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21 廃嫡と最低な野望


 アルバト王国に入国して8日目。



 俺達は王都が見える所まで来ていた。

 西側には、絵本に出てくるような簡素な外見だけど、他の木に比べるととても大きいな樹木がたくさん生い茂っていた。双眼鏡で見て見ると、木肌と同化していて分かりにくかったが確かに目と口らしきものが見えた。一応シルヴィにも確認してもらったが、枯れ木じゃないというのが気になったが、間違いなくマンイーターだそうだ。


「確かにマンイーターだけど、何であんな姿をしているのかは分からないわ」

「本当にマンイーターがいたんだな」

「僕が王都を発つときもある程度減らしましたけど、やはりきりがありませんね」


 確かに、王都の周りを囲う様にマンイーターが群がっているもんな。ルータオ王子1人では、大した数は減らせられないみたいだ。


「とりあえず、片っ端から狩っていくか」

「狩るにしても、先ずは国王陛下にお会いしないといけません」


 俺とシルヴィは、声を揃えて「えぇええ」と言ってしまった。だって、話を聞く限りではかなり面倒な王様だって聞いたから、何を言ってくるのか分からないし、想像しただけでも憂鬱になってくる。


「僕からもお願いします。勝手に狩ると、その後何を言ってくるのか分かりません。間違いなく、言いがかりしてくると思います」

「うちの騎士達にだって出来たのに勝手にやるな、って言いそうです」

「あぁ、容易に想像がつく」


 3人の王女と王子からそんな事を聞くと、本当にろくでもない王様なんだなって思った。わざわざ退治しに来たというのに、何で言いがかりをつけてくるのだ。


「マリア様の予想してきた事は言わないと思います。父は事なかれ主義な上に、災いが起こっても現状を元に戻す事ばかりに尽力を注いている。おそらく、マンイーターが動いていない事を良い事に見て見ぬふりを貫こうとするだろと」

「バカね。木の姿をしているけど、マンイーターだって歩いて移動する事が出来るのよ。人間が近くを通らなかったら、町や村に入って人間を襲ってくる事だってるのよ」

「マンイーターとはその名の通り、人間が大好物の魔物ですから。近くに人間がいないと、人間を求めて町に赴く事があるのです。そのせいで村や町が壊滅的被害を受ける事だってあるのです」

「王様に言う事じゃないかもしれないけど、バカだね」

「否定できません。父は確かにバカです」


 頭を抱えながらルータオ王子は、首を力なく横に振った。

 事が重大化してからではもう手遅れだというのに、この国の王様は何を考えているのだろうか。重大化というのは、死者が出た時である。多い少ない関係なしに、1人出た時点でもう大事なのだよ。


(大方、人的被害がない事と、今の所ここから動かないというのが原因なんだろう)


 それに、この騎士達があまりにも役立たずだから、ルータオ王子自らがこうして俺やマリアに救援を要請しに行ったのだろ。


「マンイーターは夜行性だから、奇襲をかけるのなら日中が一番の狙い時なのに、何で誰も動こうとしないのかしら。その気になれば、魔物狩りでもない一般人でも倒せるのに」

「確かに、枯れ木の姿をしているマンイーターは火に弱く、マッチ一本でも簡単に倒せますが、あの姿のマンイーターにもマッチ一本の火が通じるとは思えません。大量の松明と油が必要になると思います」


