表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1/90

1 突然の転移

久しぶりに投稿いたしました。

今日は3話まとめて投稿いたしますが、100話も超えないと思いますので、少しでも長く連載したいので次からは3日に1話というペースで投稿していきます。楽しんでいただければ恐縮です。




 どうしてここにいるのか分からない。




 俺は気が付いたら、見た事もない深い深い森の中にある湖の前に腰を下ろしていた。

 青と白の服を着ていて、革製の軽装を身に着けていて、腰には鳥の羽を模した鍔をした剣が提げられていた。

 そして、最も気になったのが、俺の右の手の甲に羽を広げた鳥の姿が描かれた黄金色の紋様が浮かび上がっていた。

 何故ここにいるのか、そして何故このような格好をしているのか分からないまま、俺はぼんやりと湖を眺めた。

 すると、湖の方から桃色の服に銀色の軽装の鎧を身に着けた長い金髪の少女が姿を現し、柔らかい笑顔を浮かべて俺の方へと近づいてきた。その少女の右の手の甲には、俺の手の甲にも描かれている紋様と同じ紋様が銀色で浮かび上がっていた。

 少女は真っ直ぐ俺の方を見て、紋様が浮かみ上がっている方の手を俺に向けて伸ばしてきた。よく見ると、少女の目は右がサファイアブルーで左がエメラルドグリーンのオッドアイをしていて、この世の物とは思えないくらいに綺麗な容姿をしていた。まるで、美の女神の様であった。

 何か喋っている様だが声は聞こえない。

 でも、それでも俺の手は自然と少女の方へと伸びていった。

 そして、俺の手が少女の手に触れた瞬間、少女から眩い光が発せられた。眩しくも、とても暖かく、心地良く、そしてとても愛おしい。




  ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




「あっ」


 気が付くと俺は、通い慣れた学校の屋上のベンチで仰向けになって眠っていた。正しくは、あと2ヶ月で卒業する予定である。

 時刻は、午後12時半。

 俺の名は、楠木(くすのき)(りゅう)()

 何処にでもいるごくごく普通の高校3年生で、あと3ヶ月で大学生になる。外見的特徴は、とりあえず短い黒髪に黒目で目付きも普通のあまりパッとしない。

 部活は剣道をやっていて、運動はそこそこ得意な方だ。だけど、それ以外は特に何の取りもなく、クラスとも全く打ち解ける事が出来ず、趣味という趣味も特にない為いつも孤立しがち。いわゆるボッチだ。むしろ、皆は俺なんていない方が良いと思っている。

 ある出来事をきっかけに。

 だからと言って、俺に出来る事なんて何もないし、そもそもあんな連中と仲良くする気なんて毛頭ないし、クラスの連中が俺の事をどう思おうが全く関心を持たない。最悪、名前も覚えてもらわなくても構わないと思っている。


「また、あの夢か。回数重なる程に鮮明になっているな」


 先程の光景が妙に頭から離れず、湖から現れたあの少女の事がどうにも気になって仕方がなかった。

高校に入ってからずっと、何度も見てきた夢であった。


「オタク趣味なんて無いんだけど、すごく綺麗な女の子だったな」


 漫画やアニメやラノベは決して見ない訳ではないが、だからと言ってあぁいう夢を見てしまう程のめり込んでいる訳でもない。自分で言うのもなんだが、家に帰っても筋トレをする以外に何もない。逆に言えば、それ以外にすることがないからやっているだけであって、俺は好き好んで筋トレをしている訳ではない。

 そんな俺が、あんな夢を見るなんて今でも考えられなかった。しかも、いかにも漫画の世界から出てきたみたいな少女が出て来るなんて信じられなかった。


「ま、これまでも何度も見てきた夢なんだし、今更気にしても仕方ないか。それより、さっさと教室に戻るか」


 考えるのも面倒臭くなった為、俺は気怠そうにしながら教室へと戻っていった。


「ねぇ見て見て!石澤君よ!」

「上代君も一緒だよ!2人が揃うと絵になる!」


 廊下がやけに騒がしいと思ったら、この学校の男子の中で最も人気の高い二人が話をしながら歩いていた。

 

 石澤(いしざわ)玲人(れいじ)

 隣のクラスの男子で、アイドル顔負けのイケメンで、何時も爽やかな笑顔を浮かべている長身で茶髪の元野球部のエースピッチャー。パッと見は爽やか系の優男だが、俺は知っている。コイツ、実はとんでもない女たらしでクズな奴だという事を。その為俺は、この男の事が中学の時から大嫌いだ。

