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74 キリュシュライン侵攻 4  悲しき別れ

 呼んだ20人の魔人は、いずれも女性の姿をしていて、それぞれが剣と魔法を使って俺達に襲い掛かってきた。

 魔人に変貌してしまっても、見ただけですぐに分かるくらいに容姿のレベルが高かった事から、20人とも石澤と婚約させられていた女性達であると思われる。石澤の城にいる人間からも全体のおよそ7割が魔人になり、こちらに向かっていた事に気付いていたのでもしやと思った。


「ヘレナ、アナベラ、リア、メル、サティまで!皆俺の大切な婚約者達じゃないか!?」


 石澤の発言から、全員が石澤と婚約させられた女性達である事が確信した。


「皆止めてくれ!俺の言葉が分からないのか!」


 敵陣に突っ込む前に石澤が急に立ち止まり、彼女達の説得を試みた。

 俺達も、そんな石澤に釣られて止まってしまった。


「あんたあの男の事知ってる?」

「知ってる訳がないでしょ」

「卑しい人間に知り合いなんている訳ないでしょ」

「そんな事よりも、早く人間狩りを始めましょうよ!」

「そうね。あの御方のご命令とあれば、楽しく人間狩りをしなければ!」


 もはや石澤の事なんて欠片も覚えていない。

 どうやら、主の命令のみに従って人間狩りを楽しんでいるのだと言うのが分かった。

 おそらく、今まで戦ってきた魔人もそうなのであろう。


「そんな!?俺だよ!忘れてしまったのかよ!」


 それでも諦めきれない石澤だが、もう人間に戻せない以上取るべき手段は一つしかない。

 まだ説得をする石澤を無視して、魔人達は楽しそうに笑いながらそれぞれ武器を手に再び走り出した。


「無理だ。魔人に変えられてしまうと、理性は無くなり、殺戮だけを好む怪物になってしまう。そうなるともう石澤の声なんてもう届かない」

「そんな……」


 残酷な事を言っているのは分かっているが、今まで戦ってきた魔人がそうであるように、変貌してしまった今は人間だった頃の記憶は完全に無くなり、黒ローブの男、もしくはクズ王の命令のみに従う様になる。

 その証拠に、今の彼女達は石澤の事なんか忘れて敵を排除すると言う本能のみで俺達に襲い掛かってきている。意志や感情はあっても、人間と手を取り合おうなんて考えは欠片も持ち合わせなくなってしまう。


「楠木君!彼女達を元に戻す方法って無いの!?」

「そんな都合の良い方法なんて!」


 無い事は無いが、そんな事を願う暇などある訳がない。そんな事を言っている間も、魔人に変えられた女性達は俺達攻撃し続けていた。

 まぁ、元に戻す事は出来るけど、それを願うのは……。


「そんな物は無いわ!一度魔人に変えられると二度と元には戻れない!私達の手で殺す以外に助ける方法なんて無いわ!」

「そんな!?」


 ハッキリと無いと断言するシルヴィに、石澤が絶望した。それでも、魔人達の攻撃を巧みに躱していた。

 おそらく、代償を支払わせない為に嘘を言ったのだろうけど、俺とてこの状況で彼女達を人間に戻したいと強く願えない。ジオルグ王国で初めて使って以来、代償を支払う事に抵抗を感じるようになったのだ。

 それに今は戦いの最中。

 そんな事を強く願う余裕なんてない。

 だけど、今は石澤と犬坂もいるのだしあるいは。


『恩恵を使ってはいけません。代償を支払っても、楠木殿が後悔するだけです』


 出来るかもと考えていると、レイトからも止められてしまった。代償の事については、以前フェリスフィア城にて女王と2人の王女と共に話していた為、レイトも知っていた。予想していたが、レイトも女王とマリア、エレナ様と同じで代償を支払っての恩恵発動に反対していた。


『確かに、我々に何の不自由も無いのかもしれませんし、楠木殿とシルヴィア様の御命が無くなる訳ではありません。ですが、この世界にいる人全員から御2人の記憶が無くなってしまうのです。そんな残酷な代償を支払ってまで救って欲しいとは思いません。何があっても絶対に願ってはいけません』