 確かに、あの状態では水分もたっぷりあるだろうから、簡単には燃えないだろうな。マリアの言う様に、大量の松明と油が必要になるだろうな。


「何にせよ、一度王様に会わないとダメか」


 気が乗らないが、先ずは王都に入って国王陛下に謁見を求めないといけないのか。

 なので俺達は、王都に入る為に検問所に向かった。検問所にいる騎士が、一目見て分かるくらいに気怠そうにしていた。面倒臭いというオーラが身体全体から漂っている。


「1人につき金貨20枚。4人だから、金貨80枚ね。ちなみに、銀貨は駄目だ」


 うわぁ、見てハッキリと分かるくらいにこの騎士嘘をついている。だって、目が濁っている上に口元がにやけているぞ。


「ふざけるな。1回の町や村の出入りで、そんな高額な金を要求したりする訳がないだろ。ここ王都の出入りでも、1人につき銀貨1枚だろ」


 強めの口調でルータオ王子が、検問を行っている騎士に言った。王子自らが間違いを指摘したのだから、コイツも引き下がってくれるだろう。


「バカ言うな。国で決めた金額だ。それに異を唱えるという事は、この国に反旗を翻すという事だ」


 そうでもなかった。

 自国の王子相手でも強気な態度を示す騎士に、俺は違和感を覚えた。騎士ならば、王子の顔を知らない訳がない筈。

 自分が仕えている国の王子にそんな態度を取るなんて、向こうが反旗を翻そうと企んでいるようなもんだ。

 そんな態度を取られたら、流石のルータオ王子だってカチンとくる。


「無礼者!私はアルバト王国第一王子、ルータオ・ファン・アルバトだぞ!」

「ルータオ王子?はっ、バカ言ってんじゃねぇぞ」

「……?」


 何かおかしい。

 ルータオ王子に対する無礼極まりない態度、王都への一回の出入りにおいて通常ではありえない金額の要求、一体どういうつもりなのだ。


「よもや、私の顔を忘れたというのか!」

「貴様は大マヌケだ!ルータオ王子殿下なら、王城で婚約者のミエラ様と過ごしていぞ!ルータオ王子の名を騙る偽物が!」

「なっ!?」


 予想外の反応に、ルータオ王子は驚愕の表情を浮かべ、言葉を失っていた。

 王子が城にいて、婚約者と共に過ごしているってどういう事だ。ここにいるルータオ王子が、偽物だというのか?

 それを確かめる為に、俺はシルヴィとマリアに会いコンタクトを送って確認した。2人とも、首を横に振った。


「この方が、正真正銘、本物のルータオ・ファン・アルバト王子だ」

「何度か顔を合わせた事がありますので、間違いありません」


 この2人が嘘を言っているとは思えないし、こいつが本物のルータオ王子で間違いないだろう。

 だったら、王城にいるルータオ王子は一体誰なんだ?

 頭に血が上って、検問をしている騎士に突っかかろうとするルータオ王子を、俺はその肩を掴み制止させた。


「よせ。こんな所で揉め事を起こしたら、こちらの立場がますます悪くなるだけだ。金貨なら持っている。癪だが、ここは要求通りの金額を払おう」

「……申し訳ございません」


 掴み掛りそうになったルータオ王子を制止させ、マリアにお金を払ってもらい、俺達は王都へと入っていった。金貨を持っているのは、この中ではマリアだけだったから。

 王都に入ってすぐ俺達は、宿を取って現在の状況を整理した。


「最初に確認するが、あんたがルータオ王子で間違いないんだな」

「はい。僕が本物のルータオです」

「私達が言うんだから、間違いない」

「いくら汚職が進んでいるとはいえ、王家に仕える騎士が本物の王子が分からないなんて怪しすぎます。ゴディパフ国王は一体何を考えているのでしょうか」


 シルヴィとマリアもこう言っているので、間違いなくここにいる彼が本物のルータオ王子だ。


「だとしたら、王城にいるルータオ王子は一体誰なんだ」

「それなら、私に任せて。ちょうどいい魔物がいるわ」


 得意げな表情を浮かべるシルヴィが、左手を前に出し、床に召喚陣を浮かび上がらせた。


「召喚術ですか。実際に見たのは初めてです」


 シルヴィの召喚術については知っていても、実際に見るのは初めて見たいでルータオ王子は興味津々に見ていた。

 確か、シルヴィと契約している魔物は全部で5体。尤も使用頻度が高いファングレオと、厄竜の一種のファイヤードレイク、そして転移能力を持つレイリィ。となると、残り2体の中に今回の事件の調査にうってつけの魔物がいるのだろうか。

 もしくは、レイリィとの契約の際に丁度良い魔物も出てきたからついでに契約したというのも考えられる。


「さぁ、出てきなさい透明魔物、イヴィ」


 シルヴィの呼びかけに答えるかのように、召喚陣から四つん這いの水色の小さなトカゲの様な魔物が出てきた。サイズとしては、ヤモリより少し大きいくらいであった。


「こんな魔物とも契約してたんだな」

「レイリィを召喚させようとした時にたまたま出てきた魔物で、透明化の能力を持っていたから何か役に立つだろうと思って契約したわ」


 どうやら、後者だったみたいだ。

 透明魔物、イヴィ。

 自身と周りにいる仲間を透明にさせる能力を持ち、レイリィ同様に憶病で非力な魔物で人畜無害。透明にすると言っても、正確には透明にするのではなく光の屈折を利用して見えなくさせているのだそうだ。それに、話し声は普通に聞こえるので、話す時はかなり小さな声で喋らないといけない。