 

 もう一人の人気者は、上代(かみしろ)(しょう)太朗(たろう)

 特進クラスの生徒で、少し釣り上がった目付きに澄ました態度がクールという事で女子の人気が高い眼鏡が似合う超優等生で、俺と同じ剣道部の元エース。自意識過剰ではないが、実力は俺の方が上なんだけど何故か上代の方が女子の人気が高い。まぁ、クール系のイケメンでスポーツ万能、成績もトップで性格もぶっきらぼうながらも優しいから無理もない。


 ひとまとめに言うと、2人とも俺とは住む世界が違う存在で、正真正銘の主人公である事は間違いないだろう。その内の一人の石澤は大嫌いだけど。

 何て事を考えていると、今度はうちの教室内がざわつき始めた。その訳は、この学校の女子生徒の中でも最も人気の高い2人が偶然にも同じタイミングで教室に入って来たからだ。


 1人は、犬坂(いぬさか)(まな)()

 茶髪のショートカットに、大きな茶色い瞳と明るい笑顔が特徴的な活発系の女子で学校のカーストトップに君臨している、元ラクロス部のエース。スポーツ万能で、スポーツ推薦で体育系の大学への進学を決めている。ただし、お(つむ)が弱いのが難点だ。


 2人目が、秋野(あきの)沙耶(さや)

 授業以外は基本的に本を読んでいる文学系女子で、長い黒髪と切れ長の目が特徴的。一見すると運動が苦手そうに見えるが、こう見えても実は女子テニス部の元エースという一面も持っている。文武両道、才色兼備という言葉が似合う女子だ。


 そんな人気の高い2人が、偶然にも同じクラスに配属しているのだから男子は大盛り上がりであった。俺は盛り上がらなかったけど。


「ま、俺には関係ないけど」


 教室の隅で机に突っ伏せながら、俺は午後の授業が始まるのを待っていた。と言っても、進学先も無事に決まり、卒単も既にとっている俺としてはこのまま寝ても問題ないのだけど。

 そんな時、突然足下が光り出して教室全体を覆った。この事態に俺だけじゃなく、クラスメイト全員が驚き、ざわつき始めた。それは流石の俺も例外ではなく、この異常事態にどうする事も出来ずに動く事が出来なかった。

 人間というのは、こういう時すぐに行動を起こす事が出来ず動く事が出来ないものだと実感した。すぐに逃げれば良いだろと思うのだけど、こういう突然の出来事に何も出来ないのだな。

 目も開けない程の眩い光がしばらく続き、数秒後に光が治まり俺達は見た事もない建物の中に立っていた。

 パッと見は、何処かの宮殿の地下の何処かだと思うけど、俺はテレビでもこんな部屋のある宮殿なんて見たことがない。それ以前に、俺達はついさっきまで学校にいたのにどうしてこんな所にいるのかが分からなかった。


「こんなにたくさん」

「不完全な儀式だったから、人物の特定が出来ずに広範囲にいる人全員を巻き込んだのだろう」

(あ、日本語だ)


 ひそひそと、真っ黒いローブを羽織った魔術師風の男達が言っているが、思い切り聞こえているぞ。というか、儀式って一体どういうことだ。


「仕方がありません。今は人手が不足しています。全員を歓迎しましょう」


 そんな怪しげな男達を割って来たのは、見るからにお姫様と言う感じの風貌の女性であった。

説明が簡略化しすぎ?では詳しく。

 俺達を歓迎した女性は、ふわっとパーマのかかった長い赤色の髪に赤色のドレスを着ていて、顔立ちも整っていて美人と言っても過言ではない女性だ。まるでフィクションの世界のお姫様みたいで、現実離れした美人であった。事実、男子達はお姫様の登場にかなり興奮していて、女好きの石澤なんて胸を躍らせている様子であった。というか、アイツもここに来ていたのか。

 そう。男子なら胸躍る展開なのだが、俺はお姫様を見ても不思議と胸は躍らなかった。俺の中でのお姫様の第一印象は、自意識過剰でワガママで男を食って遊び回っていそうな感じがあった。捻くれた発想ではあるけど、俺はあのお姫様の事を怪しく感じた。


「申し遅れました、わたくしはキリュシュライン王国第一王女、エルリエッタ・メリア・キリュシュラインと申します」


 スカートの端を上げて優雅に挨拶をする、エルリエッタと名乗った王女様。スタイルも良いみたいだな。どうでも良いけど。というか、キリュシュライン王国なんて聞いた事無いのだけど。