 レイトにまで釘を刺された以上、石澤と犬坂には悪いが使う訳にはいかない。


「何ボォとしてんだ!戦いの最中だぞ!」

「ワリィ」


 石澤に注意されるなんて思わなかった。

 石澤や犬坂や王女には、レイトの指示は聞こえない。レイトが作った魔法によって、敵には聞こえないようにしてあるのだ。どうやら、レイトにとって今も3人は敵のままなのだろう。


「だったら楠木君の力で何とかしてよ!」

「そうよ!アンタの力は、奇跡を起こす為の恩恵でしょ!」


 その証拠に、犬坂と王女が俺にそんな事を言って来た。

 こんな時だけ俺に頼りやがって!

 犬坂と王女の態度に、俺はもう彼女達を元に戻してあげる気が完全に失せてしまった。


「無茶言うな!洗脳を解いたり、病気を治したりするのとは訳が違う!彼女達はもう人間には戻れないんだ!シルヴィだって言っただろ!こうなるともう、俺の恩恵を使って無理だ!」


 ハッキリと無理だと言った直後、俺は目の前で剣を振り上げてきた女の魔人の胴体を両断した。


「殺す以外に、彼女達を救う方法はないんだ!」

「楠木でもダメだなんて、最悪だ……!」


 魔人に変えられたとはいえ、目の前で自分が目を付けた女性が俺によって斬り殺される所を見て動揺を隠せないでいた。

 だが、代償を支払ってまで願う事が出来ない為、魔人に変えられた人達を人間に戻す事が出来ない。

 一応は戦う事は出来るみたいだが、魔人の正体を知ってしまった石澤と犬坂は攻撃する事を躊躇っていた。そんな状態で、この2人に任せて恩恵を発動させるなんて不安でしかない。王女の方は割り切っているみたいだが、それでも魔人に決定的な攻撃を与えられずにいた。

 こうなるともう、頼りになるのはシルヴィだけであった。


(クソ!1体でもかなり厄介なのに、俺とシルヴィだけで20人も倒さないといけないのに、石澤も犬坂も全然役に立たない!その上、クズ王がずっと右腕を上げっぱなしにしているせいなのか!?少数ずつではあるが、他の魔人共がどんどんこちらに向かって来ている!)


 本当の事を言うと俺だって皆を元に戻したいのだが、魔人を人間に戻すとなるとこの世界に住んでいる人全員から俺とシルヴィの記憶が無くなってしまう。俺達を支援してくれているほどんどの人が、そこまでして魔人を人間に戻す事を望んでおらず、絶対に使うなと釘を刺されている。

 その後何も無ければまだ良いが、今はまだ支払うべきではない気がしてならない。

 そんな予感がする。

 可哀想だけど、殺す以外に魔人に変えられた人達を救う方法が無い。

 そんな事を考えている間に、俺とシルヴィであっという間に半分以上倒す事が出来た。その間に石澤と犬坂は、ただ攻撃を避けているだけで全く攻撃できていなかった。

 が、クズ王が呼び続ける限りいくら減らしても、減らした分また増え続けていく。

 俺達は一旦魔人達から距離を取って、体勢を立て直した。

 ここまでの戦果は、俺とシルヴィでたくさん倒し、クソ王女も何とか数体倒す事が出来たみたいだが、肝心の石澤と犬坂は未だに動揺していて全然攻撃が出来ていなかった。

 特に石澤は、魔人に変えられた婚約者達と戦う事にまだ抵抗があった。


「いい加減に覚悟を決めろ!彼女達はもう人間に戻れないんだ!」

「それでも、何かしらの方法があるかもしれないだろ!」


 無理だとハッキリと言ったのに、それでもまだ諦めようとしていなかった。希望を捨てていないと言ったら立派だが、そんな方法が代償なしで存在するのなら俺だってとっくに使っている。


「そんな事を考えている場合じゃない!お前は彼女達をあの姿のまま一生過ごさせる気か!」

「ふざけんな!俺はただ元に戻す方法がもしかしたらあるかもしれないと!」


 何処までもヒーロー気取りでいる石澤に、俺は半ば腸が煮えくり返りそうになった。


「いい加減に割り切れ!そんな方法なんてない!」


 ここは、漫画やゲームの世界ではなく現実なんだ!