「この子の能力で見えなくさせて、城の中に忍び込んでしまえばいいのよ」

「王城に忍び込むって……」

「シルヴィア様、あなた何気に楽しんでいませんか……」

「まぁ、僕もミエラの事が気になるし、忍び込むって言うのなら反対は致しませんが……」


 乗り気のシルヴィに対して、俺とマリアとルータオ王子は若干呆れ気味であった。やましい事をする訳ではないのだが、どうしても後ろめたさを感じてしまう。


「そんな訳で、善は急げというし、行きましょう」


 やる気満々のシルヴィは、俺達を透明にさせた後イヴィを肩に乗せて部屋を出た。俺達も、シルヴィの後に続いた。透明になるから、俺も3人が見えなくなるのかと思ったが、若干輪郭がぼやけているだけで姿はきちんと見えていた。

 まぁ、どの道城に行く予定ではあったから構わないし、ゴディパフ国王が一体何を考えてルータオ王子は王城にいるという事にしたのか、何故こんな事をするのか気になっていたし。

 なので、イヴィの力によって見えなくなった俺達は、町の中心に立っている王城に正面から堂々と入って行った。それにしても、城を警護している騎士達が欠伸をしながら怠けているのは良くないぞ。


「こちらです」


 ルータオ王子の案内で、俺達は国王がいると思われる部屋の前へと案内された。部屋の中へは、シルヴィが事前に召喚させたレイリィの転移で入った。

 広い部屋の中には、髭を生やしたかなり高そうな服を着たいかにも王様という感じの壮年の男性と、長い金髪をポニーテールに結んだキリッとした感じの男性と、緑が掛かった長い銀髪の大人しそうな女性がいた。他に特徴を言えと言われても困る。興味ないもんで。


「髭を生やしたあの人が、僕の父で国王のゴディパフ・ファン・アルバトです」

「やっぱりそうか」


 まぁ、誰が見てもこの人が王様だろうという格好をしていたから、見間違いようがない。

 ちなみに、金髪の男性の方は従弟のモロゾ・ファン・ヴィテージという伯爵家の長男なのだそうだ。

 そして女性の方は、ルータオ王子の婚約者で子爵家の令嬢のミエラ・ファン・エリステンだそうだ。


「どういう事ですか!今王都は危機的状況に陥っているというのに、こんな所でのうのうとくつろいでどうするのですか!」


 ゴディパフ国王とモロゾに向かって、ミエラが物凄い剣幕で怒鳴っていた。一体何が起こったというのだ。


「マンイーターが何だって言うんだ。あんなの、近づきさえしなければ実害はない。それを討伐する為に王都を出て、隣国のフェリスフィアに救援を求めに行った馬鹿なんてもう忘れろ」


 それに対してモロゾは、キザッたらしくグラスに入った赤ワインを揺らしていた。だから何だ、という感じだな。


「それに、君はこの私の婚約者ではないか」

「っ!」


 自らをミエラの婚約者と言って近づき、彼女の頬に触れようと近づいてきたモロゾ。そんなモロゾに、ルータオ王子が今にもブチギレして暴れ出しそうになっていた。何とかグッとこらえているみたいだが、あまり気分のいい物ではないよな。

