にこの世界に召喚されたんですから、認知していないので実質他人です」


 無理なこじつけなのは分かっているが、あんな男が麗斗の親族だなんて絶対に間違っている。いくら周りに悪い大人しかいなかった影響とはいえ、あそこまで歪み切ってしまってはもう人間として見る事なんて出来ない。


「時間がありませんので、すぐに戻って準備に入った方が良いです。あの男が動き出す前に、こちらが攻め込むまでです。幸い、まだキリュシュラインの王と周辺の町に住んでいる男性だけですので、まだ少ないうちに攻め込みに行きます」

「早いうちに叩こうと言うのね。で、何時行くのかしら?期間によっては、私が与えられる情報も変わってくるわ」

「犯罪者であるシェーラの手を借りるのは不本意ですが、この際目を瞑りましょう。3日、いえ、2日後に攻めます」

「分かった。それまでに、有力な情報を集めておくわ」

「助かります。場所に着いては」

「それは問題ないわ。私の魔法を使えば、どんな場所におようとすぐに分かっちゃうから」


 そう言えば、大気から情報を得る魔法が使えるんだったな。その魔法のお陰で、相手が何処にいてもすぐに転移石を使って転移する事が出来るのか。


「大丈夫なのですか?レイリィの化石にも限りがありますし、ましてや―――」

「レイリィの化石って、どういう事?」

「転移石の事です。実はあれ、レイリィの化石から出来ているのです」

『ええええええええええええええ!?』


 その驚愕の事実に、俺達は一斉に声を上げてしまった。しかも、ハモっていた。

 なるほど。転移能力を持ったレイリィの化石にも、僅かながら転移能力が宿っていて、それを砕く事で自分がイメージした場所に転移できるという訳か。

 だから数が少なく、北方では全く採れないのだな。レイリィ自体数が少なく、しかも寒いのが苦手だから。


「そんな事よりも、私達は早く戻らないといけません。モタモタしていると、取り込まれた国の男性全員が魔人に変えられてしまいます」

「分かってる。シルヴィ」

「うん。レイリィには、こっちに戻ってくるように伝えた。すぐに来るわ」


 その次の瞬間、レイリィが俺達の前にスゥッと現れた。どうやら、同盟国の代表達を無事にフェリスフィアへと避難させる事が出来たみたいだ。


「行こう」

『うん』

「私はもう少しここに残って情報を集めるわ。決戦当日にそっちに行くから」

「分かったわ。レイリィ、お願い」


 シルヴィが指示を出すと、レイリィはシェーラ以外全員をフェリスフィア城へと転移させた。

 着いてすぐに俺達は、各自キリュシュラインへと攻め込む為の準備に取り掛かった。

 これ以上、石澤と魔王の好きにさせない為、そして石澤を討つために。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