 そんな聞いた事のない国のお姫様に先導されて、俺達は石造りの螺旋階段を上がっていき、城の中を歩いていった。ふと窓の外を見ると、中世ヨーロッパの街並みで、街中を歩いている人達もそれに近い格好をしていた。


「スゲェ、まるで異世界に召喚されたみたいじゃないか」

「まるでじゃなくて、間違いなく異世界に来ちまったんだよ」

「うそ!これ夢じゃないのね」


 町の様子を見た瞬間、異世界に召喚されたのだと言って皆がはしゃいでいるが、俺だけは未だに信じられないでいた。確かに、状況的にそう考えるのが妥当かもしれないけど、いくらなんでも話が出来過ぎている気がしなくもない。

 何よりも不自然なのが、こんなにたくさんの生徒を一斉に召喚させる必要があるのかどうかだ。流石に全校生徒が召喚されたわけではないみたいだが、少なくともほぼ全員が3年生で、俺と石澤と上代のクラスメイトが召喚されたと言っても良いだろう。ざっと数えて、100人弱いるぞ。

 異世界ものに疎い俺でも、そのくらいは知っている。そもそもこう言うのって、選ばれたたった1人の勇者が召喚されるものではないのか?

 例えば


「まったく、皆騒ぎ過ぎだな。召喚なんてされても、こっちは迷惑なんだがな」


 志望校へと進学が決まっているのに、向こうの勝手な理由で異世界に召喚された事を腹立たしく思っている上代みたいな奴が選ばれるものだ。


 石澤は……アイツはないな。


(ま、俺の勝手な偏見だから、こっちではそうではないのかもしれないし、そもそもこれが現実なのかも怪しい所だけど)


 ここに来る前俺は、眠るように机の上に突っ伏せていたのでこれが夢なのだと言われればすぐに納得する。というか、現時点ではそれが最有力候補なんだけどな。

 そう思って頬を抓ってみた。滅茶苦茶痛かった。


「これ、現実なの」


 夢ではなかった。

 現実だと言うのは分かったが、ここが俺達の住んでいた世界とは違う世界というのが未だに信じられなかった。受け入れるしかないと理解していても、はいそうですかと簡単に受け入れられない自分もいる。

 そんな問答を頭の中で繰り返しているうちに、俺達は王都謁見する広い部屋へと通された。そこには高そうな服を着たいかにも家臣という感じの人と、鎧を着た騎士団らしき人達が左右に綺麗に並んでいて、俺達は赤い絨毯が敷かれた道をゆっくり歩いていった。

 そして、一番奥の大きな椅子に1人の壮年の男性が座っていた。俺のつたない感性ではどう説明したらいいのか分からず、短めの顎髭と王冠がいかにも王様という感じのする男性であった。もっと詳しく説明しろ、という文句は受け付けない。さっきから俺は、一体誰に言っているのやら。


「ようこそ。我が国を救うべく、4体の星獣の力を宿した聖剣に選ばれた聖剣士達よ。私の名は、ゲイル・エルド・キリュシュライン。偉大なる大国、キリュシュライン王国の国王だ」


 あらら、本当に王様でしたか。というか、大国である事をわざわざ主張する必要なんてなくない。そんでもって、早速俺達が召喚された理由が分かってしまった。


「4体の星獣の力を宿した聖剣って、どういうことですか?」


 早速うちの女子のカーストトップの犬坂が、手を挙げて王様に質問してきた。王様相手に無遠慮じゃねぇと思ったが、王様は特に気にした素振りを見せていない……ように見えて、微妙に眉の端がピクッと動いた。どうやら、犬坂の無遠慮な態度に若干イラっときたな。

 イラっときても、王様は俺達に分かりやすく説明してくれた。


「先ずはこれを見てくれ」


 そう言って王様は、自身の横に立てかけられている4本の剣を指した。4本の剣は、どれも金を基調としているものの、鞘に収まってはいるが鞘の模様から刃の形も太さもそれぞれ違っていた。

 そして一番の特徴は、鍔の形もそれぞれ違う形をしていた。

 1本はドラゴンの翼に似た形をしていて、1本はライオンの盾髪の様な形をしていて、1本は細長い一本の棒のように見えて、そして1本は亀の甲羅のような形をしていてこれは鍔と呼べるかどうか怪しい。