 そんなモロゾの手を、ミエラは勢いよく払った。


「ふざけないでください!わたくしの婚約者は、ルータオ様ですわ!」

「だから、この私が君の婚約者、ルータオ・ファン・アルバトではないか」

「「「「っ!?」」」」


 それを聞いた瞬間、俺達はこの男が、否、あの国王が何をしたのかを容易に想像できた。


「バカなの事を言わないでください!いくら国王陛下がそうだと言っても、アナタはルータオ様ではありません!アナタはモロゾ・ファン・ヴィテージではありませんか!」

「国の方針に異議を唱え、この国を軍事国家に変えようとする愚かな王子なんて廃嫡して当然だろ」


 やはり、ルータオ王子が王都を出ている間に勝手に廃嫡させて、代わりにモロゾをルータオ王子にさせたのか。

 そんなモロゾに続いて、ゴディパフ国王が口を開いた。


「マンイーターどもが襲ってくる事は万に一つもない。魔人共が我が国に大襲撃を仕掛けてくる気配もない。何も変わらない。変に警戒しなくても、我が国の平和は保障されたも同然なのだ。それなのにあの愚息は、しつこくマンイーターを倒すべきだと言い、フェリスフィア王国と同盟を結び、共に魔人共と戦うべきだとほざいた。こんな愚かな行為が許されると思うか」


 ゴディパフ国王の言っている事が理解できなかった。

 マンイーターは人間が大好物で、近くに人間が通らなかったら人間を求めて町を襲ってくる事がある危険な魔物なのだぞ。しかも、あの見た目に反してかなり俊敏な動きが出来るらしいし。

 大体、魔人達に備える事がそんなに悪い事なのだろうか。いくら大襲撃の被害に遭っていないとはいえ、何故そこまで楽観的に考える事が出来るのだろうか。

 そんな王の発言に、ミエラは納得いかない様子であった。


「何をおっしゃっているのですか!マンイーターが人里を襲うという話はよく聞きますし、第一こんな状態を続けられたら絶対にこの国が危険な状態になります!」


 どうやらミエラは、今のこの国の状況に危機感を抱いているみたいであった。まぁ、そうじゃないとルータオ王子と婚約しないよな。

 だが、ゴディパフ国王とモロゾは顔を歪ませながら笑った。


「黙れ!この国に最も必要なのは、魔人に対応する力でもなく、争いに加勢しようと目論む愚かな王子でもなく、平和と安息を愛する我等なのだ!」

「そうだ!この国は未来永劫平和であり続けなければならないんだ!魔人共との戦いも、他所の国で勝手にやって私達は平和を謳歌すればいいんだ!」


 何処までも自分勝手な事を口にする2人に、俺は怒りを通り越して呆れかえっていた。魔人との戦いも、結局は人任せにして自分は安全な所でふんぞり返ろうとしているのだから。

 ルータオ王子が、この国を変えたがっているのも分かる。こんな国王なんかに任せても、この国がいずれ滅んでしまうだけだから。魔人だけでなく、キリュシュラインに責められても何の抵抗も出来ないまま降伏するだろうな。


「いい加減にしてください!他国との国交を発ち、世界中で起こっている危機からも目を逸らし、更には騎士達の汚職にまで目を逸らして知らんふりする、これの何処が平和だというのですか!わたくしから言わせてもらえば、こんなのただの怠慢ですわ!」


 彼女の言う通り。国王とモロゾがやっている事は、ただの怠慢である。平和と言っているが、実際には面倒な事から目を逸らして自分自身を守る為に平和を言い訳にしているだけだ。

 そんなのは平和とは言わない。大変な事から逃げて、何も考えずに楽に過ごそうとしているだけ、ミエラの言う通り怠慢である。

 しかし、そんなミエラの声も虚しく、国王とモロゾは逆上した。口の端は釣り上がっていて、表情もかなり歪んでいた。


「そなたこそ!この国の未来を案ずるものの一人として恥ずかしくないのか!我等は野蛮な蛮族の言いなりになって戦うなど、決して許されないぞ!」

「私達は平和を愛する清く正しい王家の一族なのだ!争い事では無く、安息こそが真の平和なのだぞ!」


 もはやこの2人には、何を言っても伝わらない気がした。平和を連呼すればいいというものではない。大事なのは、国民の為に何をすれば良いのかという事ではないのだろうか。それから目を逸らし、ただただ自分たちの身の安全と保身ばかりに力を注ぐあまり、この国は最悪な方向へとどんどん向かっていった。

 あの2人は、結局面倒な事を全て他人に押し付けて、自分は何もせずにのんびりダラダラと過ごすだけ。そして、それこそが平和だと勝手に決め付けている。平和な国が、聞いて呆れるぞ。