 本物の奇跡なんてもの起こりっこない!

 偶然が重なってたまたまそうなる事があり、それを奇跡と感じる事もあると思う。

 だが、あんな姿になってしまうと解剖しても元に戻せない!

 自分にも言い聞かせるように、俺は石澤に言った。


「だけど!」


 それでも諦めきれない石澤に王女が近づき、石澤の頬に平手打ちをした。


「エル!?」

「その男の言う通りです!二度と人間に戻れない以上、彼女達をあのままにしておく方が余程残酷ですし、そんな事は彼女達も望みません!愛美様もそうです!このまま放置すると、いずれこの国の住民全員、更には玲人様とご婚約された残りの女性達も全て魔人に変えられてしまうのです!」

「そんな……」

「そんなのって、あんまりだよ……」

「そうならない為にも、お父様と彼女達を殺すしかありません!それ以外に、彼女達を救う方法はありませんので!」


 予想もしていなかった人物からの援護射撃に驚くと、王女が俺とシルヴィを睨んで補足情報を加えた。


「言っておきますけど、アナタ方の肩を持つつもりなんてありません!ですが、今はこういう状況ですので仕方がありません!」

「さいで」


 ま、俺もこの女を信用する事なんて出来ないし、これを機に心を入れ替えてくれるなんて思っていない。


「……分かった」


 王女に叱咤され、犬坂は覚悟を決めたみたいで一人先に再び魔人に立ち向かい、今度は自分から攻撃を加えに行った。


「うわあああああああああ!」


 その際、犬坂は大きく叫びながら魔人の心臓を一突きにして着実に減らしていった。

 対して石澤は、未だに迷いが経ちきれないみたいで、弱々しく俺に尋ねてきた。


「なぁ、楠木。お前の恩恵を使って一度死んだ人間を生き返らせる事って出来ないのか?」

「無理だ。星獣と恩恵がそれを許さない、仮に出来たとしても生き返らせた人にどんな悪影響が出るのか想像もつかない」

「そうか……」


 一度死んだ人間を生き返らせる事は出来ないし、絶対にやってはならない最大の禁忌。どんなに科学が進んでも、それだけは踏み込むべきではないと思うし、星獣も許さないだろう。

 代償も怖いと言うのもあるが、やはり踏み込むべきではない。


「それ以外に方法が無いのかよ!」


 悔しそうにしながらも、石澤は魔人を倒していった。

 そんな石澤の背中を見送ると、クソ王女が近づいて俺に言って来た。


「アンタはお父様を倒してください。娘の私さえも騙したあの男を、もう許す事が出来ませんし、私自身も魔人に変えられるのは御免被ります」

「出来んのか?」

「アナタ方が行ってくださらないと、また更にたくさんの魔人がこちらに来ます。お父様を倒してください」

「本当に良いのか?」

「構いません。私が望んだものが最初から手に入らないと分かった以上、もうあんなのに協力する意味なんてありません。戦いが終わったら、斬首刑でも何でも受けます」


 以外とアッサリしているなと思ったが、気の色から嘘を付いている訳でもないみたいだ。

 俺は黙ってシルヴィに視線を向けると、彼女も無言で頷いた。

 確かに、クズ王は未だにずっと右腕を上げた状態のまま直立不動の姿勢を保っていて、それを見た他の魔人達が次々にこちらへと向かって来ている。

 早く止めないともっと苦しくなる。


「だったら任せた」

「逃げんじゃないわよ」

「こんな状況で逃げる程、私も愚かではありません。見くびらないでください」


 その言葉の後、クソ王女は石澤や犬坂と一緒に魔人に立ち向かっていった。

 そんな王女を見届けた後、俺とシルヴィはクズ王の所へと走って行った。

 だが、その直前に2人の女の魔人が俺とシルヴィの前に立ちはだかった。


「邪魔すんな!」

「退いて!」


 俺とシルヴィは同時に魔法を放とうとしたが、その前に茶髪ショートの女魔人が右手を上げて、虹色の粒子のような物を半径10メートル圏内に散布し、同時に見えない膜のような物が俺とシルヴィの全身を通り抜けた。


(この感覚……まさか!?)