「あの4本の聖剣にはそれぞれ、ドラゴン、獅子、ユニコーン、亀の、4体の星獣の力が宿っていて、それぞれが特別な力を宿していると言われている」


 何となく展開が見えてきた。

 その後の王様の説明によると、この国は未曽有の危機に見舞われていて、人ならざる異形の魔人たちによる侵略を受けているのだという。魔人たちは、この国にたくさんの怪物たちを率いて攻め込み、人々を恐怖のどん底へと陥れているのだという。彼等はそれを、「大襲撃」と呼んでいる。


(そのまんまだな)


 そんな危機的状況を打開するために、国王はかつてこの国を救ったと言われている4人の新たな聖剣士たちを召喚したのだという。だが、人手が足りなかったせいか、人物を特定できず聖剣士の周りにいた人達をたくさん巻き込んでしまったのだという。

 まぁそもそも、魔法が存在しないこの世界では聖剣士を召喚させるだけでもかなりの準備と人手と魔力が必要みたいだ。と言うか、異世界なのに魔法は存在しないのかよ。魔力は存在しているのに不思議。

 話を戻すと、選ばれた4人以外はただただ巻き込まれて召喚されただけだと言うのか。うわぁ、なんて迷惑(棒読み)。

 しかもこの召喚術、こっちに呼ぶことは出来ても元の世界に戻す事が出来ないのだそうだ。なお迷惑(棒読み)。

 これには一流大学への進学を決めた生徒達からの批判が強かったが、王様が深々と頭を下げて謝罪する様を見て流石に分が悪くなったらしく、それ以降は黙った。いやいや、そこはもうちょっと厳しく問い詰めた方が良いぞ(棒読み)。

 そんな時に、秋野が手を挙げて質問をしてきた。


「でしたら、その聖剣を使うに相応しい聖剣士はどうやって見つけるのですか?こっちは大体100人もいるのです。そんな中で、聖剣に選ばれたたった4人をどうやって探すと言うのですか?」


 尤もな疑問であった。

 元々4人だけを召喚する筈が、その周りにいる人達全員を巻き込んで召喚させてしまった結果、100人弱という馬鹿げた数が召喚されたのだ。もっとしっかりと準備を整えていれば、こんな事にはならなかったのに。マジ迷惑(棒読み)。


「それについては問題ない。選ばれた聖剣士の手の甲には、それぞれドラゴンと獅子とユニコーンと亀の紋様が浮かび上がると言われている。意識を集中させて見てごらん」


 いきなり集中しろだなんて言われても、「分かりました」と言ってすぐに意識を集中できるものではないのですけど。つか、どうやって意識を集中させれば良いのだ。

 まずそれが分からない俺は、皆に合わせてとりあえず目を瞑ってみた。これで何か分かる訳がないし、そもそも俺みたいな根暗で無気力な男が聖剣士な訳が絶対にない。

 しばらくすると、周りから「おおぉ!」という歓声が聞こえた。目を開けてみると、ほぼ予想通りの4人が聖剣士として選ばれたみたいだ。

 ドラゴンの聖剣士に選ばれたのは、石澤(いしざわ)玲人(れいじ)

 獅子の聖剣士に選ばれたのは、上代(かみしろ)(しょう)太朗(たろう)

 ユニコーンの聖剣士に選ばれたのは、犬坂(いぬさか)(まな)()

 亀の聖剣士に選ばれたのは、秋野(あきの)沙耶(さや)

 4人の手の甲には、それぞれ黄金色に輝くドラゴンと獅子とユニコーンと亀の紋様が浮かび上がっていた。どうやら、残った俺達はこの4人に巻き込まれて召喚されてしまったみたいだ。

 ま、俺は聖剣士なんて柄じゃないからそれで充分だ。

 残った生徒は、見知らぬこの土地でどうやって生きていけばいいのかと頭を抱えている中、俺はこの世界にはどんな職業があるのだろうかという事を真っ先に考えてしまった。

 ま、俺は俺で気楽に生きていけばいいか。





この作品を書いている間、投稿しようかやめようかと何度も悩みました。そうこうしているうちに、気が付いたらかなりのストックが溜まりました。

最初にこの作品を書いたのは去年の9月あたりなのに、投降を決意するのにかなり時間が掛かってしまいました。お恥ずかしながら。

だけど、せっかく書いたのですから投稿しようと思いました。

よろしければ、感想と誤字脱字の報告をお願いします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