「アナタ方では、お話になりませんわ!」


 そう吐き捨てながらミエラは、ドスドスという擬音が聞こえてきそうな歩き方で部屋を出て行った。なかなかに気の強いお嬢様だな。

 戸が完全に締まり切る前に、俺達もミエラの後を追う様に急いで部屋を出た。レイリィも、その短い脚で何とか俺達に付いて来た。


「まったく!ルータオ様がいなければ、この国は終わりですわ!」


 ブツブツと呟きながら、ミエラは用意された来客用の部屋へと入っていった。俺達も、その後に続いた。この人は信用できるかもしれない。


「シルヴィ、マリア」


 ミエラに聞こえないよう、耳元で囁く様にして話した。


「えぇ」

「ルータオ王子だけではなく、彼女も一緒になって先頭に立てばこの状況を何とか出来ると思います」


 2人の許可も出たところで、俺はルータオ王子にミエラも連れて城を出る事を提案した。


「お願いします。ミエラを、あんな男なんかに渡したくありません」

「決まりだな」

「僕が話します」


 ルータオ王子は、ベッドの上で足を組みながら座っているミエラの前まで来た。見えなくなっている為、ミエラはルータオ王子の存在に気付いていない。


「ミエラ、聞こえるか」

「……え?」


 小さな声でルータオ王子が声を掛けると、ミエラは立ち上がって辺りをキョロキョロと見まわした。


「シルヴィ」

「分かった」



 俺の意図を理解したシルヴィは、イヴィの頭を人差し指でちょんちょんと突き、透明化の能力を解除させた。

 俺の目には徐々に輪郭がはっきりしているように見えるが、ミエラから見たら徐々に俺達の姿が見えてきているように見えるのだろう。そして、ルータオ王子の姿を確認すると両手で口を覆い、瞳から涙を流した。


「ミエラ、心配かけてすまなかった。僕が王都を出たばかりに」

「ルータオ様!」


 ルータオ王子の言葉を最後まで聞かず、ミエラはルータオ王子の胸に飛び込み、両手を背中に回して抱き着いた。


「み、ミエラ!?」


 いきなり抱き着かれて、顔を真っ赤にして狼狽するルータオ王子。まぁ、確かにミエラは美人ではあるし、スタイルもいいし、緑が掛かった銀髪も綺麗だから無理もないか(棒読み)。


「ミエラを称賛するのは癇に障りますけど、流石に無表情というのはどうかと思うわよ」

「綺麗な人だとは思ったけど、シルヴィ程じゃないから全然ときめかないんだよな。あと、人の女をそんな風には見れない」

「あの、僕にとっては最高の婚約者ですから、もう少し気持ちを込めてもらいたかったです」


 ルータオ王子からそんな文句が出たが、俺はあえてスルーする事にした。


「ミエラ、マリア様とフェニックスの聖剣士様を無事に連れてきました」

「フェニックスの聖剣士様?」


 そう言ってミエラは、ルータオ王子から一旦離れて俺の顔をまじまじと眺めた。


「まぁ、一応フェニックスの聖剣士をやっている、楠木竜次だ」

「楠木、竜次様」


 まぁ、こんな冴えない男が本当にフェニックスの聖剣士なのかと、疑問に思いたくなる気持ちも分からなくもない。


「一応じゃないでしょ。まったく」

「シルヴィア様まで!?」

「久しぶりね、ミエラ様」

「こうしてお会いするのは半年ぶりですね」

「マリア様も!ご無沙汰しています!」


 シルヴィは軽く挨拶を済ませ、マリアにはスカートの端を少し上げて挨拶をした。


「とりあえず、ここじゃ人が来る可能性もあるから、一旦俺達が泊まっている宿まで一緒に来てくれな……」

「同行させていただきます。あんな人達と過ごすのは嫌ですから」


 最後まで言い切る前に、ミエラは俺達と一緒に城を出る事を承諾した。相当鬱憤が溜まっているな。


「それじゃ、早速転移するわ。レイリィ」


 シルヴィが指示を出すと、レイリィは一瞬で俺達を先程取った宿の個室へと転移させた。よくよく考えたら誘拐になるかもしれないが、あんな所でいろいろ話していると誰かに聞かれる恐れもあるし、何よりミエラがルータオ王子と一緒にいたがっている。会えて嬉しいのか、ニコニコ顔でルータオ王子の右腕に抱き着いていた。