 見えない膜を通り抜けた直後、放とうとしていた魔法が急に霧散して消滅した。


「魔法が、使えない!?」

「この感覚は、まさか封印魔法!?」


 指定された範囲内にいる全ての人間に、魔法を初めとした能力を1ヶ月もの間使えなくさせてしまう魔法で、俺とシルヴィもナサト王国でこの魔法を浴びてしまった事がある。それによって、実際に1ヶ月も恩恵や魔法を使う事が使えなくなってしまった。

 そして、その魔法を使える唯一の人間を俺は知っている。


「まさかお前……リーゼなのか!?」

「嘘!?リーゼなの!?」


 俺の言葉にシルヴィも驚くが、確かに先程封印魔法を使った女魔人の髪は茶髪のショートボブと、吊り上がった猫目と青色の瞳をしていた。リーゼの特徴と一致していた。

 更によく見ると、もう一人の女魔人の特徴を見ると、ルビアと同じ灰色の長い髪の毛をしていた。


「リーゼ、ルビア……」

「そんな……2人まで魔人にされたの……」


 信じられないかもしれないが、肌が紫色という所と、頭に角が生えているという除くと、髪の色と長さと顔立ちや瞳の色など紛れもなく2人の特徴と一致する。特に、茶髪の魔人の方は封印魔法を使ってきた為間違いようが無かった。


「あのヤロウ!よくもリーゼとルビアまで魔人に変えやがって!絶対に許せない!」


 魔人に変えた張本人は、大量の魔力を使い過ぎて息絶えてしまったが。それでも、俺とシルヴィの怒りは収まらなかった。

 同時に、魔人に変えさせられた2人をどうするかを悩んだ。

 そんな2人も、俺達の事を完全に忘れてしまったみたいで、ルビアは剣で、リーゼは拳で襲い掛かってきた。


「クソ!」

「戦うしかないの!」


 襲い掛かってきたリーゼとルビアに、俺とシルヴィはそれぞれ聖剣とファインザーで応戦した。

 封印魔法の影響で、俺とシルヴィだけでなく術者のリーゼと仲間のルビアも魔法を使えなくなったのが、救いと言えば救いかもしれない。魔法でリーゼに勝てるとは思えないから。

 しかし、2人とも魔人になった影響で身体能力が飛躍的に上がり、肉弾戦でもかなりの苦戦を強いられた。

 いや、違う!

 相手がリーゼとルビアだから、こちらからなかなか攻撃に転じる事が出来ないのだ!

 ある程度割り切っているシルヴィは、辛そうな顔をしているが心を鬼にしてルビアに攻撃を仕掛けていた。

 それに引き換え俺は!

 拳を連続で繰り出すリーゼに、俺は反撃する事が出来ずにただひたすら避ける事しか出来なかった!


(クソ!いい加減に認めろ!リーゼはもう人間には戻れないんだぞ!代償を支払ってまで戻しても、リーゼは絶対に喜んではくれない!)


 戻しても、俺の記憶がある訳でもないから何とも思わないかもしれないけど、ジオルグ王国にいた時に本人が言っていた。

 分かっているのに、どうして反撃しないんだ俺!

 覚悟を決めた筈なのに、何をやっているんだ!

 石澤に散々言っておいて、自分は一体何をやっているんだ!

 何時までも煮え切らない俺に、レイトが指示を出してきた。


『お気持ちは分かりますが、一思いに殺してあげてください。このまま魔人の姿のまま生かしても、代償を支払ってまで人間に戻しても、どちらにしてもリーゼロッテ様は望みません。確かに、リーゼロッテ様の記憶には残りませんし、楠木殿の事を覚えていらっしゃらないのでそんな事はどうでもよくなります。ですが、それを知った時にリーゼロッテ様が本当にそれを喜ばれると思いますか?リーゼロッテ様が、そういう人ではない事を楠木殿もご存知の筈です』


 確かに、リーゼは誰かを傷つけてまで望みを叶えようと考える様な人ではない。そういう人間である事は俺もよく知っている。


『ならばせめて、あなたの手で葬ってあげてください。それが、リーゼロッテ様の最後の望みの筈です。魔人全てを人間に戻す代わりに、あなたとシルヴィア様の記憶が無くなってしまう事を、リーゼロッテ様も含めて誰も望みません』


 そんなレイトの言葉を聞き、俺はリーゼと戦う意思を固めた。

 確かに、こんな姿のまま生かされてもリーゼが喜ぶはずもないし、代償を支払ってまで人間に戻しても同じだ。


(すまない!許してくれ!)