「後で問題にならないか?」

「何を今更。大丈夫でしょう。あの2人は見ての通りの事なかれ主義で大の面倒臭がり屋」

「何も言わずに帰ったという事にして、騒ぎを起こさせないようにすると思います。あの2人は、そういうやつですから」


 それ、滅茶苦茶問題があるだろ。そんなんでよくもまぁ、国王と偽王子をやっていられるな。

 そんな訳で俺達は、ミエラにここまでの経緯を話した。南へと進んでいく途中でルータオ王子に会い、俺とマリアを呼ぶ為にわざわざフェリスフィアまで向かおうとしていた事、更に王都に入る時に本物の王子がいつの間にか廃嫡されて騎士達に罵倒された事も全て話した。


「というかルータオ様、何で路銀を持っていなかったのですか?そもそも、出発される前にあれだけ荷物をまとめていらしていたのに」

「いやぁ……それが途中でファフニールに遭遇してしまって、無我夢中で逃げていったら手ぶらで……」


 ファフニールとは、この世界に災いをもたらすと言われている厄竜の一種で、厄竜の中でも特に極悪で残忍な性質をしているとシルヴィから教えてもらった。

 最初は嘘だと思ったけど、顔が真っ青になっていた上に凄く身体が震えていた。どうやら、ファフニールに遭遇して、その際荷物を全部置いてしまったというのは本当みたいだ。


「ファフニールに遭遇して、よく逃げ切る事が出来ましたね」

「ははは、僕もそう思います」


 笑ってはいるが目が笑っていない。余程怖い思いをしてきたようだ。


「だけど、何でファフニールが出てきたんだろう。それも、アルバト王国に」

「どういう事だ、シルヴィ」

「ファフニールは主に、西の果ての荒れ地に住んでいるドラゴンで、西方ではよく被害を受けているけど、南方に来たという記録は何処にも存在しないの。もちろん、東方や北方でも同じ」

「ファフニールに限らず、厄竜は全て縄張り意識が非常に強く、例えば西方に生息しているドラゴンは西方にしか現れず、他の地方には現れないのです。なので、西方にいるドラゴンが南方や他の地方に足を踏み入れる事は本来あり得ないのです」

「はい。僕もそれには驚きました。幸いと言っていいのか分かりませんが、王都はファフニールの進行方向上から外れていましたので、ここに来る事はありません」

「そうか」


 だけど、西方にしか現れないファフニールが何故こんな所に現れたのだろうか。そもそもそのファフニールは、今一体何処にいるのだろうか。ずっと南に進んでいると聞いたが、一体何処へ向かっているのだろうか。


「ファフニールの事も気になりますけど、この国の事も放って置けません」

「確かに、あと2時間でマンイーターが活発に活動する時間だし」

「そうは言っても、あれ全部を食い止められるかどうか、ちょっと自信がないな」


 何せ数が多すぎる。

 物凄く広い王都の周りをぐるりと囲う様に、たくさんのマンイーターがいるからな。ここの騎士達が役に立たない以上、俺とシルヴィとマリアの3人、ルータオ王子も加えたとしても4人しかいない。だけど、この国の王子であるルータオ王子までも連れだす訳にもいかない為、実質3人で挑まないといけない様なものである。


(いくら規格外のマリアがいたとしても、たった3人であの数を抑え込むのは不可能だ)


 しかも、今回のマンイーターは枯れ木ではなく普通の樹木の姿をしている。


「たった3人で駆逐するなんて無茶です。それに、この周りには普通の樹木もあります。火を使ったら最悪山火事が起こる危険性もあります」


 確かに、山火事を起こしては本末転倒。倒した後の二次被害も考えると、極力火を使った攻撃は控えた方が良いかもしれない。これをきっかけで、この国でも悪者にされても困るし、あの国王とモロゾならやりかねない。


「とは言え、あれだけの数のマンイーターを火も使わずに倒すのは骨だよ。そうなると、単独で戦うのは危険だよ」

「私は大丈夫ですけど」

「そりゃ、マリアは大丈夫かもしれないが、俺達はそうはいかないんだ」


 出来なくはないけど、安全面を考えるとやはり単独で行動しない方が良いだろう。


「まぁ、ミエラはああ言ったけど火は使っても構いません。こんな状況なので、山火事の事をいちいち気にしても仕方がありませんし、王都への侵入を防ぐ為でしたらやむを得ません」