 覚悟を決めた俺は、聖剣でリーゼの両腕を斬り落とし、すぐにリーゼの左胸に聖剣を突き刺した。

 その際リーゼは柔らかく笑いかけ、俺の頬に手を添えてきた。


「これで良いんだ……あり……がとう…………」


 死ぬ直前になって記憶が戻ったのか、その言葉を最後にリーゼは俺にもたれかかるように倒れ、静かに息を引き取った。その顔は、とても穏やかであった。

 リーゼはそれで良かったかもしれないが、俺はこれ以上ないくらいに落ち込んでいた。


「すまない……リーゼ…………」


 俺がもっと早く助けに来ていれば!

 そもそも、石澤の傍にいればとりあえず大丈夫だと勝手に思い込んでいた!

 シェーラの頼み事なんて無視すれば良かった!

 封印魔法をかけられたからと言って、キリュシュラインに乗り込む事を躊躇ってしまった!

 それ以前に、キリュシュラインを敬遠してしまったのがそもそもの間違いだった!

 やりきれない後悔ばかりが頭をよぎる中、シルヴィはルビアとまだ戦っていた。彼女も何だかんだ言いつつも、いざ仲間が魔人に変えられるとトドメを刺す事を躊躇していた。

 そしてそれは、俺が後悔の念に苛まれている事で更に強くなってしまった。

 でも―――


「チキショウ!」


 意を決したシルヴィは、ルビアの心臓にファインザーを突き刺した。その時のシルヴィの表情がとても辛そうであった。


「ごめんなさい……!」


 辛そうなシルヴィに対し、ルビアはとても嬉しそうな顔をし、ファインザーが引き抜かれると同時に背中から倒れた。


「リーゼもルビアも、何でそんなに嬉しそうにするんだ……」

「たぶん、竜次が恩恵を使って戻さなかったからだと思う……」

「だけど……!」


 こんな形でリーゼやルビアと別れる事になるなんて!

 いくら2人が、俺達が代償を払う事を望んでいなかったとはいえ、やはり仲間を自分の手で殺めるのは想像以上に苦しかった。

 落ち込む俺にシルヴィが近づき、そっと背中をさすってくれた。


「竜次は悪くない。こうなる大元の原因を作ったのはアイツなんだから」


 そのアイツが誰の事を指しているのかすぐに分かったが、今は恨み言を言っている場合ではない。


「さっさとあのクズ王を倒すぞ」

「えぇ。右腕を下ろさせるだけでも全然違うだろうし」

「行くぞ!」


 俺とシルヴィは、未だに右腕を上げたまま直立不動を保っているクズ王の所へと駆けていった。リーゼの封印魔法をかけられて為、俺とシルヴィは今恩恵も魔法も使う事が出来ないでいるが、互いの紋様は今も光り輝いていた。

 そのお陰で、今も身体の奥底から力が溢れ出している。

 それに、魔法や恩恵が使えなくてもマリアと椿からみっちり鍛えられて仕上げた剣術がある。

 俺達は、まだ戦える!


「「はあああああああああ!」」


 クズ王の心臓目掛けて聖剣とファインザーを突き刺そうとするが、その前にクズ王が俺達に気付いて両腕をクロスさせて、大剣で横薙ぎに振って俺とシルヴィを薙ぎ払った。

 寸でのところで何とか防いだが、俺とシルヴィはそれぞれ左右に吹っ飛ばされてしまった。


(やはり一筋縄にはいかない!)


 だけど、ここで負ける訳にはいかない!

 俺とシルヴィはもう一度立ち上がり、何度もクズ王へと立ち向かっていった。





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