「分かった」


 ルータオ王子はそう言うけど、極力火は使わないようにしたい。後で言いがかりをつけられるのも面倒だし。

 そんな事を考えていると、外が急に騒がしくなっていた。窓を開けて様子を見ると、住民達が何やら慌て町の中央へと走って行っているのが見えた。と言っても、町の中央には王城があるのだけど。


「何があったん……」


 逃げ惑う人達に声を掛けようとした直後、王都の周りから物凄い数の何かが、それも信じられない速さで近づいてきているのが気配で分かった。


「シルヴィ」

「えぇ。間違いないわ。この気配は、マンイーターよ」

「やっぱり」


 とうとう餌を求めて動き始めたか。というか、あんな根っこみたいな足でよくここまで俊敏に動けるよな。これじゃもういつ王都に侵入してもおかしくないレベルだぞ。


「でも妙です。今はまだ日が落ち切っていません。マンイーターが活動するよう様な時間ではありません」

「通常マンイーターは、完全に暗くなってから活動を始める魔物だから、日中のこんな時間に活動を始めるなんて考えられない。何か別の魔物ではないかって勘繰ってしまうわ」


 普通のマンイーターでは考えられない行動に、マリアとシルヴィも驚きを隠せないでいた。

 王城の方に気配を向けると、住民への対応と苦情と暴動に、国王とモロゾは何も出来ずにいるみたいだ。


「この状況に、国王はうまく対応できると思うか?」

「無理です。父は、面倒な事は全て家臣に任せて自分は何もせずにのんびりと過ごすだけですから」

「じゃあ、これであの王の信頼は地に落ちたも同然になるだろうな」


 今まで何もせずに、ただただ怠惰に過ごしてきたツケが今回って来たという事だ。


「とは言え、王子としてこの状況をただ見過ごす訳にはいきません。楠木様、僕を城へと転移させてもらえないでしょうか」

「え?あ、あぁ」


 何で俺に聞く。こういうのは、レイリィを従えているシルヴィに聞くもんじゃないのか?


「楠木様、わたくしからもお願いします。このままなす術もなくマンイーターに蹂躙されるのを、ここで黙って見ている訳にはいきません」

「黙ってって……」


 まるで俺が何もしないみたいな言い方をされたみたいだが、ルータオ王子とミエラ、2人にお願いされればいかない訳にはいかない。


「シルヴィ、頼む」

「分かった、レイリィお願い」


 シルヴィの指示に、レイリィはうんうんと頷きながらルータオ王子とミエラと一緒に王城へと転移した。


「そんじゃ、俺達はマンイーター共を掃除してくるか」

「えぇ。これだけの数が相手なら、腕が鳴るわ」


 気合十分と言った感じで腕を回すシルヴィ。相手は物凄く危険な魔物の筈なのに、なんでそんなに楽しそうにしているんだ。


「その前に、私達はこれに着替えないといけません」

「ん?」


 これから戦いに向かおうとしていた俺に、マリアが収納魔法から何やら葛篭(つづら)に似た箱を取り出し、そのうち一つを俺に渡した。


「竜次様の戦装束です。大襲撃クラスの戦いの時には、これを着て欲しいのです」


 蓋を開けると、確かに前回の大襲撃の際に来た赤色の服と銀色の鎧が入っていた。まさか持ってきていたなんて。


「こちらがシルヴィア様のです」

「そうね。これを着た方が気合も入るってもんよね」

「そういうもんかね」


 だけど、俺もフェリスフィア王国を背負っている為それに恥ずかしくない格好で戦いに挑まないといけない。


「分かった。すぐに準備する」

「私達もすぐに準備をいたします」

「竜次も、遅れないでね」


 2人が自分達の荷物を置いてある部屋に向かうと、俺はすぐに戦装束へと着替えた。


「さて、ここまでお膳立てしてくれたんだから、とっとと全滅させるか」


 準備を終えた俺は、部屋を出てすぐに着替え終えたシルヴィとマリアと合流し、逃げまとう人々をかき分けながら王都の外に出た。




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